石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

全世界の成長率は今年3.0%、来年2.9%:IMF世界経済見通し(1)

2023-10-26 | その他

(注)本シリーズは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0588ImfWeoOct2023.pdf

 

IMF(国際通貨基金)が「世界経済見通し(World Economic Outlook、October 2023)」(以下、WEO)を発表した。 このレポートでは全世界、EU、ASEANなどの主要経済圏及び日米中印など主な国々の2022年(実績)から2024年(予測)まで3年間のGDP成長率が示されている。また同時に公表されたWorld Economic Outlook Database(以下、WEO Database)では全世界の国々の2028年までのGDP成長率、名目金額など詳細な経済指標が網羅されている。

 

本稿では今年(2023年)及び来年(2024年)の成長率を比較し、また前回7月の経済見通しに対してGDP成長率がどのように修正されたかを検証する。そして2021年から2025年の5年間の成長率の推移を比較する。さらに過去6回の経済見通し(昨年7月、10月、今年1月、4月、7月及び今回)で今年の成長率がどのように見直されてきたかを精査する。

 

*WEOレポート: https://www.imf.org/external/datamapper/datasets/WEO

  日本語版:

https://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2023/10/10/world-economic-outlook-october-2023

 WEO Database:https://www.imf.org/en/Publications/WEO/weo-database/2023/October

 

(今年の世界の成長率は3.0%!)

1.2023年のGDP成長率(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-08.pdf 参照)

 今回10月見通しでは今年の世界の成長率は3.0%とされており、前回7月見通しと同じである。

 

 経済圏別に見るとEU圏の2023年の成長率は0.7%であり、7月の数値から0.2%ダウンしている。またASEAN5カ国は4.6%から4.2%に下方修正され、中東・中央アジア諸国も2.5%から2.0%に引き下げられている。ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー価格が不安定なため成長率が鈍化しているようである。

 

 国別では今年の成長率は米国2.1%、日本2.0%、ドイツ▲0.5%、英国0.5%、ロシア2.2%、中国5.0%、インド6.3%である。インドの成長率は世界で最も高く、世界平均(3.0%)の2倍以上である。中国はコロナ禍以前に二桁の高い成長を続け、その後急激に減速したが、それでも世界平均を上回っており、インドと中国が世界の成長をけん引している。これに対してヨーロッパ諸国は上記の通りEU圏の成長率が1%を下回り、ドイツは主要国の中で唯一マイナス成長と見込まれている。

 

産油国のサウジアラビアは0.8%であり、前回7月見通しの1.9%から下方修正されている。同じ産油国のロシアは逆に7月見通しの1.5%が2.2%に上方修正されている。ロシアは欧米先進国から経済制裁を受けているが、中国、インドが同国原油を安値で輸入するなどロシア経済への影響力はさほど大きくないのが現実のようである。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(69)

2023-10-25 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第3章 アラーの恵みー石油ブームの到来(6)

 

069 OPEC結成(2/4)

戦後の復興期で石油の需要が急増したため石油各社は値段を据え置いたまま生産を増やすだけで十分な利益を上げることができた。石油が安いことは消費国或いは消費者にとって朗報である。中でも日本は最も大きな恩恵を受けた国であった。安い石油を武器に日本は戦後復興、さらに高度成長へ向けてひた走りに走った。

 

1959年に戦後不況で石油の需要が落ち込むと、セブンシスターズは原油の買い取り価格(公示価格)を引き下げた。それまでインフレの昂進により実質的な実入りが減少していた産油国は、公示価格の引き下げでさらなる歳入の減少に陥った。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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イスラエルのアイアン・ドーム防空システムの裏をかくハマス(下)

2023-10-25 | 中東諸国の動向

2.ミサイル防衛の限界

イスラエルは少なくとも10基のアイアン・ドームを稼働させており、それぞれに60発から80発の迎撃ミサイルが配備されている。 これらのミサイルの価格はそれぞれ約 6 万ドルである。 少数のミサイルやロケット弾を使ったこれまでの攻撃では、アイアン・ドームはさまざまな脅威に対して90%の効果を発揮している。

 

なぜこのシステムは最近のハマスの攻撃に対してあまり効果がなかったのか? その答えは簡単である。 ハマスは数千発のミサイルを発射したが、イスラエルがこれに対抗できるよう現場に配備していた迎撃ミサイルは1000基にも満たなかった。 たとえアイアン・ドームが100%有効だったとしても、ハマスのミサイルの数が非常に多かったため一部は突破された。これは最高の防空システムであっても、対抗しなければならない脅威の数が多ければ圧倒される可能性があることを明確に示している。

 

イスラエルのミサイル防衛は、多大な費用を投じ長年にわたって構築されてきた。 ハマスはどうやってこれを制圧する余裕があったのか。すべては数字に帰着する。ハマスが発射したミサイルの価格は1発約600ドルで、アイアン・ドーム迎撃ミサイルの約100分の1である。 イスラエルがすべての迎撃ミサイルを発射した場合の総コストは約4,800万ドルとなる。 ハマスがミサイル5,000発を発射したとしても、その費用はわずか300万ドルだ。

