土用丑の日に鰻(うなぎ)を食するのは、「平賀源内が『本日丑の日』と店先に貼り出すことを勧めて鰻屋が大繁盛した話から」というのが、一応の定説だ。
たしかに、夏の暑い盛りに栄養価の高い食物を摂るのは理に適ってはいる。しかし、なぜ「丑」の日なのかは不明瞭だ。どちらも「う」の字を用いているからという説もあるが、それを言うなら「卯(うさぎ)」の日でも良いはずだ。
まあ、発端はどうであれ、土用丑の日にウナギを食べる習慣は、一般的に根付いている。
しかし、この、一番の書き入れ時であるはずの土用丑の日に休む鰻屋もある。
都内では、東麻布の「野田岩」、神田明神下の「神田川」、池袋の「かぶと」、阿佐ヶ谷の「阿づ満や(正しくは「あづまや」の変体仮名)」は、昔から丑の日を休む店として有名だ。また、筆者は直接は知らないのだが、日光の「澤本」や岡崎の「桝八」という店も同様と聞く。
「阿づ満や」の女主人に丑の日を休む理由を尋ねたところ、「店が混雑してしまって良い仕事ができないから」との話であった。なるほど、言われてみれば、客として混雑している日を選んで行くと、「捌きや焼きの雑な物」を出されるか、「大量に作り置きしておいたような物」を出されるか、さもなければ「うんと待たされる」か、のどれかに違いなかろう。また、一見客で店が込むと常連客に迷惑を掛けてしまうという理由もあるのかも知れない。
昔ながらの老舗は、一時の売上アップよりも永年積み重ねてきた信用の方を大事にするということだろう。
ところで、丑の日に休業するのは、そんな“職人気質”の理由ばかりでなく、労務的な観点からも意味がある…‥
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