※前回の記事「無断欠勤のケース別対処法」のうち「逮捕・勾留」のケースにつき、少々説明不足の感がありましたので、その補足を交えて1本の記事に編集しました。
従業員が私生活における犯罪行為の疑いで逮捕された場合、会社はどう対処したらよいか戸惑ってしまうかも知れない。
しかし、そういう場面でこそ、冷静な判断が求められる。
さて、逮捕されると本人は外部に連絡できなくなり、自ずと「無断欠勤」になる。
とは言っても、誤認逮捕等、本人に非の無いケースもあるので、無断欠勤したことだけをもって拙速に懲戒処分その他不利益な取り扱いをするのは避けたい。
もっとも、逮捕・勾留期間中は労務の提供がなされなかったのは事実であるので、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に基づき、不就労時間に相当する賃金を不支給とすることは差し支えない。
ただ、それも、年次有給休暇の事後申請を認める制度や慣習のある職場では、本人が申請したら有給扱いしなければならないことになる。 これは、本人に非のある逮捕だったとしても(会社の立場からは納得できないかも知れないが)同じだ。
そして、釈放後または接見時に本人から事情を訊き、状況次第で懲戒処分を検討することになる。
ただ、会社が懲戒権を行使できるのは職場規律を維持するためであるので、私生活における犯罪行為(それが事実であったとしても)を理由として会社が懲戒するのは、直接的には認められない。 その行為によって会社が有形または無形の損害を被った場合に限り制裁を科すことができる、と理解するべきだ。
しかも、懲戒処分は、社会通念上相当なものでなければならない(労働契約法第15条)。 特に懲戒解雇・諭旨解雇等、取り返しのつかない処分を科す場合には慎重を期したい。
また、就業規則等に懲戒委員会の議を経たり本人の弁明を聞いたりするべき旨が定められているなら、それらの手順を省いた懲戒処分は無効とされる(東京地決H23.1.21、東京地判R2.11.12等)ので、その点にも注意を払っておく必要がある。
さらには、会社によっては「起訴休職」が設けられていることもある。
これは勾留が解かれても確定判決が出るまでは出社させないという制度で、有給とするものと無給とするものがあるが、どうであれ、就業規則等の定めに従うことになる。 これの適用についても、本人に非のありなしは関係ない。
以上を整理すれば、 ①「逮捕=犯罪行為」と短絡的にとらえてはならず、 ②犯罪行為が事実だとしても懲戒処分を科すには合理性・相当性を要し、 ③処分内容の決定も勤怠の取り扱いも社内ルールに則るべき、ということになる。
従業員の逮捕という特殊案件に際しても、冷静さを失って訴訟に発展した場合の金銭リスクやレピュテーションリスクに会社を晒すことの無いよう、落ち着いて対処したい。
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