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ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

「日本が抜ければTPPは発効しません。年明けの国会が最後の勝負です」堤未果氏

2016年02月16日 | 日本とわたし
実際に身を置いて暮らしてみなければわからない問題、というものがあります。
アメリカに移住してからそろそろ16年。
いろんなことに驚いたり感心したりがっかりしたりしてきましたが、中でも健康保険の問題については、今なお、なんで?という気持ちが拭えません。
1%の支配を、強烈に感じるのです。
オバマケアというものが、やっとのやっとで始まって、ついにわたしたちにも春が来るかと期待していたのですが、
これから読んでいただく記事の中で、堤氏がおっしゃっているように、なんのこっちゃない、同じようなもんじゃん…な結果に終わってしまっています。
わたしたち夫婦ふたりだけの健康保険の支払い額は、月々10万円。
これでも少しだけ、安くにはなりました。
けれども、結局は、民間の保険会社が指定した病院や医師でないと、治療を頼むことはできません。
そして、パッケージにはいろいろな選択肢があるのですが、どれもこれもがややこしくて、これを移民家族の、あまり英語が堪能ではない家族が、書かれていることをちゃんと把握できるかどうか、非常に疑問です。
英語人の夫でさえ、自分たちに一番合いそうな、というか、コレにするしかないじゃないか、みたいな心持ちで選ぶ作業に、長い時間と手間がかかりましたから。
そしてやっとのことで選んだパッケージが、月々の支払いが10万円のもので、
もちろん、今までと同じく、歯と目の治療には保険が使えませんから、実費での支払いになります。
巷の噂で流れている、虫歯治療に何十万円というのは、実際の話です。
月々の支払いを10万円ぐらいまで下げるために選んだパッケージは、治療費が、例えば25万円を超過すると、その後の治療費は無料(または少額)にしてやるよ、というもので、
だから今年は、せっせと、一昨年からうるさく言われていた検査を、次から次へと受けました。
でも、残念ながら、その最低ラインには到達できず、結局、国から検査を受けるよう指定されているもの以外は、すべて実費になりました。
どんな状況でも、まず必ず行かなければならないのが、プライマリードクターといって、いわゆる一般的な診察をする医者のところです。
その病院に行くと、治療や検査の有る無しに関わらず、必ず窓口で、数千円(うちの場合は4000円)払わなくてはなりません。
症状を診た後、紹介してもらった専門の医者に行くと、もっと高くなります。
おかげさまで、夫もわたしも、これまで深刻な病気というものにかかったことがありません。
腎臓結石でとんでもなく痛い思いをしたことはありますが、薬を数日服用しただけで、後は夫の鍼治療で回復しました。
でも、その極限の痛みの中でも、救急車を呼ぶことを躊躇したこと。
救急医療には保険が利かないという、この恐ろしいシステムが、たくさんの人に痛みや苦しみを余計に与えているのです。
それだけではありません。
躊躇したがために、命を落としてしまった人もいます。
なんでそんなことに躊躇するのだ?と、疑問に思われるかもしれません。
でもそれは、日本の健康保険事情が、いかに恵まれているかの証です。

こんなくそったれな、すでにこの国ですっかり肥えている保険会社の、餌食になるようなことを許してはなりません。
議員にハッパをかけてください。
電話でも事務所の訪問でも、そしてファックスやメールでも、なんでもいいので翻訳して、読んで、討議しろ!と命じてください。

↓以下、転載はじめ

ジャーナリスト堤未果氏 「国民皆保険の切り崩しは始まっています」
【日刊ゲンダイ】2015年12月7日
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/170925/1

臨時国会を拒否し、2日間の閉会中審査でTPP審議をはぐらかした安倍政権が、バラマキを始めた。
最も反対の声が大きい農林水産業界を黙らせ、国民が売国条約の全容を知る前に、承認に持ち込もうというハラなのだが、問題は農業だけじゃない
米国が狙う本丸は、医療分野だ。
その懸念を早くから訴えてきた、この国際ジャーナリストの堤未果氏は、
「国民皆保険制度の切り崩しはすでに始まっている」と、警鐘を鳴らす。


