ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

研究開発職の労働時間管理は不要なのか?

2024-10-23 17:59:15 | 労務情報

 研究開発業務に従事する者(以下、本稿では「研究開発職」と呼ぶ)については「労働時間を管理しなくてよい」と思い込んでいる経営者も多いが、そう言い切ってしまうのはリスクを伴う。

 たしかに、研究開発職は「専門業務型裁量労働制」の代表格(労働基準法施行規則第24条の2の2第2項に列挙される業務のうち第1号)であって、これの適用を受ければ、労使で合意した一定の時間数(みなし労働時間)を労働したものとみなすことになる。 しかし、専門業務型裁量労働制を適用するには、労使協定を締結し管轄労働基準監督署へ届け出たうえで、本人の同意を得る(同条第3項;今年4月1日より施行)等の手続きを踏んでいなければならないし、そもそも担当業務の特性等により労働時間を本人の裁量にゆだねることができないものだと裁量労働制は適用されないことには注意を要する。
 また、研究開発職に従事する労働者に係る三六協定(サブロク協定;労働基準法第36条に基づくのでこのように呼ばれる)には、その時間外労働時間の上限が無い。 これも誤解されがちだが、決して「研究開発職は上限なしで残業させられる」という意味ではなくて、時間外労働の限度時間を「行政からの指導による」のでなく「労使で決める」ということなのだ。

 そして本稿の本題、「裁量労働制が適用される研究開発職は労働時間をまったく管理しなくてよいか」と問われると、「労働時間の“管理”は不要だが、労働時間の“把握”は必要」と答えるのが正しい。
 というのも、労働安全衛生法第66条の8の3には「事業者は‥労働時間の状況を把握しなければならない」と定められ、その対象には研究開発職(高度プロフェッショナル制度の適用を受ける者を除く)も含まれるからだ。
 さらには、労働時間を把握した結果、時間外労働・休日労働が月80時間を超え、疲労蓄積があり面接を申し出た者は医師の面談指導を受けさせなければならない(同法第66条の8の2、労働安全衛生規則第52条の2)。 ここまでは研究開発職以外の職種に就く者と同じだが、研究開発職の場合には上述のとおり時間外労働の上限規制がないため、時間外労働・休日労働が月100時間を超えた者についても医師の面談指導が必須となっている(同規則第52条の7の2)。

 つまり、研究開発職の“健康”を管理することこそが重要なのであって、「労働時間の把握」はその手段に過ぎない。 「管理」だの「把握」だの言葉尻をとらえるのは、あまり意味が無いのだ。


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休養室の設置義務について

2024-10-13 15:53:12 | 労務情報

 常時50人以上または常時女性30人以上の労働者を使用する事業者は、休養室または休養所(以下、本稿では単に「休養室」という)を、男性用と女性用に区別して設けなければならない(労働安全衛生規則(安衛則)第618条、事務所衛生基準規則(事務所則)第21条)。
 ところが、「産業医・衛生管理者(業種によっては完全管理者も)の選任」や「衛生委員会(業種によっては安全衛生委員会)の設置」(これらも常時50人以上の事業場に義務づけ)は大多数の会社で守られている印象だが、「休養室」に関しては、労働基準監督署の調査でその不備を指摘される例がしばしば見られる。

 もしかしたら経営者の中には「休憩の設備」と混同している向きもあるのかも知れない。
 休憩の設備は、事業場の規模を問わず、著しく暑熱・寒冷・多湿であったり有害ガスや粉塵を発散する等の有害な作業場では設置が義務付けられている(安衛則第614条、粉じん障害防止規則第23条第1項、特定化学物質障害予防規則第37条第1項)が、それ以外の事業場では「設けるように努めなければならない」という“努力義務”とされている(安衛則第613条、事務所則第19条)。

 これに対し、休養室は、単に休憩できる場所という意味ではなく、体調不良の者が横になって休むことが想定されており、利用者のプライバシーと安全が確保されるよう、
  (1) 入口や通路から直視されないように目隠しを設ける
  (2) 関係者以外の出入りを制限する
  (3) 緊急時に安全に対応できるようにする
等の配慮が求められている。
 もっとも、長時間の休養が必要な場合は速やかに医療機関に搬送または帰宅させることが基本であることから、随時利用できる機能が確保されていれば、専用の設備である必要はないとされる。

 ところで、休養室の設置義務者に関し、現行法令では「事業者は‥」と定めているため、会社ごとに休養室を設けなければならないこととされているが、これに関して見直しを求める声も挙がっている。
 例えば、大規模商業施設のテナントとして入居している会社の場合、その施設内に要件を満たす休養室が設けられていれば各テナントは休養室設置義務を果たしたものとみなすのはどうか、という意見だ。 たしかに、この意見には一理ある。

 今後の法規制の動きも気になるところだが、それ以前に、もし休養室設置義務について知らなかった(または誤解していた)のであれば、すぐにでも対処を考えるべきだろう。


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パートタイマーの働き控えは社会的な問題に

2024-10-03 09:36:16 | 労務情報


 年末が近づくとパートタイマーの“働き控え”に頭を痛めている会社もあるだろう。
 「働き控え」は「就業調整」とも呼ばれ、配偶者の扶養の範囲内で働く者が勤務日などを調整するようになることだ。
 これは、一定以上の年収を得ると社会保険や税制の仕組み上、適用対象外(もしくは適用対象)になるためで、具体的には高い方から「130万円の壁」「106万円の壁」「103万円の壁」があり、これらを総称して「年収の壁」とも呼ぶ。

A:130万円の壁

 年収が130万円を超えると、社会保険の被扶養(保険料負担なし)から外れる。 すなわち、健康保険は国民健康保険に加入することになり、また、国民年金の第三号被保険者でなくなり第一号被保険者となり、いずれも保険料負担が生じることになる。
 また、配偶者の勤務する会社によっては(配偶者が公務員である場合も)、配偶者手当(家族手当・扶養手当)の支給対象でなくなるのも、この“壁”を高く感じさせる要因の一つだ。

B:106万円の壁?

 従業員50人超(令和6年9月までは100人超であったのが適用拡大)の会社に勤務する所定労働時間が週20時間以上かつ賃金月額が8万8千円以上のパートタイマーは、その会社の健康保険・厚生年金保険の被保険者となる。
 月額8万8千円を年額換算すると105万6千円であることから「106万円の壁」と“厚生労働省では”呼んでいるが、一般には馴染みの無い用語だろう。 第一、時給1026円以上(ちなみに東京都の最低賃金は1163円)であれば週20時間で月額8万8千円を超える計算になるのだから、そもそも働き控え(就業調整)に結びつく話ではない。

C:103万円の壁

 年収が103万円を超えると所得税を課されるようになる。 また、その配偶者の「配偶者特別控除」が段階的に引き下げられるようになる。
 103万円を超えた途端に税負担が急増するわけではないのだが、上にも挙げた配偶者手当(家族手当・扶養手当)の支給対象を「所得税非課税の配偶者を有する者」と定めている会社もあるのが「壁」と呼ばれる所以だ。


 これら「年収の壁」は、働く者の心理として理解できないではないが、働けるのに働かないのは、雇っている会社も困るし、社会全体として労働力不足の中、こういう傾向は避けたいところだ。
 国(厚生労働省)もこれを問題視しており、①社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外、②キャリアアップ助成金のコース新設、③配偶者手当見直しに向けての提言、といった対策を講じている。
 もっとも、これらは社会保険制度や税制の仕組みに起因するものであるので、将来的には、制度全体を見直さなければならないようになるだろう。


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