ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

退職金前払い制度の導入は、実質的に「退職金制度の廃止」

2017-04-23 15:49:19 | 労務情報

 厚生労働省が平成25年に実施した就労条件総合調査によれば、直近3年間に退職一時金制度を見直した企業は全回答の11.3%に上り、「3年以内に見直す予定あり」と回答した企業も6.8%あった。実際、退職一時金制度のある企業は、平成20年の同調査で73.2%だったものが、平成25年には66.7%に減少している。(ちなみに、平成15年以前は調査対象企業の抽出基準が異なっていたため数字を比較するのが適切でない。)

 さて、退職一時金(以下、単に「退職金」と呼ぶ)制度の見直しにおける受け皿の一つとして、「退職金前払い制度」が選択肢に挙げられる。
 これは、将来支払うこととなる退職金を月々の給与や賞与に上乗せして支払うというもので、平成10年に松下電器産業(現・パナソニック)が導入して話題となったのを覚えている人も多いだろう。
 従来型の退職金制度は、(1)賃金の後払い、(2)功労への報償、(3)退職後の生活保障 の3つの性格を併せ持つと言われ、その効果として、従業員の定着や人材の確保に寄与してきた。しかし、退職金前払い制度を導入すると、こうしたメリットはことごとく失われてしまう。
 しかも、退職所得に対する税制面での優遇措置は適用されず、また、給与や賞与は社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険)の算定基礎にもなるため、本人も会社も負担が増えることは、デメリットとして、この制度を導入すべきか否かの判断材料に加えなければならない。

 このように考えれば、退職金前払い制度は、退職金制度の理念を根底から覆すものと言え、その名にこそ「退職金」を含むものの、むしろ「退職金制度を廃止するにあたっての代償措置」として検討するのが実態に即した見方だろう。
 ついでに言えば、従来型の退職金制度を持たない会社が新たに退職金前払い制度だけを導入するということはありえない。

 なお、退職金制度の理念を継承しつつ見直しを考えるなら、「確定拠出年金」や「確定給付年金」、あるいは「中小企業退職金共済」(中小企業に限る)などの外部積立型に移行するのが定石とされてはいる。
 しかし、これらの制度を導入した場合、労働者側のメリットは残せるとしても、たとえ懲戒解雇であっても規定通りの金額が退職者に支払われてしまう(事情によっては減額も可能だがその分が会社に戻るわけではない)など、会社側にとっては、従来型の退職金制度に期待していたようなメリットが薄れてしまうことは承知しておかなければならない。


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「勤務間インターバル制度」の導入は助成金が支給されるうちに

2017-04-13 18:19:35 | 労務情報

 大手広告代理店の新入社員が過労自殺した事件もあって、過重労働防止に関する規制が厳しくなりつつある中、「勤務間インターバル制度」が注目されている。
 これは、終業から翌日の始業まで一定時間を空けることとするもので、EU(ヨーロッパ連合)において労働時間指令(1993年制定、2000年改正)の1項に「24時間につき最低連続11時間の休息期間を付与」と定められているのを参考にした制度だ。

 具体的な例を挙げれば、所定就業時間が午前9時から午後6時までの会社でインターバル11時間を設けた場合、夜11時まで残業した翌日は11時間後の午前10時に出社すれば良いことになる。
 なお、このケースにおいて、「始業が遅くなった1時間分、終業時刻を午後7時に繰り下げる(1日の労働時間は変えない)」とするのは、「インターバル」という用語の定義からは正しいように思えるが、既にこの制度を導入している会社では、始業が遅くなっても定時出社したものとみなして取り扱うこととしている例がほとんどのようだ。

 これまで、政府による長時間労働の是正施策は、時間外割増率の引き上げにしても、長時間労働者に対する医師の面談制度にしても、「一定期間における総労働時間」を指標にしたものが中心であったが、この「勤務間インターバル制度」は、「休息時間」という新たな指標によるもので、これによって「働く人の心身の健康を保持する」という本来の趣旨に直結した、より実効性の高い政策として期待もされている。
 ちなみに厚生労働省では、この制度を導入した企業に対する「職場意識改善助成金」を支給することとしている。

 勤務間インターバル制度は、仕組みが分かりやすく導入しやすいこともあって、労使どちらからも特段の反対意見は表明されていない。
 よって、これが「助成金による推進」でなく、「法令による義務づけ」になる日もそう遠くはなさそうだ。導入することに問題の無い業態であれば、助成金が受けられるうちに制度化を検討するべきだろう。


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日によって就労時間が異なる者の有休取得日

2017-04-03 18:59:01 | 労務情報

 年次有給休暇(以下、「有休」と略す)は、原則として、労働者が任意の日に取得できることになっている。
 労働基準法では、有休取得日の具体的な指定に関して会社が権利を行使できるのは「労使協定に基づく計画的付与」と「事業の正常な運営を妨げる場合における時季変更」に限定しており、それ以外は、労働者が指定した日に有休を取らせなければならないとしている。

 そして、意外に思う人もいるかも知れないが、この規定は、日によって所定労働時間数が異なる労働者についても、同じ扱いが適用されるのだ。例えば“土曜半ドン”の勤務体系において、金曜に休もうが土曜に休もうが1日分の有休を使うのに変わりはないのをイメージすると理解しやすいだろう。(本稿においては、“半休制度”や労働基準法第39条第4項に基づく“時間単位付与”は採用していないものとする。)
 となれば、有給休暇は、その名の通り“賃金の出る休暇”なのだから、労働者としては所定労働時間の長い日にこそ取りたくなるのも自然であろう。逆に、会社としては、所定労働時間の短い日に休んでもらいたいところだ。特に時給制の従業員については、有休取得日の賃金が目に見えて発生するので、その傾向が強まる。

 では、有休取得日の賃金を、「所定労働時間分の通常の賃金」ではなく、「平均賃金」もしくは「標準報酬日額相当額」(労使協定の締結要)とするのはどうだろうか。もちろん合法(労働基準法第39条第7項)であるし、そうしておけば、どの日に休んでも同じ額の賃金が支払われるので、労働者は所定労働時間の短い日に休みやすくなるという寸法だ。
 これは、一見妙案のように思えるが、冷静に考えてみると、会社にとっては不利になる話だ。つまり、所定労働時間の短い日に休んだ場合でも平均賃金または標準報酬1日分を支払うことになるので、結局、コスト面から見れば得策とは言えない。
 むしろ、この策を講じるのは、所定労働時間の長い日に休まれることによる“業務効率の低下”を極力抑えるためと認識すべきだ。


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