ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

解決不可能なリスクを抱えてもなお、まだ生き残ろうとしている原発ムラに抗えるのは何か?

2015年03月18日 | 世界とわたし
大変な分量の翻訳を、いつも担ってくださっている無限遠点に、心からの感謝を込めて。



(まうみ注*書き起こしをする際に、文章の書き換えをした部分がところどころにあります。文字の強調はわたし個人の意思で行いました)

↓以下、書き起こしはじめ

エコノミーマガジン『マクロ』へようこそ。

福島の事故が起きてから、まだ4年経ったばかりです。
しかし原子力は、これまでにないほど、推進派が増えているようです。
ドイツでは脱原発を決定しましたが、これから原発に参入しようという国もあります
例えばポーランド、またはトルコなどは、原発第1号を計画中です。

今日の『マクロ』の特集は、
原子力ロビーがどれほど力を持っているか、そして政治がどれほどその後ろ盾となっているかについての検証です。

まずは、日本から始めましょう。
教訓から学んだ国…と言うことができればよいのですが、現実はどうやら違うようです。

******* ******* ******* 

2013年11月、日本の安倍総理大臣は、事故を起こした福島の原発を前に、世界に助けを求めた。
しかし彼は、外国を訪問しては、日本の原子力技術の売り込むことに熱心だ。
彼は、日本の原子力産業の外交セールスマンである。
陰に潜むビッグプレーヤーは、東芝、日立、三菱だ。
そしてとうとう、受注にも成功した。
三菱は、トルコの国内最初の原発4基の建設に携わることになった。
フクシマから4年、日本は晴れて、国際的な原子力の舞台に返り咲いた、というわけだ。
日本の原子力産業はこうして、安倍という強力な代理商を見つけたのである。

彼は、2020年オリンピックの東京での開催誘致のスピーチにおいて、世界に向けて、日本の新しい信念を表明した。

「福島についてお案じの向きには、私が保証いたします。状況は制御(コントロール)されています」

コントロールされている?
いまだに事故の起きた原発では、深刻な突発事件が起きていて、さらに地下水の汚染をどうすればいいのかわからないまま。
日々、4000トンの地下水が原子炉建屋に入り込んでは、高レベル汚染水となっている
東電はこの水を、できるだけ原発敷地内の巨大なタンクに貯めようとしているが、このタンクが漏れていることがわかった。
そこで今度は、建屋周辺の地下に凍土壁を作り、水を止めようと計画したのだが、しかしまだ凍ってはくれない


福島は、いまだに放射線に覆われている
それでも政府は、避難していた住民たちを、原発周辺の立ち入り禁止地区に戻そうとしている
まず試しに30世帯が、一時的に自宅に戻った。
線量はもうそんなに危険ではない、というのだ。
反対派は、「東電がこれで、避難した住民たちに生活費を払わないつもりなのだ」と批判する。
最悪事故から4年。
住民たちの帰還は当然のこと、とされようとしている

さらに、日本政府は2014年に、脱原発政策からの脱出を閣議決定した。
まもなく川内原発が、事故後第1基目として再稼働されることになっている。
原子力発電再稼働により、政府は、貿易収支を改善したいと願っている。
安価な原子力が無ければ、エネルギーに乏しい日本は、高価な石油やガスの輸入に頼らざるを得ないから、というのだ。
しかし、原子力に戻るというのは何より、権力のある日本の原子力ロビーの勝利といえよう。
そこには、福島第一原発を操業していた、東電も含まれている
この大会社は、事実上国営となって、あらゆる手段で生きながらえている状態だ。

元総理大臣菅直人氏:
主要な銀行が東電に、事故後巨額の金を貸し出しました
ですから、東電が破産ということになれば、これらの銀行が、その金をすべて失うことになります
それで、何が何でもその事態は避けなければと、経営者たちは思っているわけです。
それ以上に、独占業者である東電は、『原子力ムラ』と我々が呼んでいる財界、政府、学界、官庁、報道を含む巨大ネットワークの、第一線のグローバルプレーヤーなのです。