 

このようにして、ハマスは慎重に戦略をたて、アイアン・ドームの防衛能力を圧倒することがわかっていた比較的安価なミサイルを時間をかけて大量に蓄積した。 ハマスの攻撃は軍事的非対称性の非常に明白な例である。低コストで能力の劣るアプローチが、より高価でハイテクなシステムを打ち破ることができたのだ。

 

3.将来の防空システム

ハマスの攻撃は世界の主要な軍事大国すべてに影響を与えるだろう。 これは、2 つの重要な点でより効果的な防空システムの必要性を明確に示している。 第一に、非常に多くのミサイルの脅威に対処できる、より強力な防衛兵器の備蓄が必要である。 第二に、防御兵器ごとのコストを大幅に削減する必要がある。

 

今回のエピソードは、高エネルギーレーザーと高出力マイクロ波に基づく指向性エネルギー防空システムの開発と配備を加速させる可能性を示している。 これらの装置は、発射あたりのコストが比較的低く、電力が供給されている限り発射し続けることができるため、「無限弾倉(infinite magazine)」を備えていると表現することができよう。

 

以上

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石油と中東のニュース(10月24日)

2023-10-24 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・ガザ紛争の影響軽微で石油価格下落。Brent $91.49, WTI $87.03

・伊ENI、カタールとLNG購入契約締結。三井物産もLNG事業参画の意向

(中東関連ニュース)

・イスラエル空爆によるガザ地区の死者5千人以上

・ハマス、追加で女性人質2名釈放

・カイロ和平会議、アラブとイスラエル擁護の西欧の対立でコミュニケ出せず

・ガザ南部Rafah検問所から援助物資第3便搬入

・トルコ、スウェーデンのNATO加盟案件を議会に上程

・イランで南カフカス地方合同外相会議開催、ロシア/トルコ外相も出席

・韓国大統領、サウジ訪問。52件のMoU締結

・サウジPIFと韓国現代自動車が合弁事業、年産5万台、2026年生産開始

 

 

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イスラエルのアイアン・ドーム防空システムの裏をかくハマス(上)

2023-10-24 | 中東諸国の動向

現地紙記事翻訳:

原題:Analysis: Israel’s Iron Dome air defense system works well – here's how Hamas got around it

URL:https://english.ahram.org.eg/News/510181.aspx

掲載日時/掲載紙:2023/10/13 Ahram Online, Egypt (AP)

筆者:Iain Boyd, Director, Center for National Security Initiatives, and Professor of Aerospace Engineering Sciences, University of Colorado Boulder(航空宇宙エンジニア、コロラド大学教授)

 

 

イスラエルには、非常に効果的な最先端の防衛技術と能力を開発してきた長い歴史がある。その代表的な例は、ミサイルやロケット弾に対する世界最高の防御手段として広く喧伝されているアイアン・ドーム防空システムである。

 

しかし、2023年10月7日、イスラエルはガザに拠点を置くパレスチナ武装組織ハマスによる非常に大規模なミサイル攻撃に不意を突かれた。 ハマスはイスラエル全土の多数の目標に向けて数千発のミサイルを発射したと伝えられる。 詳細は不明だが相当数のミサイルがイスラエルの防空網を突破し、イスラエル側に甚大な損害と死傷者を出したことは明らかである。イスラエルの防衛戦略がハマスの攻撃に対して完全に効果的ではなかったのには単純な理由がある。 そのことを理解するには、まず防空システムの基本を理解する必要があろう。

1.防空システム: レーダーによる探知、対処方法の決定、敵ミサイルの迎撃

防空システムは 3 つの主要な要素で構成される。第一は飛来するミサイルを探知、識別、追跡するためのレーダーの性能である。メーカーの米レイセオン社によると、アイアン・ドームのレーダーは2.5~43.5マイル(4~70キロ)の距離で有効である。 物体がレーダーによって検出されたら、それが脅威であるかどうかを判断するために評価する必要があり、その決定には方向や速度などの情報が使用される。物体が脅威であると確認された場合、アイアン・ドームのオペレーターはレーダーで物体を追跡し続ける。 ミサイルの速度は大きく異なるが、1 秒あたり 3,280 フィート (1 km/s) と仮定すると、防衛システムが攻撃に応答するのにかかる時間は最大でも 1 分である。

 

防空システムの 2 つ目の要素は戦闘管制センターで、確認された脅威に対処する適切な方法が決定される。 間断なく更新されるレーダー情報を使用して、迎撃ミサイルをどこから発射するか、飛来するミサイルに対して何発発射するかについて最適な対応を決定する。

 

