先ほど高校2年の孫娘が来て、「懐中電灯は用意しておいた方がいい」と言う。太陽で大きな爆発があり、その影響が今晩11時ごろ地球に届くので、再び大規模な地震が起きる可能性があると言うのだ。その話は私も聞いたことがあるし、太陽の活動と地球の気候は連動していると言われているから、地球の内部への衝撃だって考えられる。孫娘は「寝る時は、家具のない部屋の方がいいし、ドアも開けておいた方がいい」と指示して行った。「何かあったら必ず連絡を取り合おうね」と答えておいたけれど、私はどちらか言えば楽観的で、地震が来るのなら来てから考えればいいと思っている。
東北はずっと余震が続いていて、何かありそうな気はする。備えておくことは大事だろうけれど、おびえていることはない。今日だって、私は恥ずかしいくらい涙を流して演劇を観ていた。名演の今月の出し物は劇団朋友の『女たちのジハード』で、保険会社に勤める5人の女性の物語だった。短い時間の中で、5人もの人生を描くのはムリではないかと思ったけれど、舞台転換の仕方は斬新で、テンポもよかった。5人の女優の演技もそれぞれが持ち味をよく出していた。芝居は3人の女優が会社の更衣室で着替えをするところから始まった。いきなり下着姿を観衆に見せるわけだが、女優たちの意気込みを見せ付けられたと思った。
頂いたチラシを見たら、原作も脚本も演出も女性だった。題名のジハードは聖戦と訳され、イスラム教徒が戦うことをいうが、この芝居では「奮闘する」とか「ある目的のために努力する」という意味のようだ。たとえば、高学歴で高収入で両親とは別居の男性と結婚することが女の幸せと考え、そんな条件を備えた男性を物色することに全力を捧げることも「目的達成のための努力」と言えるだろう。あるいは、女性が気兼ねなく生きられるための保険商品を提案するために「奮闘する」ことも、勉強してきたことを活かして翻訳家になろうとすることもジハードに違いない。
前述の3人に比べると、残りの2人は自分から何かをしたいという意識は薄いようだった。一番若い女性は妊娠して結婚したけれど、家庭のことが出来なくてダンナから暴力を受ける。彼女がみんなのところに逃げ込んだ時、ダンナが連れ戻しに来るが、そのダンナのセリフが面白かった。「こんな何にもできない女をあなたたちは一生面倒みると言うのですか。結婚は両親も親戚も大反対だったけれど、私は妊娠の責任を取ったのです」と。それまで迷っていた彼女は「責任で結婚したの。愛してくれていたのではないの」と言い、「家には帰らない」と離婚を決意する。そして再婚し、今はダンナといっしょにパン屋をしている。
もうひとりの女性はふとした出会いから、八ヶ岳のトマトの販売に力を入れるようになる。婚期を逃した彼女は、賞味期限の切れたトマトが捨てられるのはもったいないと思い売り込みをしたところ、それが生きがいになってきたのだ。「人が頑張るのは、自分の歩く力をつけるため」と言う。やることがある、だからそれに全力で取り組む。人は皆、そうやって生きている。それはどんなことでもいい。自分が欲することをすればいい。彼女たちは生き生きとそう語っていた。こんな素敵な女性たちがいつまでも生きられるように、そのためにも地震は来ないようにと祈りたい。