厚生労働省が平成25年に実施した就労条件総合調査によれば、直近3年間に退職一時金制度を見直した企業は全回答の11.3%に上り、「3年以内に見直す予定あり」と回答した企業も6.8%あった。実際、退職一時金制度のある企業は、平成20年の同調査で73.2%だったものが、平成25年には66.7%に減少している。(ちなみに、平成15年以前は調査対象企業の抽出基準が異なっていたため数字を比較するのが適切でない。)
さて、退職一時金(以下、単に「退職金」と呼ぶ)制度の見直しにおける受け皿の一つとして、「退職金前払い制度」が選択肢に挙げられる。
これは、将来支払うこととなる退職金を月々の給与や賞与に上乗せして支払うというもので、平成10年に松下電器産業(現・パナソニック)が導入して話題となったのを覚えている人も多いだろう。
従来型の退職金制度は、(1)賃金の後払い、(2)功労への報償、(3)退職後の生活保障 の3つの性格を併せ持つと言われ、その効果として、従業員の定着や人材の確保に寄与してきた。しかし、退職金前払い制度を導入すると、こうしたメリットはことごとく失われてしまう。
しかも、退職所得に対する税制面での優遇措置は適用されず、また、給与や賞与は社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険)の算定基礎にもなるため、本人も会社も負担が増えることは、デメリットとして、この制度を導入すべきか否かの判断材料に加えなければならない。
このように考えれば、退職金前払い制度は、退職金制度の理念を根底から覆すものと言え、その名にこそ「退職金」を含むものの、むしろ「退職金制度を廃止するにあたっての代償措置」として検討するのが実態に即した見方だろう。
ついでに言えば、従来型の退職金制度を持たない会社が新たに退職金前払い制度だけを導入するということはありえない。
なお、退職金制度の理念を継承しつつ見直しを考えるなら、「確定拠出年金」や「確定給付年金」、あるいは「中小企業退職金共済」(中小企業に限る)などの外部積立型に移行するのが定石とされてはいる。
しかし、これらの制度を導入した場合、労働者側のメリットは残せるとしても、たとえ懲戒解雇であっても規定通りの金額が退職者に支払われてしまう(事情によっては減額も可能だがその分が会社に戻るわけではない)など、会社側にとっては、従来型の退職金制度に期待していたようなメリットが薄れてしまうことは承知しておかなければならない。
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