福島の事故後、菅直人は、このネットワークを粉砕しようとしたが、
原子力ムラの権力がいかに強いか、政治と経済の結びつきがいかに複雑に絡み合っているか、思い知らされることとなった。
彼は、危機管理で大きなミスを犯したと、罪をなすり付けられた
その後の調査委員会で、彼には罪が無いことは明らかになったが、それでも彼は、首相の座を降りることを余儀なくされた。

その後を継いだ安倍の政治は、完全に原子力推進路線だ。

しかし、市民の意見は違う。
昨年夏の世論調査では、55%の市民が、原子力への回帰を拒否している。

しかし、フクシマ(福島原発事故)から4年、もうそのことは問題にもされないようだ。
日本の原子力ムラは、これまでの路線を一切変えていない

******* ******* *******

これまでの路線を変えない、というのは、事故を隠匿したり、安全確認議事録を改ざんしたりすることも含みます
それだけに、日本の原発産業が、核技術を輸出しようとしているのが不安になります
というのも、日本の企業が外国に行って、国内と違う態度をとるとは思えないからです。

それでは、今度はドイツに移りましょう。
ここでは「原発?お断り」と言っているのはいいのですが、そう簡単に原発は消えてくれません
ドイツの原発業界の計画によれば、ドイツの納税者は、これから何十年間とわずらわされることになる予定です。

******* ******* *******

2011年夏、福島事故から数ヶ月後、脱原発が決まった。
2022年までに、ドイツは脱原発を実現し、それまでに全原発を止める、というものだ。
問題は、原発操業者たちがいかに廃炉を実現するか、である。
ことに、その資金をどう工面するか、ということが問題である。

バーデン・ビュルテンブルグ州のオーブリッヒハイムにある原発は、ドイツ最古の原発で、操業停止されてからすでに10年が経つ。
ここで行なわれていることが、もうじきドイツのどこの原発でも行なわれるようになる。
廃炉が着々と進められている。
ここの電力会社EnBwでは、ここの廃炉だけで5億ユーロはかかるだろう、と計算している

エコロジカル・ソーシャル市場経済フォーラムのスワンティエ・キュッヒラー氏は、脱原発にかかる具体的な費用がどれだけになるか、突き止めようとしてきた。
廃炉費用を具体的な数字で表すのがいかに難しいか、彼女は知っている。

スワンティエ・キュッヒラー氏(エコロジカル・ソーシャル市場経済フォーラム):
今のところ、廃炉費用がどれだけになるか、誰にもわかっていません
数字はあとからしかわからないのです。
ただ、今現在もっている情報から、費用がどれだけ高くなるか見積もると、およそ480億ユーロはかかるだろう、と言うことができます。


ドイツでは、4社の電力会社が、原発を操業している。
ヴァッテンファル社、エーオン社、EnBwにRWE。
彼らには、廃炉と放射性廃棄物廃棄のための費用の、引当金積み立てが義務付けられている
これまでに、約360億ユーロを勘定に入れている。
この金額で足りるかどうかわからないという以外に、もう一つ問題がある。


キュッヒラー氏:
廃炉など後始末の処理をするための引当金は、それぞれの企業の手元にあります
ということは、他の国で行なわれているように、どこかの基金などに支払われるのではなく、
つまり企業は、このお金を好きなように管理していいわけです。


そうした企業が経済的に行き詰った場合、ましてや、破産した場合には、その引当金も危うくなるということだ。
そしてエーオンでは、これが懸念されることになってしまった。
12月に、このドイツ最大の電力会社は、ある発表で世間を騒がせたからだ。
原子力と石炭・ガスの火力発電事業を切り離し、別会社に移すというのだ。
これらはエネルギー政策変換にあたり、ますます収益が低迷するというのが理由だ。
これからは再生可能エネルギーだけに絞ろう、というのである。


ヨハネス・タイセン、エーオン社の役員会長:
我々は、どの業務も怠るつもりはありません。どの義務も責任を持って行います。
我々は、未来に対し責任をもつということです。


