業務上災害が発生した場合、被災した労働者は、労災保険による補償を受けられる(労災保険は強制適用であるので労災保険未加入のケースはここでは考えない)が、それが本人の不注意等によるものでなく、第三者の行為による災害(言い換えれば「加害者の存在する事故」)であった場合には、管轄労働基準監督署に『第三者行為災害届』を提出しなければならない。
その場合、国は、その加害者に対する損害賠償請求権を取得し(労働者災害補償保険法第12条の4第1項)、先に加害者から損害賠償を受けている場合には、その価額の限度で保険給付をしないことができる(同法同条第2項)こととなっている。
これに関して、まれに、「加害者から損害賠償を受けたら労災保険給付を請求する必要が無い」とする向きも見受けられる。
確かに、労災保険の手続きをしたところで、給付されるものは(当面は)無く、手続きに費やす手間が無駄に思えるかも知れない。
しかし、その事故によって、障害が残ったり、最悪は死に到ったりした場合、そこまでの損害すべてについては加害者が賠償してくれないことも、想像に難くない。
もちろん、そうなってから労災保険の障害補償給付や遺族補償給付を請求することは可能なのだが、時の経過とともに、業務起因性・業務遂行性の証明が難しくなるおそれがある。
逆に、事故発生直後に労災保険の給付請求手続きを済ませておけば、被災労働者本人(死亡の場合は遺族)は取り敢えず国から補償を受けられ、加害者への請求については、その過失割合の計算も含めて国に預けてしまえる。
また、加害者が職場の同僚であった場合、使用者責任に基づいて事業主が補償するべきところを「使用者による災害補償義務を填補する」という労災保険の目的に鑑みて、国は求償を差し控えることとされている。そういった判断も、国に任せてしまえば、被災労働者(または遺族)も、あるいは加害者や事業主にとってさえ、心理的な負担が軽く済む。
加えて言えば、労働者が業務上災害により休業または死亡した場合は、それが第三者行為によるものであるか否かを問わず、会社は管轄労働基準監督署へ『労働者死傷病報告』を提出しなければならない(労働安全衛生規則第97条)ところ、労災保険の給付請求手続きを省くと、これを失念し、いわゆる「労災隠し」になってしまう心配もある。
これらのことから、第三者行為による業務上災害であっても、労災保険の給付請求はしておくべきと言えるだろう。
なお、従業員が職場内で負傷したとしても、例えば、私怨による喧嘩や業務に無関係な疾病等によるものは、業務に起因せず、業務遂行による事故ではないので、そもそも業務上災害ではない。そういった点も誤解の無いように頭に入れておきたい。
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