――10月に大筋合意したTPPの全文が、11月にようやく公表されました。

日本政府が作成した、30章97ページの「TPP協定の全章概要」は、かなりはしょっています
ニュージーランド政府の英文文書は、まったく同じ内容なのに598ページ
文書を含めた全体では、1500ページ超が215ページに縮められています
話になりません。


――日本政府が公開したのは、本当の意味の全文じゃないんですね。

私が取材している、医療や食品にとって重要な「知的財産章」「投資章」「透明性及び制度に関する規定章」は、138ページが21ページに圧縮されています

そもそも、TPPの正文(国際条約を確定する正式な条約文)は、英語、仏語、スペイン語
域内GDPで、米国に次ぐ経済力のある日本が入っていないことに、なぜ外務省は抗議しないんでしょう? 
「不都合な真実」を国民に知られまいと、外務省が正文扱いを断ったんじゃないか、という臆測まで広まっています。


――一般の国民が全容を知るのは、不可能に近いですね。国会議員でも怪しいところですが。

外務省は、英語正文を読み込める国会議員はいない、とタカをくくっているんです。
外務省が都合よく翻訳した「概要」をベースに、いくら審議を重ねても意味がない
いつものように、手のひらで転がされるだけです。


■TPPの正文翻訳を急がなければ安倍政権の思うツボ

――国会議員がしっかりしないとマズい。

正文に記された内容を、正確に把握した上で、問題点を追及しなければ、承認を急ぐ安倍政権の思うツボ
日本語の正文がない以上、外注でも何でもして、大至急翻訳する必要があります
法律には、巧妙な言い回しで、“地雷”を埋め込まれていますから、国際弁護士のチェックも欠かせません
適用範囲が拡大した、TPPの肝であるISD条項(国と投資家の間の紛争解決条項)は、すべての国会議員が目を通すべきですし、
厚労委に所属する先生だったら、食の安全と医療は最低限押さえるとか、それぞれの専門分野の正文を読むべきです。

こういう時のために、税金から政党助成金が配分されているんです。

30人の国会議員で、1章ずつ翻訳を頼めば、アッという間にできる作業でしょう。
臨時国会が召集されず、審議が本格化する年明けの通常国会まで、時間はあるんですから。


――正文の翻訳をHPなりSNSにアップしてくれれば、一般の国民も内容に触れやすくなります。

そうですね。
まずは全章翻訳ですが、TPPは、付属書と、日米並行協議などの内容をまとめた2国間交換文書の3つで1セット。
法律は、付帯文書に核心を仕込んでいることがままありますし、
TPP参加の入場券と引き換えに、日米並行協議で、非関税障壁を要求されています
ここで日本がのんだ「譲歩リスト」は、特にしっかり精査しなければなりません
TPPは、「1%VS99%の情報戦争」
時間との勝負なんです。



米国でTPPが批准されないという見通しは甘い

――「1%VS99%」とは、どういうことですか?

TPPは、「1%のクーデター」とも呼ばれています。
1%というのは、米国の多国籍企業や、企業の利益を追求するロビイスト、投資家やスーパーリッチ(超富裕層)のこと。
彼らの目的は、国から国家の機能を奪い、株式会社化して、効率良く利益を最大化することなんです。
民営化は、彼らをますます潤わせる手段です。

いま、米国で最も力のあるロビイストは、製薬業界
彼らが虎視眈々と狙っているのが、日本の医療分野で、30年前から自由化の圧力をかけてきた
TPPはその総仕上げなんです。


――中曽根政権時代ですね。

86年のMOSS協議(市場分野別個別協議)で、米国から、薬と医療機器の市場開放を求められたのが皮切りです。
その後も、対日年次改革要望書などで、
・混合医療の解禁や米保険会社の市場参入
・薬や医療機器の価格を決定する中医協に、米企業関係者の参加を要求するなど、
さまざまな注文を付けてきた。
TPPを批准したら、安倍首相の言う通りに、皆保険の仕組みは残りますが、確実に形骸化します
自己負担限度額を設けた高額療養費制度も、なし崩しになるでしょう。
米国民と、同じ苦しみを味わうことになってしまいます。


――米国では14年にオバマ大統領が皆保険を実施しましたが、そんなにヒドイ状況なんですか?

