「三度目の正直」の諺通り、今日の井戸掘りは成功した。一度や二度はうまくいかなくても、三度目ともなれば成功すると昔の人は分かっていたのだろ。昨日の2度の失敗も、水が無かったからではなく、動作が鈍かったことや焦ってチェーンブロックで無理やり引き抜いたからだ。2度とも同じ接着部分から外れたから、接着剤が劣化していたのかも知れない。
依頼主は今日も午前中は私たちの作業をじっと見守っていたが、午後、私たちが昼食に出かけて帰ってくると、「私が見ていると水が出ないので」と、どこかへ出かけられた。見られている緊張で失敗した訳ではなく、作業のミスというか動作がテキパキと出来なかったためだ。それに80歳近い老人は頑固で、他人の言うことを聞かず勝手にやってしまうことも失敗の原因だ。
水が勢いよくホースから飛び出し、30分出し続けても水量は変わらない。依頼主の奥さんに「水が出ましたから見に来てください」と声をかける。冷たい水に手を差し出し、目を潤ませて「ありがとうございます」と頭を下げられた。先輩は「奥さんのその顔が見たくてやっています。こちらこそありがとうございます」と声が明るく響く。井戸掘りをしてその報酬でみんなで酒を飲む。それが無上の喜びなのだ。
「二度あることは三度ある」と冷やかされたが、心掛けが良かったので「三度目の正直」となった。依頼主を紹介してくれた友だち夫妻もやって来て「よかったわね」と喜んでくれた。依頼主が午後4時過ぎに帰ると言うので、後片付けをして喫茶店でしばらく過ごし、戻って再び水を汲み上げる。先ほどと変わらぬ量の水が勢いよく飛び出してくる。そのエンジン音を聞いて、依頼主が現れた。
両手を広げ、一人ひとりと握手をして、「ホッとしました」と言う。「まずは水に手を当ててみてください。地下水は気持ちいいですから」と先輩が促す。きらきらと輝く水に手をやり、喜色満面になられた。奥さんは「あんなに嬉しそうな顔、見たことがない」と呟かれた。ああ、よかった。明日から天候が悪いというので、金曜日に手押しポンプを取り付ける予定でいる。