諦める 執着をとるとこうなるのか..リサからTELがあった。「パパの仕事を手伝わせてください」という。実家からもう帰ってこないだろうと思っていたからうれしかった。出されたことばはもう戻らないが こころがこもっていることばであれば、新しい一歩を踏み出せる、絆が深まることにもつながるのだと思いながら 娘を乗せて板倉まで車を走らせる。
今日から昼夜で籾殻炭の製造がはじまる。ひとり一日5.6百円の中国の労働力と闘うのだから 高くは売れず苦戦だが 夫の顔は耀いている。うちの籾殻炭は1100度の高温で焼くから品質がいい。棄てるしかない籾殻が肥料の原料になり地に還る、また都市のヒートアイランドを防ぐ屋上庭園の土壌になる。いのちが循環する。娘もまっくろになって働いている。わたしはすべきことをしたあと、2F事務室でフランス窓から、おとうちゃまのこと、弥陀ヶ原心中を語ってみる。聲が以前とは違っている。夜中 帰る途中 アパートを覗き声をかけたが惣の返事はない。
考えたすえ 運営委員会のメーリングリストに思うこと だれも言わないことを書く。書かれたことばはカラカラして こころを伝える聲を持たないから もしや人間関係に波紋を生じることもあるだろう 書かれたことばもまたもとには戻らない。だが、わたしが世話人として運営委員会の末席につらなることに意味があるとしたら 言いにくいことや少数意見も口にし、場合によっては一石を投じる...ことではないかと思う。わたしは語り手たちの会のことをとてもたいせつに思っている。こころのなかで思い 傍で話し 公の場ではおもんぱかって口には出さない わたしはもうそういうことはしない。誇りを持って...というほど大袈裟なことではないが、自分で恥ずかしく感じることはするまいと思う。
ル・グインの「言の葉の樹」を読み返してみる。はじめて読んだころわたしは語り手ではなかった。物語られているのは<語り>だったのだ。
ル・グインはゲド戦記の作者であると同時に SFで壮大な宇宙史を連作で書いている。闇の左手も言の葉の樹もそのうちのひとつのものがたりである。
テラ(地球)ではユニスト(一神教)の一派が政権をとり エクーメン(地球の植民地連合のようなものか)と敵対していた。ユニストのファザーたちはひとびとを堕落させるとして 科学や文学もろもろの学問を抹殺しようとし多くの犠牲者が出る。やがてユニストは衰え 混乱のなかで愛するひとを失ったサティはエクーメンの調査官として惑星アカに赴き古い文明を調査する。アカの政府はすべての文献や古い文明を抹殺しようとしていたが 遥かなシロンガの山中に惑星中から隠され運び込まれた膨大な「語りのテキスト」が隠されていた。
サティとマズ(語り手=賢者の尊称)の会話またはマズのことば
「歴史と<語り>は同じものだと思いますね」
とユンロイが結論を言った。
「物事を聖なるものとして保存する方法です」
「聖なるものとはなんですか」
「真であるものは聖なるものです
虐げられたもの、
美しいもの 」
「すると<語り>は出来事のなかに
真実を見つけようとしているのですね。
あるいは苦痛のなかに、
あるいは美のなかに 」
「見つけようと努力する必要はないのです。
聖なるものはそこにある
真実のなかに、
苦痛のなかに、
美のなかに。
それゆえ その<語り>は聖なるものです 」
「わたしたちは世界の外にいるわけではないのだよ
わたしたちが世界なのだ
わたしたちがその言語なのだ
だから、わたしたちは生き、ことばも生きる」
美しいことばである。ル・グインは語り手だったのだろうか。このものがたりでも闇の左手でも彼女の筆になる神話・伝説が語られていた。
言の葉の樹 早川書房 アーシュラ・K・ル・グイン
小松芙佐 訳
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