通称「オバマケア」は、社会保障の色合いが濃い日本の皆保険とは、似て非なる制度。
民間医療保険への加入を、義務付けられたのです。
日本では、収入に応じた保険料を支払い、健康保険証を提示すれば、誰でもどこでも病院で受診できる。
オバマケアは、健康状態によって掛け金が変動する、民間保険に強制加入させられる上、無加入者は罰金を科されます
オバマケアは、政府に入り込んだ、保険会社の重役が作った法律
保険会社は、リスクが上がるという口実で、保険料を引き上げ、プランごとにカバーできる医療サービスや処方薬を見直した
保険料は毎年値上がりするし、米国の薬価は製薬会社に決定権があるため、非常に高額
日本と同程度の医療サービスを受けられるのは、ひと握りの金持ちだけ
当初喝采していた政権びいきのNYタイムズまで、保険料や薬価が高騰した、と批判し始めました。


――盲腸の手術に200万円とか、タミフル1錠7万円というのは大げさな話じゃないんですね。

WHO(世界保健機関)のチャン事務局長も、TPPによる薬価高騰の懸念を示していますし、国境なき医師団も非難しています
「特許期間延長制度」「新薬のデータ保護期間ルール構築」「特許リンケージ制度」は、いずれも後発薬の発売を遅らせるものです。
製薬会社にとって新薬はドル箱です。
TPPによって、後発薬発売が、実質延長されるでしょう。
米国では、特許が切れたタイミングで後発薬を売り出そうとする会社に対し、新薬を持つ製薬会社が難癖をつけて、訴訟に持ち込む
裁判中は後発薬の発売ができませんから、引き延ばすほど、製薬会社にとってはオイシイんです。


■「TPPの実態は独占」

――HIVや肝炎などを抱える患者にとっては死活問題ですが、日本の薬価や診療報酬は中医協や厚労省が決定権を握っています。

TPPの「透明性の章」と関係するんですが、貿易条約で言う「透明性」は、利害関係者を決定プロセスに参加させる、という意味
米国は、小渕政権時代から、中医協に民間を入れろと迫っているんです。
TPPでそれを許せば、公共性や医療の正当性を軸にしている審査の場に、ビジネス論理が持ち込まれてしまう
グローバル製薬業界は、新薬の保険適用を縮小したり、公定価格との差額を政府に穴埋めさせるなどして、皆保険を残したまま高く売りつけたい
医療費がかさめば、民間保険に加入せざるを得なくなり、保険会社もニンマリですよ。

TPPが発効したら、政府は、医療費抑制のために、3つの選択肢を示すでしょう。
▽皆保険維持のために、薬価は全額自己負担
▽自己負担率を8割に引き上げ
▽診療報酬の引き下げ――。


診療報酬が下がれば、儲からない病院は潰れ医師は米国と同じように、利益を意識して患者を選ばざるを得なくなる
最終的に、シワ寄せは私たちにきます


――安倍政権が取り組む国家戦略特区で、大阪は、医療分野の規制緩和に向けて動き出しています。

大阪だけではすみません。
特区内に本社を置けば、特区外でも同様の医療サービスを展開できる。
事実上の自由診療解禁です。
マスコミは、TPPを、自由化というスタンスで報じていますが、TPPの実態は独占
国内産業保護のために規制していた、参加国のルールは自由化されますが、製薬会社などが持つ特許や知財権は、彼らの独占状態になる

1%の人々にとって、TPPは夢
ロビイストが米議会にバラまいた献金は、100億円を超えましたが、その何百倍もの恩恵を未来永劫得られるのですから、安い投資です。
米国でTPPが批准されない、という見通しは甘い
実現に向けて、彼らはさらに、札束をまくでしょう。
日本が抜ければ、TPPは発効しません
年明けの国会が最後の勝負です

▽つつみ・みか 
1971年、東京生まれ。
NY市立大学大学院修士号取得。国連、証券会社などに勤務。
「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命」で、黒田清日本ジャーナリスト会議新人賞。
「ルポ 貧困大国アメリカ」で、日本エッセイスト・クラブ賞、新書大賞。
「政府は必ず嘘をつく」で、早稲田大学理事長賞。
近著に「沈みゆく大国 アメリカ」(2部作)。
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『「戦争ができる国=主権国家』という等式しか脳内にはない安倍政権から、国を取り戻そう!

