ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

民間の「ゆう活」効果検証は「生産性」を指標に

2019-08-23 11:09:07 | 労務情報

 国家公務員の朝型勤務「ゆう活」が始まって早5年、政府機関や地方自治体では一定の効果があるものとして、この夏も実施されている。
 また、民間企業でも同様に、夏季期間中の始業時刻および終業時刻を早めている所が増えてきた印象だ。

 ところで、試験的に「ゆう活」を導入した企業では、テスト期間が終了したら効果を検証するべきだが、その際には「労働時間」を検証の指標に用いてはならない。
 「始終業時刻を繰り上げたことで労働時間が短縮できた」なら一定の効果があったと評価できるのではないかとの論もあろうが、それは、生み出した付加価値が同じであることが前提の話だ。

 民間企業が朝型勤務を導入する目的は、「生産性の向上」に帰結する。
 自由になった時間を休養に充てるにしても、自己啓発や家族とのふれあい等に充てるにしても、それによって良質な労働力を再生してもらうことに、会社にとってのメリットがあるわけで、生産性が向上しなければ「始終業時刻を繰り上げた効果は無かった」と言っても言い過ぎではなかろう。

 ここで言う「生産性」とは、「付加価値/労働時間」の算式で求められる数値(人時生産性)のことだが、それを用いるのが適切でない業務やそもそも付加価値を数値化しにくい業務等については「業務量(標準的な所要時間の総計)/労働時間」の算式を用いても問題ない。 要は、始終業時刻を繰り上げたことの効果を事前事後で比較できれば良いのだから。
 もっとも、分母が小さくなれば生産性が上がる計算なので、それを理解したうえで「労働時間の短縮」を「ゆう活」の目的の一つに入れるのは差し支えない。 しかし、例えば「従業員を早く退勤させるために業務量を減らした」などというのは、“本末転倒”な話だ。

 そして、検証の結果、「効果あり」と判断されたなら、今後も(お役所のように「来年の夏」と言わずに9月以降も)継続して実施することを考えたい。 「フレックスタイム制」等によって同様の効果が期待できる企業は、何も「ゆう活」にこだわらず、柔軟に代替案を検討しても良いだろう。


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労働時間の“状況”の把握とは?

2019-08-13 15:59:36 | 労務情報

 労働基準法第41条は、管理監督者(※)には労働時間等に関する規定を適用しない旨を定めている。そのため、タイムカードやICカード等の制度を導入している企業であっても、管理監督者に該当する従業員については、これらの打刻義務を免除する、出勤時のみ打刻する(退勤時は打刻しない)、といった例が見受けられた。今年の3月までは。
 (※)ここで言う「管理監督者」とは、社内で呼称される「管理職」とは少し意味が異なり、「経営者と一体的な立場にある者」を指す(S22.9.13発基第17号)。

 しかし、働き方改革関連法の一環として労働安全衛生法が改正され、この4月からは、管理監督者を含むすべての労働者(ただし高度プロフェッショナル制度の適用者を除く)について「事業者は(中略)労働時間の状況を把握しなければならない」とされた(同法第66条の8の3)。
 具体的には、タイムカード、パソコン使用時間の記録、事業者の現認等の客観的な記録により、労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければならない(H30.12.28基発1228第16号)。

 さて、ここで気を付けたいのが、「状況」という二文字だ。
 そもそも管理監督者や裁量労働適用者は、始業・終業・休憩時間はもとより労働の密度でさえ自ら決定することができ、そこに「労働時間」という概念は(本来は)無い。しかし、それが過重労働につながっている現状を鑑みて、厚生労働省は「労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったか」(同通達)という少し広い概念を「労働時間の状況」と定義し、これの把握を事業主に義務づけた。
 つまり事業主は、管理監督者や裁量労働適用者についても他の従業員と同様に出退勤時刻を把握しなければならないわけだが、それだけに止まらない可能性がある。というのは、管理監督者や裁量労働適用者は社外(在宅中を含む)においても「労務を提供し得る状態」にあることが少なくないからだ。
 行政通達の文面からは、そうした時間もすべて把握しなければならない、と読める。この点、行政当局がどのように運用していくか、今後の動きを注視しておきたい。

 ところで、この規定は、同法第12章に定める罰則の対象には含まれていない。しかし、従業員や退職者(場合によりその遺族)から「過重労働により健康を害された」などとして民事訴訟を提起された場合には、法律に定める義務(「努力義務」ではなく「義務」)を果たしていない会社は、それだけで不利になる。
 もっとも、刑事罰を逃れたり民事訴訟で有利に立つためではなく、従業員が健康で働いてくれることが会社にとっても望ましいはずだ。労働時間の“状況”の把握は、「義務」というより「経営に必須の事項」と認識するべきだろう。


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事業場の閉鎖における従業員の解雇

2019-08-03 19:59:03 | 労務情報

 会社経営にあたっては、特定の事業場(工場や店舗)を閉鎖しなければならないことがあるかも知れない。
 しかし、職場がなくなるからと言って当然にそこで働く労働者を解雇できるわけではない。
 事業場閉鎖においても、「整理解雇の4要素」(a.人員削減の必要性、b.解雇回避努力、c.人選の妥当性、d.労働者側との協議)によって解雇の有効性が判断されるところ、(a・c・dは考慮する余地がないとしても)bをおろそかにすると、権利の濫用としてその解雇が無効とされる可能性もあるからだ。

 さて、その解雇回避努力の具体的措置としては、希望退職者募集、労働時間短縮、一時帰休等も挙げられるが、事業所閉鎖のケースでは「他部署への配転や関係会社への出向等を検討すること」と言い換えられるだろう。
 会社が提示した配転や出向を本人が拒絶したなら、そのときこそ解雇(経緯によっては「業務命令違反」に該当する場合もある)を選択するべきだ。また、配転や出向が現実的に難しければ必ずしも本人に打診しなくてもよいとされる(静岡地浜松支判H10.5.20、横浜地川崎支判H14.12.27等)が、少なくとも“検討”しなければ解雇回避努力を尽くしたとは言えない。

 また、意外に思われる向きもあろうが、これは「勤務地限定社員」についても同様だ。
 もっとも、勤務地限定は労働者側の都合で条件を付しているケースが多いので、本人が配転や出向に応じる可能性は薄いが、だからと言って解雇回避努力が不要ということにはならない。

 それから、失念しがちなのが、業務災害により休業している者および産休中の者については解雇できない(労働基準法第19条)ことだ。閉鎖する事業場に該当者がいる場合は、当面は「本社預かり」「人事部付」などとしておき(本人は休業中のため職務内容や通勤の問題は発生しない)、休業明けの時点で、配転または出向を命じるか、30日後に解雇するかを選択するのが一般的な対応だ。もちろん、事情を説明して退職を勧奨してもよい。

 ちなみに、「転籍」(「転籍出向」、「移籍」とも呼ばれる)は、「出向」(ここでは「在籍出向」のことをいう)とは異なり、今の雇用関係を解消して(すなわち、解雇を前提として)他社に雇用されることになるので、このケースでは、「解雇回避」というより、「再就職支援」に近い概念だ。
 とは言え、ただ解雇するだけよりも望ましいには違いないので、会社としては転籍も選択肢に入れて検討するべきだろう。

 事業場閉鎖の責任は、言ってみれば経営の失敗に他ならず、そうなった以上は、労働者の不利益を最小限に止めることを考えるのが、正しい経営者の姿と言えるのではなかろうか。


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