3つ目の要素は迎撃ミサイルそのものであり、熱探知センサーを備えた超音速ミサイルである。センサーは目標ミサイルの最新情報を迎撃ミサイルに提供し、脅威に向かって自動操縦される。迎撃ミサイルは、小型レーダーによって作動する近接信管(proximity fuse)を使用して、飛来するミサイルの近くで爆発するため、ミサイルを直接攻撃する必要はない。

 

(続く)

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(68)

2023-10-23 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第3章 アラーの恵みー石油ブームの到来(5)

 

068 OPEC結成(1/4)

 第二次大戦直後1948年の原油価格はバレル当たり2.8ドルであった。バレルとは石油独特の計量単位であり、本来の意味は「樽」である。パイプラインやタンクローリーのような専用の運搬設備が無かった時代、石油は樽に入れ馬車に積まれて消費地に送られていた。1バレルは42ガロン、リットルに換算すると160リットルである。このことから当時の原油価格は1リットル=2セント、邦貨では2円強と言うことになる。もちろんその後のインフレ係数で現在価格に直すと25ドルとなり2015年の最安値価格とあまり違わない。

 

当時石油の売値のうち産油国の懐に入るのはセブン・シスターズを筆頭とする欧米石油会社が産油国に支払うロイヤリティ(利権料)と生産量に応じたわずかな分配金に過ぎなかった。産油国は取り分の増額を求めて欧米の石油会社と交渉したが壁は厚かった。とにかく原油の生産から精製、そして流通の末端まで欧米の石油企業が独占しており産油国は歯が立たない。1951年にはイランのモサデグ首相が国有化を強行したが、セブン・シスターズの猛烈な反撃に会いあえなく政権が倒れてしまう有様であった。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

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石油と中東のニュース(10月21日)

2023-10-21 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・ガザ危機で石油価格上昇。Brent $93.61, WTI $90.60

(中東関連ニュース)

・21日にカイロで平和サミット開催。日本から上川外相出席

・ガザに早急に援助物資を:国連事務総長、エジプト国境検問所で訴え

・ハマス、米人母娘2人を解放。陰にカタールの仲介

・ガザは生き地獄:国連援助機関の日本人女性が語る

・ハマスのミサイル大量発射で弱点を露呈したイスラエルのアイアンドーム

・米海軍、イエメンからイスラエル向け発射のミサイルを撃墜

・ハマスが北朝鮮製兵器を使用

・イスラエル、トルコから外交団全員引き揚げ。他国にも波及の恐れ

・米国がイスラエル人に90日間のビザなし訪問を許可

・上村中東特使、ヨルダン外相と会談

 

・リヤドでGCC-ASEANサミット初会合

・トルコ大統領、リビア首相と会談

・エジプト、中国と債務スワップのMoU締結

・サウジ観光庁とJCBがMoU締結

 

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今週の各社プレスリリースから(10/15-10/21)

2023-10-21 | 今週のエネルギー関連新聞発表

10/17 コスモエネルギーホールディングス

リチウム資源開発事業への新規参入を目指した米国子会社の設立について

https://www.cosmo-energy.co.jp/ja/information/press/2023/231017.html

 

10/17 TotalEnergies

Scotland: TotalEnergies Commissions Its Biggest Offshore Wind Farm

https://totalenergies.com/media/news/press-releases/scotland-totalenergies-commissions-its-biggest-offshore-wind-farm

 

10/18 Shell

Shell completes sale of interest in Indonesia’s Masela block

 

https://www.shell.com/media/news-and-media-releases/2023/shell-completes-sale-of-interest-in-indonesia-masela-block.html

 

10/19 bp

bp ships first cargo from Indonesia’s expanded Tangguh LNG facility

https://www.bp.com/en/global/corporate/news-and-insights/press-releases/bp-ships-first-cargo-from-indonesias-expanded-tangguh-lng-facility.html

 

10/20 JOGMEC/INPEX他

インドネシア タングーLNG拡張プロジェクト 液化天然ガス(LNG)の出荷開始について

https://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_00141.html

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データベース追加のお知らせ

2023-10-20 | データベース追加・更新

下記データベースを作成しましたので自由にご利用ください。

 

・MENA諸国が関連する国際組織の概要

・同上、加盟状況一覧

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(67)

2023-10-20 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第3章 アラーの恵みー石油ブームの到来(4)

 

067中東の石油産業の曙(4/4)

 このセブン・シスターズに反旗を翻した者がいた。イランのモサデグである。共産主義政党ツデー党の流れを汲み1951年に首相に就任したモサデグはアングロペルシャン石油が所有する石油利権を国有化した。これに対してセブン・シスターズは結束してイラン産原油を国際市場から締め出し、社会主義政権の登場を苦々しく思う米国政府もひそかにセブン・シスターズに肩入れした。モサデグは失脚、シャー(パハレビー皇帝)が復権し、以後イランと米国の蜜月関係が始まる。

 

産油国がセブン・シスターズに戦いを挑むのは9年後の1960年にOPEC(石油輸出国機構)を結成して以後のことであり、またイランが米国と袂を分かつのは29年後のホメイニによるイラン革命からである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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