2016年02月16日 | 日本とわたし
今から8ヶ月も前の記事ですが、今こそ読まなければならないものだと思いました。
胴着を身につけた内田氏の後ろに、合気道の創始者である植芝盛平氏の写真を見つけて、ニンマリしました。
掲載にあたり、わたしの判断で文字の強調などをしたのですが、強調したい文章ばかりで、作業を終えてから、これならみんな一括して太字にすればよかった…などと思いました。

↓以下、転載はじめ

対米従属を通じて「戦争ができる国」へ
【BLOGOS】2015.06.22



ある月刊誌のインタビューで、安倍政権の進める安保法制についての所見を求められた。
「戦争ができる国」になることが、安倍首相にとって「主権国家」と等値されているというところに、現政権の倒錯があるということを縷々述べた。
いつもの話ではあるけれど、あまり目に触れる機会のない媒体なので、ここに再録。

──「安倍政権は対米従属を深めている」という批判があります。

内田 
先日、ある新聞社から、安倍政権と日米同盟と村山談話のそれぞれについて、100点満点で点をつけてくれという依頼がありました。
私は、「日米同盟に関する評点はつけられない」と回答しました。
日米同盟は、日本の政治にとって、所与の自然環境のようなものです。
私たちは、その「枠内」で思考することを、つねに強いられている
「井の中の蛙」に向かって、「お前の住んでいる井戸の適否について評点をつけろ」と言っても無理です。
「大海」がどんなものだか、誰も知らないんですから。

そもそも、日米が「同盟関係」にあるというのは、不正確な言い方です。
誰が何を言おうが、日本はアメリカの従属国です。
日米関係は、双務的な関係ではなく、宗主国と従属国の関係です。

現に、日本政府は、外交についても国防についても、エネルギーや食糧や医療についてさえ、重要政策を自己決定する権限を持たされていない
年次改革要望書や、日米合同委員会や、アーミテージ・ナイ・レポートなどを通じて、アメリカが要求してくる政策を、日本の統治者たちはひたすら忠実に実行してきた
その速度と効率が、日本国内におけるキャリア形成と同期している
つまり、アメリカの要求を、できる限り迅速かつ忠実に物質化できる政治家、官僚、学者、企業人、ジャーナリストたちだけが、国内の位階制の上位に就ける
そういう構造が70年かけて出来上がってしまった
アメリカの国益を最優先的に配慮できる人間しか、日本の統治システムの管理運営にかかわれない
そこまでわが国の統治構造は、硬直化してしまった
アメリカの許諾を得なければ、日本は重要政策を決定できない
しかし、日本の指導層は、アメリカから命じられて実施している政策を、あたかも自分の発意で、自己決定しているかのように見せかけようとする
アメリカの国益増大のために命じられた政策を、あたかも日本の国益のために自ら採択したものであるかのように取り繕っている
そのせいで、彼らの言うことは支離滅裂になる。
国として、一種の人格解離を病んでいるのが、今の日本です。


──いま、日本のナショナリズムは、近隣諸国との対立を煽る方向にだけ向かい、対米批判には向かいません。

内田 
世界のどこの国でも、国内に駐留している外国軍基地に対する反基地闘争の先頭に立っているのは、ナショナリストです。
ナショナリストが反基地闘争をしないで、基地奪還闘争を妨害しているのは日本だけです。
ですから、そういう人々を「ナショナリスト」と呼ぶのは、言葉の誤用です。
彼らは対米従属システムの補完勢力に過ぎません


──どうすれば、対米従属構造から脱却できるのでしょうか。

内田 
まず私たちは、「日本は主権国家でなく、政策決定のフリーハンドを持っていない従属国だ」という現実を、ストレートに認識するところから始めなければなりません
国家主権を回復するためには、「今は主権がない」という事実を認めるところから始めるしかない
病気を治すには、しっかりと病識を持つ必要があるのと同じです。
「日本は主権国家であり、すべての政策を自己決定している」という妄想から、まず覚める必要がある

戦後70年、日本の国家戦略は、「対米従属を通じての対米自立」というものでした。
これは、敗戦国、日占領国としては、必至の選択でした。
ことの良否をあげつらっても始まらない
それしか生きる道がなかったのです。

