お正月に家族がカレーを食べたいと言うので、前に一度行ったことがあるネパールカレーの店に行くことにした。
その店はコックさんも店員さんも全員ネパールの方で、ネパールへ行ったことが無いので分からないが、これが本場のネパールカレーなのかと思うほど、スパイスの効いたカレーと大きなナンが美味しい。
行った日は、前日までがお店のお正月休みで、ちょうどその日が今年最初の営業だった。
お昼時とあって数台止めることのできる駐車場はすでに満車。一台が出たので、なんとか止めることができた。
前回、初めてこの店に来た時、ネパール人の店員さん達は「どうぞどうぞ、入って入って~」と陽気に店に招き入れてくれた。
今回もそうかな?とお店のドアを開けたら、あらら、なんだか前と様子が違うみたい。
どこが違うかというと、店員さん達に前回の陽気さが微塵もない。
前はウエルカム全開で迎えてくれたのに、今回は「またお客が来ちゃったよ。まいったな」という感じが漂っていた。
また席に座っているお客さん達も、お正月だというのになんだかみんなテンションが低いように思えた。
とりあえず、空いている席に座ろうとしたら、ネパール人の店員さんに「そこは、ちょっとダメ。こっちの椅子のほうがいい」と言って、テーブルとまったく高さの合っていないカウンター席用の椅子を持ってきた。
どうみても、店員さんの持ってきた椅子に座ったらテーブルが低すぎて食べにくそうなので、「じゃあ、こっちは?」と別の席を指さすと「そっちもダメ・・・」と言う。
家族が「なぜダメ?予約席?」と聞くと、店員さんはもごもごと言いにくそうに「そっちは寒いね」とおっしゃった。
さらに家族が「寒くてもいいです」と言うと、あきらめたように店員さんは「濡れてるからダメね」と言って椅子の座面を指さした。
椅子の座面は布製なのだが、触ってみたら確かに湿っぽかった。
だから高さの違うビニール製のカウンター用の椅子を勧めてくれたのだった。
それにしてもカウンターに座るには椅子の数が足りない。
「どこにする?あっちの席は?」「こっちは濡れていなさそう」と店内でうろうろしている私たち家族を、周囲のお客さんはテンションが低いまま無言で、何か憐れみを含んだような目をして見ていた。
そんな周囲の目が気にはなったが、とりあえずやっと決めて座った椅子は、やっぱりすべての座面が濡れていた。
店員さんが椅子の上に敷く薄い座布団を持って来てくれて、なんとか座ることができたのだが、重さがかかるとどんどん座布団も濡れてくる。
そのままではお尻が濡れるので、薄い座布団を二つ折りにしてみたり、できるだけ座面に座らないようにぎりぎり椅子の端に座ったりしたが、徐々に冷たさが伝わってくるようで、お尻が濡れるのは時間の問題だった。
ちなみに椅子が濡れていたのは、年末に椅子を洗って、それがまだ乾かないということらしかった。
その後も次々とお客さんは入って来て、店員さんも徐々に開き直ってきたのか、もうモゴモゴと口ごもることも無く、「椅子、濡れてるねー」と言うだけ。
あとはお客さんの判断に任せるということだと思うが、だれも帰らないのが不思議で、みなさんウロウロと濡れていない席を探していた。
お客さん達のテンションの低さと、席を探す私たちに向けられた憐れみの目の意味が、ここでやっと分かった。
濡れていない椅子は、わずかなカウンター用椅子を除いてひとつもないのだ。
先に座っているお客さんは全員薄い座布団を使っていて、時折お尻が濡れていないか気にしている。
「どこも濡れてるよ」と思いながら、あとから入って来て席を探すお客を「あ~ぁ、お尻が濡れるのに・・・」と、憐れみの目で見ていたのだった。
そして新しく入って来たお客は、「椅子、濡れてる」と店員さんに聞いても、私たちも最初そう思ったように、濡れていない椅子がまだあるんじゃないかという「希望」と、営業している店の椅子がすべて濡れているなんてことはあり得ないという思い込みで、すぐに帰らずに席を探してウロウロしていたのだ。
これが日本人のお店ならば、まず考えられないことだろう。
座面が濡れていることがわかったら、なにか手を打つだろうし、濡れている席にお客を通すということはあり得ないのではないだろうか。
例えば、座面をビニールで覆うだけでもよいと思うのだが、まったく何もせずにお客を迎え入れてしまうというのは、やはりネパールだからなのか。
いやいや、きっちりとしているのは日本くらいで、もしかしたら外国ではよくありそうなことなのかもしれない・・・
とは言え、だれひとり文句も言わず、お尻を気にしながらカレーを食べて帰って行くのを見ていると、日本人はつくづく我慢強いと思う。
カレーを食べていたら、また家族連れらしいお客さんたちが入って来た。
どこに座ろうかと店内を見回している時に、ひとりの男性のお客さんが立ち上がって言った。
「ここの店の椅子はみんな濡れているから、座るのなら何か敷物を持ってきた方がいいよ」
親切に助言した男性のお尻は、すでに気の毒なくらい濡れていた。
見ると、男性は座布団も敷かずに直接椅子に座っていたようで、ズボンのお尻が猿のお尻のようにくっきりと広範囲に濡れて色が変わっていた。
それを見た途端、私だけではなく、家族も周りのお客さんからも笑いがこぼれた。
みんなお尻が湿ってきているのだけど、なんだか急に可笑しくなって笑いが止まらなくなってしまった。
新春初笑い。
お尻が濡れて寒かったけれど、お腹の底から笑ったお正月のひとときだった。
