労働基準法第39条に定める年次有給休暇(以下、本稿では「有休」と略す)は、原則として買い上げてはならない。
これについては、「労使双方が有休買い上げに同意していれば誰も困らないので問題ない」とも思われがちだが、視点を変えてみれば、有休を買い上げる行為は、「有休を取得しない従業員に一定の対価を支払う」ことに等しい。 そして、それは「有休を使った従業員を不利益に扱う」(労働基準法第136条違反)ことに通じるのだ。
しかし、このように原則として禁止されている有休買い上げではあるが、例外的に許されるものもある。 以下、それらについて、それぞれの注意点や補足説明を交えて整理しておく。
(1) 法定の日数を超えるもの
例えば、勤続6か月の者に15日の有休を与えた場合は、法定の日数を超える分(この例では法定の10日を超える5日分)については買い上げることとして差し支えない。
また、採用直後の者に与えた有休、出勤率要件を満たさない者に与えた有休、介護休暇・公民権行使の時間等を有給扱いとしている場合等も、法を上回る制度であるので、同様だ。
(2) 退職までに使いきれなかったもの
後任者への引き継ぎをしっかり行ってもらうことを期待して、退職までに取得できなかった有休の残日数を買い上げることを提案してもよい。
しかし、このケースでも、退職前に取得しようとした有休を会社が拒むことは許されない。 もっとも、退職者が使いきれなかった有休の権利を放棄するならこの問題は発生しないが、それを会社が強要してはならないのは言うまでもないだろう。
(3) 時効により消滅するもの
消滅時効(2年間)にかかる有休については買い上げてもよいとされている。
とは言え、消滅する有休を100%(またはそれ以上)で買い上げるのは、有休の取得を抑制する効果を生じさせることになるため、法の趣旨に反すると言えよう。
なお、ここに列挙したのは、いずれも「買い上げてもよい」とされるものであって、「買い上げなければならない」わけではない。 従業員から未使用有休の買い上げを求められても、(労働協約・就業規則その他の労働契約に特約の無い限り)会社がそれに応じる義務は無い。
ただ、買い上げるにしても、買い上げを拒むにしても、一度そのような扱いをすると、それが“前例”になることは、承知しておかなければなるまい。
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今年(令和4年1月1日)から「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が始まっている。
これは、現行の雇用保険制度において労働者は、所定労働時間が週20時間以上の事業所1か所のみで被保険者となるところ、雇用される2事業所(所定労働時間が週5時間以上のものに限る)の所定労働時間が合計して週20時間以上となる場合に被保険者となることができるようにしたもの。 当面は65歳以上の労働者に限って“試行的”に実施されている。
具体例を挙げて説明すると・・・
A社で週15時間、B社で週8時間就労する者は、A社・B社どちらも雇用保険の被保険者にならないが、65歳以上であれば、この制度を利用して、被保険者(「マルチ高年齢被保険者」と称される)になることができる。
そして、B社を離職した際には、B社で支払われていた賃金額に応じた失業給付(高年齢求職者給付金)を受けられる。 ただし、別の就労先(例えば週6時間のC社)がある場合は、離職していないA社との所定労働時間数の合計が週20時間以上となれば、引き続きマルチ高年齢被保険者として取り扱われ、失業給付は受けられない。
所定労働時間が週5時間以上の者を雇用している会社(上の例で言えばA社、B社、C社それぞれ)は、該当者(当面は65歳以上の者に限る)が突然「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届」への記載と確認資料(賃金台帳・出勤簿・労働者名簿・雇用契約書等;いずれもコピーで可)の交付を求めてくる可能性があるので、その際に面食らわないようにしておきたい。
会社側としては、当該労働者に係る雇用保険料(事業主負担)と雇用保険に関する事務負担が発生することになるが、これを拒んではならず、また、この請求をした労働者に対し、解雇や雇い止めその他不利益な取り扱いをしてはならない。
ちなみに、この手続きは、マルチ高年齢被保険者としての適用を希望する本人がその住所地を管轄するハローワークにて行うものであり、本人死亡により資格喪失する場合等を除き、会社は手続きを行う義務を負わない。 手続きを代行する場合は委任状が必要になる。
そもそも、この「雇用保険マルチジョブホルダー制度」は、厚生労働省の労働政策審議会職業安定分科会(雇用保険部会)で検討されてきた事案であり、議論の中で労働者側委員は「すべてのマルチジョブホルダーを対象に実施することが望ましい」と主張していた。
しかし、一方で使用者側委員は企業に過重な事務負担を強いることがないよう配慮を求めたため、現時点では65歳以上に限定して実施することとしたものだ。
この経緯からすれば、そう遠くない将来、65歳未満の者にもこの制度が適用される可能性が高いと言え、特にパートタイマーを多用している会社にとってはコストアップに直結する話となる。
この制度の効果等は施行後5年以内に検証されることとなっているので、継続的に注視していたい。
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