ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

過労死と日本社会

2016年10月29日 | 日本とわたし
先日、こちらの友人と話している時に、「カローシってほんとなの?」、と聞かれて驚きました。
その人はある日、ウォールストリートジャーナルの紙面上に、"KAROUSHI=DEATH BY OVER WORK"という言葉が載っていて、
それを読んで、その言葉の意味は分かったものの、「だから余計に訳ががわからないの」と、聞いてきたのでした。

「ほんとだし、それも少ないとは言えない数の人が、自殺や自殺未遂を起こしてる」
「なぜ?」

その時に、雨宮処凛さんのエッセイを、英語に訳して紹介したのでした。
するとその友人は、目に涙をためて、
「絶対に間違ってる。こんなことを許す社会であってはいけない」と、かすれた声でつぶやきました。

息子たちが小学生の頃、PTAの執行部の役員になったことがあります。
その時に、いろんな案件が議題に上るたびに、次の役員の人が、今より快適に勤めることができるよう、無理の無い程度の改善策を提案したのですが、
すると必ず、
「そんな、これまでの先輩や私たちが、大変な思いをしてやってきてるのに、その人たちだけ楽になるなんて許せない」
「最近の人は甘やかされてるから、少しぐらい辛い目に遭った方がいい」
「私たちだって、介護や仕事や家事をやり繰りして、必死にやってるんだから、できないなんて言わせない」
などなど、楽にさせてたまるか!という、とても強い意思の塊が、ビュンビュンこちらに向かって飛んできました。

ああ、なんて発想なんだ…これでは全く変わらないはずだ。
わたしは驚き、憤慨し、抵抗を試みたのですが、そんなある夜のこと、エンドレスのファックスが送られてきたのです。
送り主は、2枚の用紙をテープでつなぎ、輪っかにして、こちらのファックス機が根を上げるまで、延々と送り続けられるようにしたのでした。
これはもう病んでいる。
わたしはその時初めて、恐ろしくなったことを覚えています。

マガジン9に掲載された、雨宮処凛さんのエッセイを、以下に転載させていただきます。

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電通過労死認定から、この国の非常識な「普通」を考える。の巻
【マガジン9『雨宮処凛がゆく!第391回』】
http://www.magazine9.jp/article/amamiya/30620/
 
また起きてしまったか…。
 
電通に勤めていた24歳の女性・高橋まつりさんの死が、労災認定された報道を受け、最初に浮かんだ言葉だ。
 
東大を出て電通に入社し、わずか1年足らずで奪われてしまった命。
生前に発信されたTwitterを見ると、睡眠時間2時間という超長時間労働や、上司によるパワハラなどの、過酷な実態が浮かび上がってくる。
そうして昨年クリスマス、彼女は寮から飛び降り、還らぬ人となってしまった。
 
報道などでも触れられているように、電通では、1991年にも、入社1年5ヶ月の24歳の男性社員が自殺している。
この事件について、私は20代の頃、裁判記録を読み込んでいる。
そうして、当時の自分が書いたものを、改めて読み返すと、今回の事件とのあまりの類似性に、頭がクラクラしてきたのだった。
 
例えば、長時間労働。
 
亡くなった高橋まつりさんは、SNSで、
「もう4時だ 体が震えるよ… しぬ もう無理そう」
「土日も出勤しなければならないことがまた決定し、本気で死んでしまいたい」と書いている。
 
一方、91年に亡くなった男性社員の、長時間労働も凄まじい。
男性は、91年8月に自殺したのだが、4〜5日に一度の割合で、深夜2時過ぎまで残業し、
亡くなる直前の7月、8月は、3〜4日に一度の割合で、朝6時半までの残業を強いられている。
連日の睡眠時間は30分から2時間半という、状況が続いていた。
 
そんな過労状態によって、男性は追いつめられ、「自分は役に立たない」「人間としてもう駄目かもしれない」などの言動が見られるようになる。
また、無意識に蛇行運転をしたり、パッシングをしたりといった行動もあり、「霊が乗り移った」などといった言動も見られるようになった。
顔色も悪く、痩せて、顔に赤い斑点ができるようになり、喉やコンタクトレンズの不調を訴えていたという。
 
