給与は、原則として通貨で支払わなければならない(労働基準法第24条)が、労働者の同意を得た場合には「銀行・証券会社等の本人口座への振り込み」・「退職手当に限り小切手等での支払い」が認められてきた(同法施行規則第7条の2)。
これをデジタル通貨(「〇〇ペイ」等と称する“日本円”の電子マネーを指す;“外国通貨”や“仮想通貨”は対象外)での支払いも可能とすることについて、ここ4年ほど議論されてきたが、今年8月に「資金移動業者の口座への賃金支払いに関する厚生労働大臣の指定」第1号が出され、ようやく実現する運びとなった。
ただ、現時点では、その指定業者のグループ会社10社に限る、言ってみれば“テスト運用”といった扱いだ。 その指定業者の発表によれば「年内にすべてのユーザー向けにサービスの提供を開始予定」としている。
※グループ外の会社向け(まだ限定的だが)へもサービス提供を開始した旨、指定業者が発表(11月5日)
では、この仕組みが本格稼働したら、会社はそれを積極的に採用するべきなのだろうか。
会社にとって給与をデジタル払いにすることの最大のメリットは、指定業者の法人口座を保有していれば(現時点では)振込手数料が掛からないことだろう。
しかし、個人の1口座保有残高は(現時点では)20万円までとされているため、それを超える金額が振り込めないのはもちろん、それ以下であっても受け入れる余地が不足する(その場合は予め指定した「代替口座」に支払われる)可能性が生じる。 だとすると、給与の全額を資金移動業者の1口座のみに振り込むのは現実的でなく、給与を分割して支払うことになり、振込手数料が無料であることのメリットは薄れてしまう。
現に複数口座での給与受け取りを認めている会社であれば、その選択肢を増やして従業員の利便性を高めることもメリットになりうるが、これから新たに給与の分割払いを始めるのは、担当者の労力やミス・トラブルのリスクまで考えると、慎重にならざるを得まい。
また、給与のデジタル払いを導入するには、以下の手順を踏まなければならない。
1.指定資金移動業者の確認、サービス内容の検討
2.過半数労働組合または過半数代表者との労使協定の締結、就業規則等の改定
3.従業員への説明と個別同意
これらは、通常の銀行口座への給与振り込みにあたっても必要な手続きである(平成10年9月10日基発第530号;令和4年11月28日基発1128第4号)のでデジタル払い特有のものではないが、新たに採用するとなるとハードルが高いと感じる経営者も多いだろう。
給与の支払い・受け取りに関する事項なのでその確実性・安全性を考慮すると仕方ないのかも知れないが、当初期待されていた「デジタル社会の到来」には(現時点では)程遠い印象だ。
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