しかし、エーオンが、7つの原発でバッドバンクを設立しようとしているのではないか、最終的に税金で救わなければならないことになるのではないか、と懸念する人もいる。
切り離された原子力事業の会社には、高い廃炉の資金調達ができなくなるに違いないからだ。
割が合わなくなった原発を捨てたい、という電力会社の思惑の背後には、去年の春からのアイディアがある。
それはこうだ。
原発すべてを、その引当金ともども、ある基金に移す
そして、その基金は国が面倒を見る、というものだ。
これにより、原発解体は国の責任となり、電気会社の責任ではなくなる、というものだ。

エネルギー問題専門家のキュッヒラー氏にとっては、これは選択の余地に入らない。


キュッヒラー氏:
電気会社が心に描いているような基金では、社会や税金を払っている市民が、事後負担額を払わされる羽目になる危険性が高いのです。


ドイツ政府は、電力会社の原発事業のすべてを引き受けて事後処理をしていく気など、これまで一切なかった
最後に残るのは、脱原発でかかる費用の、何に対し誰が責任を持つか、ということの争いだ。

******* ******* ******* 

ちょうどコストの話になりましたが、原子力エネルギーは安い、と常々言われてきました。
確かに、原発がたくさんあるフランスでは、電気に支払う料金は、ドイツよりもずっと格安です。
でも、その計算には、肝心の費用が含まれていないのです。
というのも、何かがあったときの責任は、どうなっているのでしょうか
たとえば、原発の事故があった場合は?
または、長期的リスクはどうでしょう?
核の放射性廃棄物は、何百万年も放射能を出し続けるのです。
これらの問題に対しては、信頼できる費用、見積もりというものが存在しません
これからご覧いただくレポートでは、
これらのリスクに対して、いつの日か必ず、高い勘定書を突きつけられることになる、と考えている人たちをご紹介します。

******* ******* *******

ゴアレーベン
原子力エネルギーへの抵抗の土地だ。
ヴォルフガング・エームケ氏は、反原発運動のベテラン闘士だ。
ゴアレーベンで反対運動が始まって以来、彼は闘ってきた。
現在、使用済み燃料の輸送容器は、中間貯蔵所に入れることは禁じられているが、ここの人たちはとても懐疑的だ。
これまでに幾度となく騙されてきたこともあり、最終処分場を見つけたいドイツで、やはりゴアレーベンに白羽の矢が立ってしまうのではないかという不安が大きい


(リューホフ・ダネンベルク環境保護市民グループ代表)ヴォルフガング・エームケ氏:
その危険はかなりあります。
なにしろここに、もう16億ユーロをつぎ込んできてますし、核のインフラストラクチャーがすでにできあがっています
それよりもっと恐ろしいのは、ゴアレーベンに関する何十年もの資料が、出来上がってしまっていることです。
それで私たちは、必死で戦っているのです。


ここの岩塩岩株がどうなるべきかについて、リューホフ・ダネンベルクの市民グループは、具体的にイメージしている。
彼らは、ここにあるすべての設備の解体を要求している。
2013年に、「最終処分場探索法」が可決されたが、これによれば、この岩塩鉱山は、ゴアレーベンが最終処分場の候補地である限りは、開いたままにしておくことになっている。
しかし、世界のどこにもまだ、無事操業を開始した最終処分場はない


(連邦放射線防護庁)ヴォルフガング・ケーニッヒ氏:
60年代に、原子力エネルギーの使用を開始してからずっと、最終処分場に関する議論を交わしてきましたが、
これがどんなに大きい問題であるかということを、はじめからずっと、過小評価してきたといえます。
比較的簡単な技術で、それが対処できるように考えていたのです。
廃棄物も、もっと処分が簡単だと思っていて、始めは海洋投棄などをしたり、全くもって不適切な場所に貯蔵したりしていました

******* ******* *******

例えば、アッセがその例の一つである。
アッセは、古く落ちぶれた鉱山だ。
ここに、60年代から70年代にかけて、低中度放射能廃棄物が、システマチックに貯蔵された
岩塩の採掘坑が、廃棄物の貯蔵に適しているかなどということは、問題にもされなかった
そして、アッセに水が入り込んだときには、それがまず隠蔽された
かなりあとになって、そもそもここに、放射性廃棄物などというものが貯蔵されるべきではなかったということが、公に知らされた