翻って、高橋まつりさんの死を巡っては、上司による、「君の残業時間の20時間は、会社にとって無駄」などの、パワハラ発言も問題となっている。
一方、91年に亡くなった男性も、壮絶と言っていいパワハラを受けていた。
資料を読み込んでいて、私がもっとも衝撃を受けたのは、宴席でのハラスメントだ。
その内容は、革靴にビールを入れて飲ませる、というもの。
飲まなければ、靴の踵で叩くのだという。
上司は、「面白半分に」やっていたと、証言している。
 
この事実を知って、私は、日本の企業社会が、心の底から怖くなった。
信じられないほどの幼稚さと、信じられないほどの陰湿さが同居した、部下いじめ。
 
ハラスメントは、過労死・過労自殺に、必ずと言っていいほどつきまとう。
ここまで書いて、以前取材した、過労自殺事件を思い出した。
99年、30代で、自宅マンションから飛び降り、亡くなったXさん(男性)。
彼が勤めていたのは、大手機械建設メーカー。
成果主義と裁量労働制が導入されてから、長時間労働が常態化した職場で、Xさんは、月に300時間近い労働を強いられ、弱音を漏らすようになっていく。
 
「人間には限界がある。しかし、僕の場合、もうとっくに限界を超えてしまっている」
「自然に還りたい」
「僕は自転車をこいでいるようだ。疲れていてもこぎ続けなくてはならない。もう、疲れた」
 
そんな中、上司に何度もダメ出しされ、何度もやり直した仕事が、納期に間に合わなくなってしまう。
上司は、みんなの前で、Xさんを激しく叱責。
また、この会社の社員行きつけのパブに、Xさんが行けば、そこでも上司は、Xさんを虐める。
 
このXさんのお姉さんに、インタビューさせて頂いたのだが、印象に残っているのは、以下のような言葉だ。
 
「本当は、はっきり言えば上司なんですよ。
かならず過労死って、3人くらい、上司がかかわっているんですよ。
ダメな上司が3人いると、死んじゃう。
ほかの遺族の話を聞いても、やっぱり3人なんですよ。
弟は、飛び降りる5時間くらい前に、『Bさんに申し訳ない』って言っているんですが、
そのBさんが、弟に、じゃんじゃん仕事を与えていたんです。
それから、『Aさんはイヤだ』と。
Aさんというのは、(Xさんの死後)うちに来た上司です。
もう一人、営業の人で、弟をからかっていた上司もいました。
弟がお客さんに怒られたりすると、みんなの前で、大声で、『お前が怒られるようなことやったんだろう』とか、
弟は、夜しか気分転換の場所がなかったので、お酒を飲みに行くと、そこでもやはり、みんなの前で、大声で辱める。
『こいつは、まだおっぱいが必要な奴なんだから、よろしくな』って。
これってパワハラですよね。
弟としては、人間として許せない上司が、3人もいた職場だった。
上司には、反省してくださいって言いたいです。
どういうことがあったか、逃げないで直視してほしい」
(この事件について詳しく知りたい人は、『生きさせろ!  難民化する若者たち』を読んでください)

 

ちなみにこの会社では、長時間労働が蔓延していたわけだが、裁量労働制という言葉の下、社員の労働時間を、まったくと言っていいほど把握していなかった。
例えば、Xさんの死後、会社は、「亡くなる一週間前に、2回くらい早帰りしていた」と主張していたのだが、
その2日間は、出張していたなどの事実が、明らかになったのだ。
そして恐ろしいのは、この会社では、Xさんの死の半年後、第二の犠牲者が出ていることだ。
Xさんの同僚が、自殺したのである。
 
過労死・過労自殺の問題が、他人事に思えないのは、私自身も、自らの弟の過労死を、本気で心配したことがあるからだ。
本などでも書いているが、2歳年下で、就職氷河期世代の弟は、フリーターを経て家電量販店の契約社員となり、1年後、正社員となった。
正社員になるにあたって、「残業代は出ない、ボーナスは出ない、労働組合には入れない」という誓約書を書かせた会社は、
そこから連日、17時間労働を、弟に強いるようになる。
休憩は、1日30分足らず。
みるみる痩せていく弟を、心配した私は、周囲の友人知人に、状況を説明した。
 
「それ、絶対おかしいよ」という言葉が、返ってくると思っていた。
しかし、私に投げかけられたのは、「正社員だったら、今時それくらい普通だよ」という、妙に冷たい言葉だった。
何人もに、そう言われた。
ほとんどの人に、心配すらしてもらえなかった。
 
