会社の役員(取締役・会計参与・監査役)は、会社との委任契約に基づいて経営を託されている者であって、基本的には、従業員とは異なる立場とされる。
従業員である身分と取締役である身分とを兼務する「使用人兼務役員」(以下、単に「兼務役員」と呼ぶ)というのもあるが、それであっても、それぞれの身分における立場や役割は明確に区別しておかなければならない。ちなみに、会計参与・監査役は、従業員であってはならない(会社法第333条第3項・第335条第2項)ため、会計参与・監査役に係る「兼務役員」という概念は無い。
さて、役員は、従業員(=労働者)ではないのだから、労働関連諸法令の適用を受けない。すなわち、役員に就任した者は、労働者としての法的保護を受けられないこととなる。
かつて、それを悪用して、従業員の大多数を取締役に就任させてしまった会社があった。そうすれば、労働基準法の制限に関係なく働かせることができ、残業代も(そもそも賃金自体すら)支払わなくても(労基法上は)許される。労働安全衛生法も、労働契約法も、男女雇用機会均等法も、役員に対しては事業主としての義務を負わない。
これは妙案のようにも思えるが、訴訟に発展した事例を見る限り、会社の言い分が否認され、労働者性が認められた裁判例がほとんどだ(東京地判H24.5.16、京都地判H27.7.31ほか)。
裁判所は、おおむね以下のような観点で判断している。
(1) 社長の指揮監督に服していたか
(2) 勤務場所や勤務時間の拘束を受けていたか
(3) 対価(役員報酬)の決定方法やその額
(4) 取締役会に出席していたか
(5) 従業員としての退職金を支給されたか
つまり、役員としての役割を持ちそれなりの処遇を受けているなら問題ない。しかし、実態が従業員と変わらないのであれば、それは労働者として保護されるべきであって、残業代(労働基準法第41条第2号に定める管理監督職であるとしても深夜労働に係る割増賃金は対象となる)も支払わなければならないのだ。
しかも、訴訟沙汰になったら、裁判所から未払い賃金額と同一額の付加金(労働基準法第114条)支払いを命じられる可能性まである。
そう考えると、こういう「名ばかり役員」は、リスクが高いと言わざるをえないだろう。
なお、まれに混同される向きもあるが、「執行役員」は、法令上の役員ではない。執行役員は、言わば名誉職的な意味合いの役職であって、法令上の扱いは一般の従業員と何ら変わらないことを理解しておきたい。
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