でも、対米従属は、あくまで一時的な迂回であって、最終目標は対米自立であるということは、統治にかかわる全員が了解していた
「面従腹背」を演じていたのです。

けれども、70年にわたって、「一時的迂回としての対米従属」を続けてるうちに、「対米従属技術に長けた人間たち」だけがエリート層を形成するようになってしまった
彼らにとっては、「対米自立」という長期的な国家目標は、すでにどうでもよいものになっている
それよりも、「対米従属」技術を洗練させることで、国内的なヒエラルヒーの上位を占めて、権力や威信や資産を増大させることの方が、優先的に配慮されるようになった

「対米従属を通じて自己利益を増大させようとする」人たちが、現代日本の統治システムを制御している

安倍首相が採択をめざす安保法制が、「アメリカの戦争に、日本が全面的にコミットすることを通じて、対米自立を果すための戦術的迂回である」というのなら、その理路はわからないではありません
アメリカ兵士の代わりに、自衛隊員の命を差し出す
その代わりにアメリカは、日本に対する支配を緩和しろ、日本の政策決定権を認めろ、基地を返還して国土を返せというのなら、良否は別として話の筋目は通っている

でも、安倍首相は、そんなことを要求する気はまったくありません
彼の最終ゴールは、「戦争ができる国になる」というところです。
それが最終目標です。
「国家主権の回復」という戦後日本の悲願は、彼においては、「戦争ができる国になること」にまで矮小化されてしまっている
「戦争ができる国=主権国家」という等式しか、彼らの脳内にはない
アメリカの軍事行動に、無批判に追随してゆくという誓約さえすれば、アメリカは、日本が「戦争ができる国」になることを認めてくれる
それが政府の言う、「安全保障環境の変化」という言葉の、実質的な意味です。

そこまでアメリカは、国力が低下しているということです。
もう「世界の警察官」を続けてゆくだけの、体力もモチベーションもない
けれども、産軍複合体という巨大なマシンが、アメリカ経済のエンジンの不可欠の一部である以上、戦争は止められない
でも、アメリカの青年たちを、グローバル企業の収益を高めるために戦場に送り出すことには、国民の厭戦気分が臨界点を超えつつある今はもう無理である。
だからアメリカは、「戦争はしたいけど、兵士は出したくない」という、「食べたいけど、痩せたい」的ジレンマのうちに引き裂かれている
そこに出て来たのが安倍政権である。
アメリカがこれまで受け持っていた軍事関係の、「汚れ仕事」をうちが引き受けよう、と自分から手を挙げてきた
アメリカの「下請け仕事」を引き受けるから、それと引き替えに、「戦争ができる国」になることを許可して欲しい
安倍政権はアメリカに、そういう取り引きを持ちかけたのです。

もちろんアメリカは、日本に軍事的フリーハンドを与える気はありません
アメリカの許諾の下での武力行使しか認めない
それは、アメリカにとっては当然のことです。
日本が、これまでの対米従属に加えて、軍事的にも対米追随する「完全な従属国」になった場合に限り、日本が「戦争ができる国」になることを許す
そういう条件です。

しかし、安倍首相の脳内では、「戦争ができる国こそが主権国家だ」「戦争ができる国になれば国家主権は回復されたと同じである」という奇怪な命題が成立している
自民党の政治家たちの相当数も、同じ妄想を脳内で育んでいる
そして、彼らは、「戦争ができる国」になることをアメリカに許可してもらうために、「これまで以上に徹底的な対米従属」を誓約したのです。
かつての日本の国家戦略は、「対米従属を通じて、対米自立を達成する」というものでしたが、
戦後70年後にいたって、ついに日本人は、「対米従属を徹底させることによって、対米従属を達成する」という、倒錯的な無限ループの中にはまりこんでしまったのです。
これは「対米自立」を悲願としてきた、戦後70年間の日本の国家目標を、放棄したに等しいことだと思います。


──どうして、これほどまでに対米従属が深まったのでしょうか。

内田 
吉田茂以来、歴代の自民党政権は、「短期的な対米従属」と「長期的な対米自立」という二つの政策目標を、同時に追求していました
そして、短期的対米従属という「一時の方便」は、たしかに効果的だった
敗戦後6年間、徹底的に対米従属をしたことへの見返りに、1951年に、日本はサンフランシスコ講和条約で、国際法上の主権を回復しました
その後、さらに20年間、アメリカの世界戦略を支持し続けた結果、1972年には、沖縄の施政権が返還されました
少なくともこの時期までは、対米従属には、主権の(部分的)回復、国土の(部分的)返還という「見返り」が、たしかに与えられた
その限りでは、「対米従属を通じての対米自立」という戦略は、実効的だったのです。

