石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(53)

2023-09-18 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第2章 戦後世界のうねり:植民地時代の終焉とブロック化する世界(15)

 

053「イデオロギー」が根付かないアラブ世界(3/3)

 しかしアラブ世界では都市部と言えども産業革命はほとんど進展せず、大規模な工場を経営する産業資本家とそこに働く多数の労働者と言う階級分化の図式が出現しなかった。経済の実権を握っていたのは同族経営の商業資本家たちであり、社会主義や共産主義が生まれる余地はほとんど無かったと言えよう。

 

 中東を流れる「血(民族)」、「心(信仰)」と「智(思想)」と言う三つのアイデンティティの中で「智(思想)」が最も弱い。極端に言えば中東では「血(民族)」と「心(信仰)」が強すぎて「智(思想)」が育たないのである。

 

 さらに社会主義と並ぶ汎アラブ主義のもう一つの柱であるアラブ民族主義にも問題があった。「アラブ民族」と言う余りにも広すぎる概念を振りかざしたことである。「血」のつながりは「親族」、「一族」、「部族」と広がり「民族」が最も広い概念である。ただ一般の民衆が一体感を持てるのはせいぜい部族止まりであり、「アラブ民族」と言う概念は余りに大きすぎる。ところが権力闘争でのし上がったナセルのような政治家たちは「アラブの栄光」と言う誇大妄想に取りつかれ、「アラブ民族主義」を掲げれば民衆がついてくると考えた。

 

 土地に根を生やした一般民衆にとって三つのアイデンティティのうちの「血」のつながりは一族あるいは部族止まりで十分だったようである。それ以上の広い世界における一体感はイスラムの「心(信仰)」が与えてくれる、と言うのが庶民の世界観だったと思われる。そしてそれは現在のアラブ世界にも生き続けていると言えないだろうか。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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グローバルサウスに傾斜する中東北アフリカ諸国(MENAの多国間関係)(6)

2023-09-18 | 中東諸国の動向

組織の概要と参加国

5.イスラム協力機構

 イスラム協力機構(Organization of Islamic Cooperation, OIC)は、イスラム諸国の政治的協力、連帯を強化すること、イスラムに対する抑圧に反対し、解放運動を支援することを目的とした国際機関である。前身は1971年に設立されたイスラム諸国会議機構(Organization of the Islamic Conference)であり、2011年に現在の名称に変更された。

 

 加盟国数は57カ国、オブザーバーが5か国であり、サウジアラビアのジェッダに常設事務局がある。外相会議が毎年、また首脳会議が3年に1回開催されている。国際連合に常任代表を派遣している。付属機関としてイスラム開発銀行などがある。

 

 全世界のイスラム教徒(ムスリム)は18億人を超え、ほぼ全人口の4人に一人を占めている。国別で見るとインドネシアが2.3億人と最も多く、これに次ぐのがパキスタン、インド、バングラデシュの南アジア諸国である。その他上位10位に入るのは、ナイジェリア、エジプト、イラン、トルコ、アルジェリア、スーダンの各国である。

 

 各国の人口に占める割合で見ると、イラン、トルコ、アフガニスタン、イエメンは99%以上がムスリムであり、エジプト、イラク、サウジアラビアなど中東アラブ諸国も国民の95%以上がムスリムである。中国は人口に占める割合は2%足らずであるが、2,800万人(世界16位)のムスリムがおり、またロシアには2千万人、フランスにも600万人弱がいる。

 

 外相会議、首脳会議における採決はイスラム世界全体の共通の意向として国際社会に対する影響力が小さくない。但し会議決定は多数決によらないため、加盟国間の紛争や利害が一致しない問題に対しては有効に対処できないのが弱みである。

 

(続く)

 

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     前田 高行    〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

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