(ニーダーザクセン州環境相)シュテファン・ヴェンツェル氏:
ここアッセで私たちが経験していることは、ドイツ連邦全体で必要となっていることの象徴であると、私は理解しています。
それだけに私は、新しく最終処分場を探す上で、このアッセでの経験からの教訓を十分に生かし、合意形成をしっかりすることを望みます。


これから、12万6000ものドラム缶を回収しなければならない
この回収はしかし、とてつもない大事業だ。
世界でも他に例を見ない。
原子力時代での歴史第一号だ。
世界に例を見ないといえば、ゴアレーベンの反対運動もそうだ。
ここでは30年以来、反対運動が強まる一方だ。
ゴアレーベンは、反原発運動の象徴となった。
何度となく催される集会に、ヴェントラント近郊から訪れる農家の人たちは、反対運動には欠かすことのできない要素だ。
1995年に、高放射性の使用済み燃料棒9本が入った初のドライキャスクが、返還された。
周辺の住民、そしてドイツ全体から反対運動の闘士が集まって、それを入れさせまいと抵抗した。
ここにはヴォルフガング・エームケもいた。


エームケ氏:
我々の大きな目標は、このキャスク輸送にかかる政治的、かつ現実的なコストをできるだけ高く吊り上げ、
こういうことはおかしい、と誰もが思うようになること
です。


繰り返し激しい衝突が繰り広げられるデモでの市民と警察の間には、ほとんど内戦に近い状況が見られる。


エームケ氏:
彼らはまったくもって逆上してますよ。
僕たちは、もう何千という提案をしてきているんです。
状況が少しでも緩和できるように
でも彼らは、放水や、こん棒を振り回すことしか知らない


エームケ氏のモットーはこうだ。
『今日アクティブに抵抗する方が、明日ラジオアクティブ(放射線)まみれになるよりいい』

この意見を共有するのが、北ドイツの大地主アンドレアス・グラフ・フォン・ベルンシュトルフ氏だ。
ゴアレーベンの岩塩岩株のある土地も、彼の所有だ。
彼は、この土地を譲るなど、夢にも思っていない。
ましてや、それが最終処分場に指定されるかもしれないなど、もってのほか。
それで、もう何十年も、家族全員で市民の抵抗運動に加わっている


アンドレアス・グラフ・フォン・ベルンシュトルフ氏:
ここゴアレーベンで、ドイツの原子力政策の、どうしようもない姿がはっきり見えます
ここが最終処分場としてふさわしくないことは、もう誰の目にもはっきりしているのに、
それでも、この中間貯蔵施設を見せしめに使って、貯蔵していっています

それでどんどん波が大きくなって、もう止めることができなくなるのを、私は恐れています。


ゴアレーベンの地下に放射能のゴミがないのは、所有下の岩塩の売り渡しを拒否しているベルンシュトルフ家のお陰だと、周辺の住民のほとんどが思っている。
しかし、ヴェントランド地方の人たちは、いい方向に発展するとは思っていない。
今度また、26本の使用済み燃料ドライキャスクが、ドイツに返還されるという話だが、一体どこにもっていけばいいというのだろう?


エームケ氏:
このことがはっきりしないのなら、私たちがすることはわかっています。
バック・トゥ・ザ・ルーツ、つまり、またデモ運動をするということです。


ここにいると、抵抗運動は絶対になくならないだろう、と確信できる。

******* ******* *******

原子力エネルギーは、たくさんのリスクを抱えているわけですが、それでも政治的には今、勢いが良いようです。
数日前、プーチンは、ハンガリーの、問題の多いオルバーン・ヴィクトル首相と対談しました。
プーチンの手土産は、ロシア製の原発建設を締結する契約書でした。

原発を新しく建設したいと思う国がいくつもある中で、脱原発を決める国はわずかです。
私たちの「マクロスコープ」で、概観を見てみましょう。

******* ******* *******

ドイツの脱原発は進んでいる
2022年までに、もともと17基あった原発のうち、現在残っている9機も、操業を停止する予定だ。
ベルギーとスイスも、脱原発を決定している。
オーストリアは、建設を終了した。
ツベンテンドルフ原発を、一度も稼動しなかった。
そしてイタリアは、ヨーロッパで唯一、完全な脱原発を実現した国だ。

