鼎子堂(Teishi-Do)

三毛猫堂 改め 『鼎子堂(ていしどう)』に屋号を変更しました。

『f植物園の巣穴:梨木香歩・著』

2009-05-15 21:02:28 | Weblog
爽やかな気候が続きます。

今日は、梨木香歩さんの 『f植物園の巣穴』です。

ヒトの記憶は、何処まで、正確なんだろう・・・。
どうして、こんな重大なことを忘れてしまっていたのだろう・・・。
事象と事象が絡まりあって、すり変ってしまう記憶の不思議・・・。

歯の痛みが発端となって、f植物園に勤務する私(佐田豊彦)は、椋の木の洞穴に落ち、そして、過去と現在が奇妙に交差する異界へと旅立つことになる。

そこは、私の幼い頃からの記憶が渾然一体となって、次から次へと不可思議な姿で現れては消える。
まるで、私を試すかのように・・・。

私が、探したいモノは、幼い日に面倒をみてくれたねえやの『千代』。
いつの間にか、私の目の前から姿を消した『千代』と亡くなった妻の『千代』を捜し求め、異界を流離う。
自分の姿は、いつしか、子供と化して、知らぬ間に一緒に旅を続けることとなった異界のナビゲータ・坊(カエル小僧・後半のキーパーソン)との交流。。

そして、『千代』の行方と生まれることが叶わなかった自分の子供との邂逅・・・・。
月下香の香りは、記憶の断片を呼び起こす・・・。


梨木さんは、明治時代から大正時代を背景に、物語を構築するのがとても上手な方で、『家守綺譚』や『村田エフェンディ滞土録』といった知らない時代の物語なのに、何故か、とても懐かしい・・・そんな物語の系統が、『f 植物園の巣穴』だと思います。

どちらかといえば、湿性・・・。
冷たい梅雨の時期を連想させるようなシチュエーション。
湿性なんだけれど、陰気ではなく、むしろすっきり感・・・。


レトロな洋食レストラン。
水辺の光景。
古い武家屋敷。
様々な植物達の名前。
アイルランド神話。

底辺には、自分の経験だと思っていたはずの記憶が、まるで違う・・・といった記憶のすり替えが重低音で流れる感じです。

現実から逃げ出したいときには、もってこいの著者最新作です。