労働契約上、会社は、従業員に対し、労務の提供を命じる権利を有する。 したがって、その具体的な業務(配属)を決めることも、その派生として配置転換を命じることも、基本的には(当事者間に職種限定の特約がある場合を除き)、会社の裁量で可能だ。
これは「人事権」(会社が有する「経営権」に属する権限の一つ)と呼ばれ、従業員は、特段の事情の無い限り、これに従わなければならない。
このことは、会社が「解雇権」を制限されていることの、いわば“裏返し”という見方もある。 すなわち、会社の責めに帰するケース(典型例は整理解雇)はもとより、本人側に非のあるケース(例えば私傷病や能力不足等、場合によっては懲戒解雇に相当する事案ですら)であっても、会社は、配置転換等によって解雇を回避するよう努めなければならないのだ。
それならば、そうであればこそ、会社は、長期雇用を前提とした人材育成を図るべきであり、そのためにも人事権を有効に行使するべきと言える。
具体的には、計画的な「ジョブローテーション」の導入を検討したい。
ジョブローテーションには、次のようなメリットがあるとされる。
(1) 個々人の隠れた適性を発見でき、適材適所の人事が可能となる
(2) 受け入れ部署では、別の視点をもった社員を迎えることで組織の活性化が図れる
(3) 前任者の手順を見直すことでミスや不祥事を防ぎ効率を高めることが期待できる
(4) 従業員にとっては新たな知識・技術を身に付ける機会となる(マンネリの打破)
(5) 他部署の事情を理解しあうことで、社内の風通しを良くし、一体感を醸成できる
もっとも、ジョブローテーションにはデメリットもある。
(1) 業務の引き継ぎに費用と時間を費やされる
(2) (一時的に)生産性が低下する
(3) 配置転換が従業員のディモチベーションとなりうるリスクがある
このような理由を挙げてジョブローテーションを実施していない会社(特に小規模企業)も多く見受けられる。
しかし、そういう会社の人事は、実のところ「欠員補充」を主とする「場当たり人事」になってしまってはいないだろうか。 そんな“後ろ向き”な人事よりも、「多能工化」や「情報やノウハウの共有化」を企図したジョブローテーションのほうが、特に人的資源の限られている小規模企業には、メリットが大きいはずだ。
皮肉にもこの景況下で業務に余裕ができた会社にとっては、今が、(上に挙げたデメリットを勘案したうえで)ジョブローテーションを試行してみる好機と言えるのではなかろうか。
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