その他のヨーロッパではしかし、様子がまったく違う。
また、放射性物質を扱うビジネスを再開しようと、思っている国もある

例えばイギリスでは、福島の事故後も変わらず、原子力を主力エネルギーにすえている
2014年の暮れ、英国政府は、何十億ユーロという保証を、新原発に約束した。
新設される原発は、2024年に操業開始される。
イギリスの原発に与えられる補助金は、EUからも許可を得ている。
EUいわく、何から電力を得るかは、EU加盟国がそれぞれ勝手に決めていい、ということだ。


ポーランドは、2020年までに、原発第一基を建設する予定だ。
そしてこの政策を、ポーランド国民の3分の2が賛成している。
原発で、ロシアからのエネルギー供給への依存をなくしたい、というのだ。

ほぼ同じ意見なのがフィンランドで、現在、第3基目の原子炉を計画中だ。

そしてフランスのモットーは、『原発? ええ、どうぞ』だ。
19基の原発が、フランス国内の約75%の電力需要を賄っている
そしてそれを、少なくとも維持していくつもりだ。

そのほか、原子力産業の成長を待っているところが、世界にはいくつもある
世界には現在、合計430基の原発が操業されており、さらに70基が建設中だ。

******* ******* *******

そして欧州委員会は、原発の推進を推奨しています。
フクシマから4年経った今、原発がなぜ、こんなに奨励されるのかについて、物理学者のロータ・ハーン氏と話してみたいと思います。
ハーンさん、よろしくお願いします。
ハーンさんはもう40年以上、原子力エネルギーに取り組んでこられました。
そして、その内の8年間、原子炉施設・原子炉の安全のための協会の会長を務めてこられました。
そのハーンさんにぜひうかがいます。

ーどうして原子力は、いまだにこれだけ支持されているのでしょうか?

(原子物理学者)ロター・ハーン氏:
確かに、原子力が政治で得ている支持は、まるで魔力のようですね。
少なくともいくつかの政府では、ここには野心がありますが、エネルギー保障ができなくなるかもしれないという危惧とは関係がない、と私は思います。
これは、なかなか伝えにくい問題です。
それから同時に、原子力産業の持っている力が今でも甚大で、政治に対しても多大な影響力を及ぼしていることとも関係があります。

ーそしてそれが、たくさんの国でそうだとおっしゃるのですね?

ハーン氏:
はい、日本についても先ほどお聞きになったとおりですし、ドイツでもまったくそうでないわけではありません。
原子力産業は、過去数十年の間に、原発でかなりの収益を上げてきましたから、もちろん、できればそれをやめたくないのです。

ーでも、政治的に追い風を受けていてもなお、原発にはもう未来がないとお考えですね。
それはどうしてですか?

ハーン氏:
原発をどんどん建設している国といえば、中国、インド、ロシアです。
そのほかには、新しい建設や計画はあまりありません。
同時に、これから15年の間に、100以上の原発が操業停止になる予定です。
ということは、事実上、原子力産業の力は、先細りの運命にあるのです。

ーでも、どうしてそれが、衰退といえるでしょう?
私たちは今すぐにも、原子力エネルギーなしでも生きられるのでしょうか?
世界全体の電力供給問題などの不安も含めて、原発はまだ必要なのではないですか?

ハーン氏:
原発からすぐに撤退できない国は、もちろんいくつかあるでしょう、フランスのように。
ドイツではそんなに長くかかりません。
ベルギーも同じです。
東欧ではウクライナ危機で、とても憂慮に値する状況です。

ー彼らはもちろん、エネルギーカルテルから独立したいわけですよね。
それが、レポートでも見てきたように、日本でも中心となる議論でした。
でも、この主張を簡単に斥けるわけにはいかず、原子力産業は、これを根拠に増強していくのではないですか?