弟が過労死するかも、という状況と同じくらい、その言葉は、私にとって衝撃だった。
そして、過労死や過労自殺がなくならない理由が、その言葉に集約されている気がした。
 
その言葉は、おそらく本人が、自分を納得させるために、言い聞かせているものなのではないだろうか。
どんなに長時間労働でも、メチャクチャなノルマを押し付けられても、今時、これくらいのことは普通なのだ。
当たり前のことで、それについていけないなんておかしいのだ。
甘えているのだ。
 
そうやって、ギリギリのところで踏ん張っているからこそ、「辛い」という人が許せない。
弱音を吐く人が、癪に障る。
「ついていけない」とか「無理」なんて、一番の禁句だと、信じ込まされているから。
 
そう思うと、時に部下を死に追いつめる「パワハラ上司」たちも、過酷すぎる労働環境の中、過剰適応の果てに、心が破壊され尽くした存在のようにも思えてくる。
部下に、靴でビールを飲ませるなんて、自らが相当「壊れて」いないと、できることではない。
 
だけど、仕事によって心まで壊され、お互いを追い詰め合う先に、一体何があるのだろう。
有能で従順な労働者になればなるほど、この国の労働環境は、逆に過酷になっている気がして仕方ないのだ。
時に誰かをいじめ殺したり、死者が出ることが前提の、組織や働き方は、絶対におかしい。
どうしてこの国の人々は、それほどに、「仕事」の優先順位が高いのだろう。
 
ちなみに、あまり仕事の優先順位が高くないというイタリアでは、2014年の大晦日、警備の警察官の8割が欠勤したという(朝日新聞2016/9/21)。
驚くが、なんだかちょっと羨ましい話だ。
 
「命より大切な仕事はありません」
 
高橋まつりさんの母親は、会見でそう言った。
日本以外の国で、それはわざわざ言葉にしなくてもいいほどに、おそらく当たり前のことなのだ。
 
15年度に、過労死で労災認定された人は、96人。
未遂も含む過労自殺は、93人。
また、今月、フィリピン人実習生の死が、長時間労働による過労死と、認定されたことが報道された。
 
もう誰一人として、過労死したり過労自殺したりしなくていい社会。
正社員だったら、死にそうな労働環境が「当たり前」なのではなく、過労死や長時間労働がないことが「当たり前」の社会。それを取り戻すためにできることを、改めて、考えている。




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次に紹介するのは、しおしおしいしお…さんが、ツィッターで流しておられた、ご自身の体験談と、その時思ったことを、
漫画にして描いてくださったものです。
わたしはこの、最初のページを読んで、ある時期の自分を思い出し、画面から目が離せなくなりました。

「別に、死にたいと思っていたわけではなかった」

でも、プラットホームの先頭に立っていると、ふと、「今一歩、一歩だけ、前に踏み出したら、もう辛くなくなる」と、
そんな言葉に押し出されるように、ふらりと体が前に揺れたことが、何度も何度もありました。
その時わたしはまだ学生で、過労というのではなかったのですが、
医者に匙を投げられ、余命を宣告され、父の借金の取り立てに励む暴力団からの、脅しの電話を受ける毎日が続いていて、
ほとほと生きているのが辛い、もちろん体もだるくて仕方がない、言いようのない疲れと絶望の中にいたのでした。
だから、疲弊と悲しみがない交ぜになった沼に、じわじわと沈んでいく自分を、どうすることもできずにただただ眺めているしかありませんでした。
そしてその眺めは、少しずつ、気が付かないうちに、暗く、狭くなっていたのです。

もし、少しでもなんとなく同じかもしれないと思うようなことがある人は、どうかお願いですから、一度しっかり休んじゃってください。
そして、寝たいだけ寝る。
異常に眠いはずです。
こんなに寝ちゃっていいのかなって驚くほど、眠るかもしれません。
でも、それでいいのです。
眠りたいだけ眠って、その後は温かいお風呂に浸かったり、温かな食事を食べて、まずは精気を取り戻してください。

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▪️「死ぬくらいなら辞めれば」ができない理由・その1
むかーしの体験談と、そのとき思ったこと。
よければ拡散してください。










▪️「死ぬくらいなら辞めれば」ができない理由・その2
イジメで自殺するような子も、同じような状況に陥ってると思います。
洗脳前に動くのが大事だ!
洗脳されかかってたら、とにかく寝るのが大事だ!








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