やれやれ・・・今度行く時は、念のためにビニール持参で行こうと思う。
その店はコックさんも店員さんも全員ネパールの方で、ネパールへ行ったことが無いので分からないが、これが本場のネパールカレーなのかと思うほど、スパイスの効いたカレーと大きなナンが美味しい。
行った日は、前日までがお店のお正月休みで、ちょうどその日が今年最初の営業だった。
お昼時とあって数台止めることのできる駐車場はすでに満車。一台が出たので、なんとか止めることができた。
前回、初めてこの店に来た時、ネパール人の店員さん達は「どうぞどうぞ、入って入って~」と陽気に店に招き入れてくれた。
今回もそうかな?とお店のドアを開けたら、あらら、なんだか前と様子が違うみたい。
どこが違うかというと、店員さん達に前回の陽気さが微塵もない。
前はウエルカム全開で迎えてくれたのに、今回は「またお客が来ちゃったよ。まいったな」という感じが漂っていた。
また席に座っているお客さん達も、お正月だというのになんだかみんなテンションが低いように思えた。
とりあえず、空いている席に座ろうとしたら、ネパール人の店員さんに「そこは、ちょっとダメ。こっちの椅子のほうがいい」と言って、テーブルとまったく高さの合っていないカウンター席用の椅子を持ってきた。
どうみても、店員さんの持ってきた椅子に座ったらテーブルが低すぎて食べにくそうなので、「じゃあ、こっちは?」と別の席を指さすと「そっちもダメ・・・」と言う。
家族が「なぜダメ?予約席?」と聞くと、店員さんはもごもごと言いにくそうに「そっちは寒いね」とおっしゃった。
さらに家族が「寒くてもいいです」と言うと、あきらめたように店員さんは「濡れてるからダメね」と言って椅子の座面を指さした。
椅子の座面は布製なのだが、触ってみたら確かに湿っぽかった。
だから高さの違うビニール製のカウンター用の椅子を勧めてくれたのだった。
それにしてもカウンターに座るには椅子の数が足りない。
「どこにする?あっちの席は?」「こっちは濡れていなさそう」と店内でうろうろしている私たち家族を、周囲のお客さんはテンションが低いまま無言で、何か憐れみを含んだような目をして見ていた。
そんな周囲の目が気にはなったが、とりあえずやっと決めて座った椅子は、やっぱりすべての座面が濡れていた。
店員さんが椅子の上に敷く薄い座布団を持って来てくれて、なんとか座ることができたのだが、重さがかかるとどんどん座布団も濡れてくる。
そのままではお尻が濡れるので、薄い座布団を二つ折りにしてみたり、できるだけ座面に座らないようにぎりぎり椅子の端に座ったりしたが、徐々に冷たさが伝わってくるようで、お尻が濡れるのは時間の問題だった。
ちなみに椅子が濡れていたのは、年末に椅子を洗って、それがまだ乾かないということらしかった。
その後も次々とお客さんは入って来て、店員さんも徐々に開き直ってきたのか、もうモゴモゴと口ごもることも無く、「椅子、濡れてるねー」と言うだけ。
あとはお客さんの判断に任せるということだと思うが、だれも帰らないのが不思議で、みなさんウロウロと濡れていない席を探していた。
お客さん達のテンションの低さと、席を探す私たちに向けられた憐れみの目の意味が、ここでやっと分かった。
濡れていない椅子は、わずかなカウンター用椅子を除いてひとつもないのだ。
先に座っているお客さんは全員薄い座布団を使っていて、時折お尻が濡れていないか気にしている。
「どこも濡れてるよ」と思いながら、あとから入って来て席を探すお客を「あ~ぁ、お尻が濡れるのに・・・」と、憐れみの目で見ていたのだった。
そして新しく入って来たお客は、「椅子、濡れてる」と店員さんに聞いても、私たちも最初そう思ったように、濡れていない椅子がまだあるんじゃないかという「希望」と、営業している店の椅子がすべて濡れているなんてことはあり得ないという思い込みで、すぐに帰らずに席を探してウロウロしていたのだ。
これが日本人のお店ならば、まず考えられないことだろう。
座面が濡れていることがわかったら、なにか手を打つだろうし、濡れている席にお客を通すということはあり得ないのではないだろうか。
例えば、座面をビニールで覆うだけでもよいと思うのだが、まったく何もせずにお客を迎え入れてしまうというのは、やはりネパールだからなのか。
いやいや、きっちりとしているのは日本くらいで、もしかしたら外国ではよくありそうなことなのかもしれない・・・
とは言え、だれひとり文句も言わず、お尻を気にしながらカレーを食べて帰って行くのを見ていると、日本人はつくづく我慢強いと思う。
カレーを食べていたら、また家族連れらしいお客さんたちが入って来た。
どこに座ろうかと店内を見回している時に、ひとりの男性のお客さんが立ち上がって言った。
「ここの店の椅子はみんな濡れているから、座るのなら何か敷物を持ってきた方がいいよ」
親切に助言した男性のお尻は、すでに気の毒なくらい濡れていた。
見ると、男性は座布団も敷かずに直接椅子に座っていたようで、ズボンのお尻が猿のお尻のようにくっきりと広範囲に濡れて色が変わっていた。
それを見た途端、私だけではなく、家族も周りのお客さんからも笑いがこぼれた。
みんなお尻が湿ってきているのだけど、なんだか急に可笑しくなって笑いが止まらなくなってしまった。
新春初笑い。
お尻が濡れて寒かったけれど、お腹の底から笑ったお正月のひとときだった。
やれやれ・・・今度行く時は、念のためにビニール持参で行こうと思う。