ハーン氏:
いいえ、原子力エネルギーは、エネルギーカルテルへの依存から解放してはくれません
むしろその反対
です。
ドイツのエネルギー政策変換で計画しているように、
独立の道は、エネルギー供給を地方分散の構造に作り変えていくことの中にあります。

ー原子力発電は実はそう安価ではない、ということを私たちは話しました。
そうは思ってない人がかなりいるわけですが、「マクロ・オンライン」のインタビューで、原子力は非経済的であるとおっしゃっていますね。
ということは、ただ安いだけでなく、もう一歩踏み込んで言ってらっしゃるのですが、
原発の何がそんなに非経済的なのですか?

ハーン氏:
まず、新しく原発を新設する際の建設費用が、非常に莫大なので、その元を取るためには、何十年と稼動しなければなりません
しかし、その間に何かズレがあれば、もう割が合わなくなります。
それを気がついた国もいくつかあります。

ーさらに、インタビューで、一般市民の犠牲の上にしか成り立たない、とおっしゃっていますが、
それをもう少し、具体的な数字や例で、表していただけますか?

ハーン氏:
イギリスがいい例です。
ヒンクレー・ポイント原発プロジェクトが生まれた背景には、イギリス政府が電力会社に対し、電力の固定買取価格を保証する、といった事実があります。
35年間です。
この原発が2025年に稼動を開始して、それが2060年まで固定買取価格が保証されるというのであれば
それは実に危ういものといえますし、負担を担うのは一般市民です。

ー疑わしいといえば、非経済的ともおっしゃいましたが、今週、フランスの原子力企業アレヴァ社が、記録的な欠損を出したことが明るみに出ました。
これも、ハーンさんがおっしゃっていた不経済から来ているのでしょうか?

ハーン氏:
もちろん関係があります。
アレヴァは、フィンランドに建設する原発で、固定価格をオファーしました。
30億ユーロです。
しかし、費用はいまや、90億ユーロに膨れ上がってしまいました
ということは、3倍の費用です。
アレヴァでは、何十億ユーロという金額を、準備金として用意しておかなければならないのです。

ーそれはもっともな論拠で、だからこそ、原子力エネルギーを続行するのは不経済だというわけですが、
それでも政治的な後ろ盾があるのは、最初に挙げてくださった理由だけですか?
政治に対し影響力が強いというほかに、なにか理由はあるのでしょうか?

ハーン氏:
そうですね、原子力ロビーの影響力が非常に強いことと、政治家の中に、これを威信にかかわる問題と思っている人がいます
トルコやハンガリーの例が出ましたが、これらの国々の現地では、反対派も多いのです。

ーでも、欧州議会ですら原発建設を推奨していますが、

ハーン氏:
原子力ロビーが、ブリュッセルやその他のヨーロッパの首都に、今もまだ強く働きかけているということです。
実際には、ヨーロッパで3つの原発が建設されていますが、建設費用と建設期間に関して言えば、悲劇的な結果が予想されています


原子物理学者ロター・ハーン氏に、原子力エネルギーの未来について、語っていただきました。
実際は、原子力には未来はない、と信じていられますよね。
今日はおいでくださって、ありがとうございました。
まだ質問があれば、この番組の後、オンラインでマクロをごらんください。
ロター・ハーン氏が、ブログで、視聴者の質問に答えてくださいます。
インターネットアドレスはご覧のとおりです。

世界は、フクシマから何を学んだのでしょうか?
どうやら何も学ばなかったようです。
不安定な地域に原発を建設しようとしているのを見ると、そう思わずにいられません。
そしてトルコも、国内初の原発を、よりによって地震の危険がある地域に建設する計画です。

******* ******* *******

メルスィン近くのトルコ南部沿岸。
人の踏み入らぬ自然、絵に描いたような入り江。
観光はわずかで、農業を営む人たちがいる。
ここに、ロシアの国営原子力企業ロスアトムが、トルコ初の原発を建設するという。
敷地に通じる自動車道路が、現在整備されている。
このプロジェクトはしかし、住民たちには快く受け入れられていない。
環境評価の公聴会は、2013年、あまりに激しい抗議と反対運動のため、実現されなかった

地元住民:
子供たちや孫に、毒を与えるなどまっぴらごめん。
原発など要らない。
生態系がすべて破壊されてしまう。
もうどこも立ち入り禁止にされちゃって、山羊が草を食べる場所すらない。
そして、海にももう行かれない。