ところが、それ以降の対米従属は、まったく日本に実利をもたらしませんでした
沖縄返還以後43年間変わることなく、日本はアメリカの衛星国、従属国でした。
けれども、それに対する見返りは何もありません
ゼロです
沖縄の基地はもちろん、本土の横田、厚木などの米軍基地も、返還される気配もない
そもそも、「在留外国軍に撤収してもらって、国土を回復する」というアイディアそのものがもう、日本の指導層にはありません
アメリカと実際に戦った世代が政治家だった時代は、やむなく戦勝国アメリカに従属しはするが、一日も早く主権を回復したいという切実な意志があった
けれども、主権回復が遅れるにつれて、「主権のない国」で暮らすことが苦にならなくなってしまった
その世代の人たちが、今の日本の指導層を形成しているということです。


──日本が自立志向を持っていたのは、田中角栄首相までということですね。

内田 
田中角栄は1972年に、ニクソン・キッシンジャーの頭越しに、日中共同声明を発表しました。
これが、日本政府が、アメリカの許諾を得ないで、独自に重要な外交政策を決定した最後の事例だと思います。
この田中の独断について、キッシンジャー国務長官は、「絶対に許さない」と断言しました。
その結果はご存じの通りです。
アメリカはそのとき、日本の政府が独自判断で外交政策を決定した場合に、どういうペナルティを受けることになるかについて、はっきりとしたメッセージを送ったのです。


──田中の失脚を見て、政治家たちはアメリカの虎の尾を踏むことを恐れるようになってしまったということですか。

内田 
田中事件は、アメリカの逆鱗に触れると、今の日本でも事実上の「公職追放」が行われるという教訓を、日本の政治家や官僚に叩き込んだと思います。
それ以後では、小沢一郎と鳩山由紀夫が、相次いで「準・公職追放」的な処遇を受けました
二人とも、「対米自立」を改めて国家目標に掲げようとしたことを咎められたのです。
このときには政治家や官僚だけでなく、検察もメディアも一体となって、アメリカの意向を「忖度」して、彼らを引きずり下ろす統一行動に加担しました。


──内田さんは、1960年代に高まった日本の反米気運が衰退した背景に、アメリカの巧みな文化戦略があったと指摘しています。

内田 
占領時代にアメリカは、日本国民に対して、きわめて効果的な情報宣伝工作を展開し、みごとに日本の言論をコントロールしました
しかし、親米気運が醸成されたのは、単なる検閲や情報工作の成果とは言い切れないと思います。
アメリカ文化の中には、そのハードな政治的スタイルとは別に、ある種の「風通しのよさ」があります
それに日本人は惹きつけられたのだと思います。

戦後まず日本に入ってきたのは、ハリウッド映画であり、ジャズであり、ロックンロールであり、レイバンやジッポやキャデラックでしたけれど、これはまったく政治イデオロギーとは関係がない、生活文化です。
その魅力は、日本人の身体にも感性にも直接触れました
そういうアメリカの生活文化への「あこがれ」は、政治的に操作されたものではなく、自発的なものだったと思います。

同じことは、1970年代にも起こりました
大義なきベトナム戦争によって、アメリカの国際社会における評価は、最低レベルにまで低下していました。
日本でも、ベトナム反戦闘争によって、反米気運は亢進していた
けれども、70年代はじめには、反米気運は潮を引くように消滅しました。
それをもたらしたのは、アメリカ国内における「カウンター・カルチャー」の力だったと思います。

アメリカの若者たちは、ヒッピー・ムーブメントや「ラブ・アンド・ピース」といった反権力的価値を掲げて、政府の政策にはっきりと異を唱えました
アメリカの若者たちのこの「反権力の戦い」は、映画や音楽やファッションを通じて、世界中に広まりました
そして、結果的に、世界各地の反米の戦いの戦闘性は、アメリカの若者たちの発信するアメリカの「カウンター・カルチャー」の波によって、いくぶんかは緩和されてしまったと思います。
というのは、そのときに世界の人々は、「アメリカほど反権力的な文化が受容され、国民的支持を得ている国はない」という認識を抱くようになったからです。
「ソ連に比べたらずっとましだ」という評価を、無言のうちに誰しもが抱いた
ですから、東西冷戦が、最終的にアメリカの勝利で終わったのは、科学力や軍事力や外交力の差ではなく
「アメリカにはカウンター・カルチャーが棲息できるが、ソ連にはできない」という、文化的許容度の差ゆえだったと思います。

統治者の不道徳や無能を告発するメッセージを、「文化商品」として絶えず生産し、自由に流通させ、娯楽として消費できるような社会は、今のところ、世界広しといえどもアメリカしかありません
アメリカが、世界各地であれほどひどいことをしていたにもかかわらず、反米感情が臨界点に達することを防いでいるのは、
ハリウッドが、大統領やCIA長官を「悪役」にした映画を大量生産しているから
だと私は思っています。
アメリカの反権力文化ほど自国の統治者に対して辛辣なものは他国にありません。
右手がした悪事を左手が告発するという、このアメリカの「一人芝居的復元力」は、世界に類を見ないものです。
アメリカの国力の本質はここにある、と私は思っています。
これは、アメリカ政府が、意図的・政策的に実施している「文化政策」ではありません
国民全体が無意識的にコミットしている、壮大な「文化戦略」なのだと思います。


──長期的にアメリカの国力が低下しつつあるにもかかわらず、親米派はアメリカにしがみつこうとしています。

内田 
アメリカが覇権国のポジションから降りる時期が、いずれ来るでしょう。
その可能性は直視すべきです。
直近の例として、イギリスがあります。
20世紀の半ばまで、イギリスは、7つの海を支配する大帝国でしたが、1950年代から60年代にかけて、極めて短期間に一気に縮小してゆきました
植民地や委任統治領を次々と手放し、独立するに任せました
その結果、大英帝国はなくなりましたが、その後もイギリスは、国際社会における大国として生き延びることには成功しました
いまだにイギリスは、国連安保理の常任理事国であり、核保有国であり、政治的にも経済的にも文化的にも、世界的影響力を維持しています

60年代に、「英国病」ということがよく言われましたが、
世界帝国が一島国に縮減したことの影響を、経済活動が低迷し、社会に活気がなくなったという程度のことで済ませたイギリス人の手際に、私たちはむしろ驚嘆すべきでしょう。
大英帝国の縮小は、アングロ・サクソンにはおそらく、成功例として記憶されています
ですから、次にアメリカが、「パックス・アメリカーナ」体制を放棄するときには、イギリスの前例に倣うだろう、と私は思っています。
帝国が、その覇権を自ら放棄することなんかありえない、と思い込んでいる人がいますが、ローマ帝国以来すべての帝国は、ピークを迎えた後は必ず衰退してゆきました
そして、衰退するときの「手際の良さ」が、それから後のその国の運命を決定したのです。
ですから、「どうやって最小の被害、最少のコストで帝国のサイズを縮減するか?」を、アメリカのエリートたちは今、真剣に考えていると私は思います。

それと同時に、中国の台頭は避けられない趨勢です。
この流れは止めようがありません。
これから10年は、中国の政治的、経済的な影響力は、右肩上がりで拡大し続けるでしょう。
つまり、東アジア諸国は、「縮んで行くアメリカ」と「拡大する中国」という二人のプレイヤーを軸に、そのバランスの中でどう舵取りをするか、むずかしい外交を迫られることになります。
フィリピンはかつて、クラーク、スービックという巨大な米軍基地を、国内に置いていましたが、
その後、外国軍の国内駐留を認めないという憲法を制定して、米軍を撤収させました

けれども、その後、中国が南シナ海に進出してくると、再び米軍に戻ってくるように要請しています。
韓国も、国内の米軍基地の縮小や撤退を求めながら、米軍司令官の戦時統制権については、返還を延期しています。
つまり、北朝鮮と戦争が始まったときは、自動的にアメリカを戦闘に巻き込む仕組みを温存している、ということです。
どちらも中国とアメリカの両方を横目で睨みながら、ときに天秤にかけて、利用できるものは利用するというしたたかな外交を展開しています。

これからの東アジア諸国に求められるのは、そのようなクールでリアルな「合従連衡」型の外交技術でしょう。
残念ながら、今の日本の指導層には、そのような能力を備えた政治家も官僚もいないし、そのような実践知がなくてはならないと思っている人さえいない
そもそも、現実に何が起きているのか、日本という国のシステムがどのように構造化されていて、どう管理運営されているのかについてさえ、主題的には意識していない
それもこれも、「日本は主権国家ではない」という基本的な現実認識を、日本人自身が忌避しているからです。
自分が何ものであるのかを知らない国民に、適切な外交を展開することなどできるはずがありません
私たちはまず、
「日本はまだ主権国家ではない。
だから、主権を回復し、国土を回復するための気長な、多様な、忍耐づよい努力を続けるしかない」という、
基本的な認識を、国民的に共有するところから始めるしかない
でしょう。
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こな雪とみぞれと引越しオバケと

2016年02月16日 | 家族とわたし
零下18℃などという、とんでもない寒さが続いた上に、今日はまたまた雪が降り、10センチぐらい積もったかと思ったらみぞれになった。



気温は零下のままだったけど、零下なりに少しずつ上昇してきて、今(夜中の12時)でやっと0℃になった。
そんな、誰もが外に出たり車を運転したりしたくない日に、次男くんとまなっちゃんが引越しの総仕上げにやって来た。
まずは、近所の、次男くんいわく、東海岸で一番美味いベトナム料理店!に行き、夫と彼らの3人が牛肉のフォを食べ、わたしは香辛料が苦手なので、別のライスヌードルスープを食べた。
揚げ春巻きと生春巻きも、仲間で注文して食べた。
うーん…次男くんではないけれど、やっぱりこの店は美味い!
近所に居てくれることがありがたい!
道路状況は既にかなりひどくなっていて、行き帰りの両方とも、タイヤが数回ツルッと滑った。

戻ってから、夫が特別に、若者好みにブレンドした豆を挽いたコーヒーをご馳走して一休み。
天気を心配して、今夜は諦めて電車で帰ったら?などと言う心配性の母親を尻目に、3階の3室全部、残っていた荷物を寄付するもの、捨てるもの、持ち帰るものに分け、部屋の掃除を済ませた。

車がまたまた荷物でぎゅうぎゅうになる。
引越しオバケの本領発揮。
本当に、どうしてこうも、運んでも運んでも運んでも、引越しというものは終わらないのだろう…。

公共の交通機関が便利に使える都会には、そもそも自家用車なんて必要無いし、駐車する場所を見つけるのに下手をすると2時間近くも彷徨わなければならない。
次男くんが乗っている車は、わたしたちが夫の父からのお下がりを貰い受けて乗っていた車で、そのまたお下がりなのだから走行距離はとんでもなく長い。
そしてなぜだか次男くんには、追突されるという事故が何回も起こり、なので外見は誰の目から見てもオンボロそのもの。
でも、次男くんもまなっちゃんも、別に気にすることもなく、ずっと今まで乗ってきた。
が、とうとうのとうとう、駐車場の確保はもちろん、保険や維持費もかかるし、もうそろそろ寿命もきている感じなので、手放すことにした。

ところが、この引越しがちゃんと終わらないことには、車を手放すことができない。
だから、こんな悪天候の横綱みたいな日でも、とにかく終わっちゃいたい!ということなのだろう。
心配だけどしょうがない、ほんっとに気をつけてねと念を押して、帰っていくふたりを見送った。

3階に上がると、すっからかんになった部屋が、ちょっと落ち着かない顔をして沈んでいた。
いろいろ楽しかったな…。
そんなこんなを思い出して、心がしんしんと寂しくなった。

でもまた会える。
今週の金曜日に、マンハッタンで行われる在外選挙イベントで。

などとぼそぼそ書いていたら、たった今、無事に着いたという連絡があった。
よかった…。
あの荷物をまた、ふたりでアパートの部屋まで運ぶのかと思うと気の毒になるけれど、独り立ち、いや、ふたり立ちするってこういうことだ。
頑張れ若者よ、いつだって応援してるからさ。
コメント
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