建物の中では、建設会社が新しい技術の宣伝をするが、それも無駄だった。
チェルノブイリとフクシマがあった後には、誰もそんなことを聞く耳は持たない。

彼(エルドアン大統領)こそ、原子力エネルギーの信奉者だ。
大統領のエルドアンは去年の12月に、ロシアの大統領プーチンをアンカラに迎えた。
この時点で、アックユ原発建設の契約は、もうとっくに決まっていた。
プーチンのロスアトム・エージェントが、このプロジェクトの資金を全面的に出した
費用は250億ドル、と推測されている。
途方もない問題に懸念を抱く人たちに対し、エルドアンが見せたのは嘲笑だけだった。

「世界に、原発は400基以上ある」

福島事故のすぐ後、エルドアンはこのように言った。

「原発は確かに爆発するが、それを言うならガスボンベだって爆発する。
だからもうガスを使うな、と言うのか?」


エルドアンは、石油とガス輸入への依存を、少しでも少なくしていきたいのだ。
過去数年間の経済成長で、ロシアからの天然ガスの輸入だけでも、なんと3倍も増えた
これは年間600億ドル以上になり、トルコのあまりよくない経常収支にとって厳しい数字
原発を作ってこの依存度を少なくすると、トルコ政府は主張しているのだ。
しかしアックユ原発は、とりあえずロシアのものだ。
2019年からここで、4800メガワットの発電が成されるが、それをトルコが保証価格で買い取ることになっているのだ。

エルドアンにはさらに計画がある。
日本の安倍総理大臣とエルドアンは、2013年に、トルコ第二の原発を建設する契約を締結した。
これも同じく、4800メガワット級の原発だ。
この日本とフランス共同の原子炉は、黒海沿岸のシノップ沿岸に建設される予定だ。
地震学者シェンガー氏を始めとする科学者は、地震等が起こる危険を説いて警告している。


(イスタンブール技術大学地質学者)シェンガール氏:
主な断層はそこまでは至っていませんが、しかし活発な正断層があり、この正断層が原発を脅かすことが考えられます
でも、ほかにも問題があるのです。
東部地中海地域には、非常に高い津波の危険性があるのです。
これまでに、地中海東部では何度か、巨大な津波で被害を受けた歴史があります


アックユでは、住民たちが、これまでどおりの反対運動を続けている。
彼らは行政裁判所に対し、認めるわけにはいかない原発の環境との不適合性を審査するよう、申し立てるつもりだ。
グリーンピースが撮影した画像によれば、
許可が下りていないにもかかわらず、立ち入り禁止のはずの入江で、すでに建設準備が始められている
原発を操業する電力会社は、住民たちに雇用を約束した。
しかし、そもそも、どれだけの人数の雇用者が、どれだけの期間にわたって仕事を得るのか?
懐疑は残る。
近郊のイェシロバチックの漁民も同じだ。
彼らは、原発建設予定地周辺の海域には、もう船を寄せることはできない。
原発がきたところでよくなりはしないと、皆確信している


(イェシロバチック村の漁師)Nazim Basbug氏:
このような何十億もかかるプロジェクトでは、どの企業も、自分たちの従業員を連れてくるのが通常だ。
僕たちにどれだけ仕事をくれるというのか? 
50人分?100人分?


でも、ここの失業率は、70%から80%だ。
しかし彼らは、現実的に見ている。
政府や外国企業の計画を阻止することは、彼らにはできないだろうと。

******* ******* *******

原子力エネルギーのカムバックが、今回の「マクロ」のテーマでした。
今のところ原子力発電は、政治的な追い風をふんだんに受けています。
このテーマについてさらに興味のある方は、ぜひ、インターネットでオンライン・マクロをご覧ください。
ここでは例えば、原発と恐竜の、驚くべき共通点がおわかりいただけます。
そこからブログに入っていただくと、今日のスタジオのゲストが質問に答えてくださいます。
3Satのエコノミーマガジン『マクロ』でした。
次回もお楽しみに

字幕翻訳:無限遠点
(*岩塩岩株とは、岩塩採掘後の地中にある、おおよそ円筒形の空洞部分のこと)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする