Haiku Column(俳句大学国際俳句学部投句欄)よりのご報告!
〜国際俳句の改革に対するご質問とお答え〜
多くの人にご理解とご支援頂く機会を頂きありがとうございます。
ご質問にお答えします。
●まず、現在の国際俳句から見ていただきたい。
宮地信弘氏の訳をお借りして、いくつか英語俳句を示し、現在のHAIKU(国際俳句)の状況をみておきたい(注・「英語俳句試論(Ⅰ):日本語俳句の受容と展開」(『三重大学教育学部研究紀要第59巻』二〇〇八・三・一)。
① trapped 回転ドアに
in the revolving door 閉じ込められて
autumn leaves 秋の木の葉たち
(Peter Brady:United States)
② 3 a.m. 午前3時
the alrport conveyor turnlng 空港の回るコンベアー
one battered green valise 緑の手提げかばん潰れて一つ
(Marianne Bluger:Canada)
③ child's voice― 子どもの声―
the old dog 老いた犬は
settles lowerin its box 箱の中でさらに体を低くする
(Cyril Childs:New Zealand)
④ scent of hyacinth ヒヤシンスの匂いが
fills the empty room 何もない部屋に満ちる
mother's birthday 母の誕生日
(Doderovicy Zoran:Yogoslavia)
⑤ a leaf 一枚の
patching a hole 木の葉が繕う
in my shoe 靴の穴
(Funda Zveljko:Croatia)
ここでは内容の良し悪しは問わないこととして、論述上、俳句の型に注目してみると、①は二行目で切れて、一物仕立て、②は三段切れで、一物仕立て、③は一行目の「―」で切れを表し、二物仕立て(取合せ)、④は二行目で切れて、二物仕立て(取合せ)、⑤は切れがなく、一物仕立てである。これらの例句で問題にしたいのは、②の三段切れはむろんのこと、⑤のような切れのない句である。
三行書きにしただけの俳句は形式のみで、三行詩(散文詩)的なHAIKUが標準になっていることがあげられる。HAIKUは三行書きなりという定型意識が強い。それは俳句の型と俳句の特性に対する共通認識が形成されていないからである。
このように、世界で流通している三行書きのHAIKUは散文詩的で、俳句の型が有効に機能せず、そのために俳句の特性が活かされていない。
①国際俳句で、なぜ二行俳句なのか?
俳句の型の基本は「切れ」である。松尾芭蕉の「古池や蛙飛び込む水のおと」を句切れなしの「古池に蛙飛び込む水のおと」にすると、平板で、幼稚で散文的な表現になる。ところが、「古池や蛙飛び込む水のおと」だと、「切れ」によって、暗示・連想の効果が働き、複雑で、韻文的な表現になる。「切れ」は散文化を防ぎ、韻文化を促すのである。
俳句の基本型は「切れ」とともに「取合せ」で、本来の俳句の特性を示すことになる。「取合せ」の例として、芭蕉の「荒海や佐渡によこたふ天河」を挙げると、「荒海」と「天河」という二物の「取合せ」で読みの幅が広がり、複雑で、韻文的な表現になる。芭蕉自身が「発句は畢竟取合物とおもひ侍るべし」(森川許六『俳諧問答』)と述べているように、「取合せ」は俳句の本質に関わる問題である。
そこで、俳句の本質であり、かつ型である「切れ」と「取合せ」を取り入れた「二行俳句」を提唱したい。
「切れ」のある「取合せ」の二行俳句の一例を「Haiku Column」から挙げてみる。〔永田満徳評〕〔向瀬美音訳〕
Castronovo Maria カストロノバ マリア(イタリア)
Aurora boreale ― 北のオーロラ
La coda di una balena tra cielo e mare 空と海の間の鯨の尾
掲句は天上のオーロラと海面の鯨との「取合せ」によって、天体ショーを繰り広げるオーロラのもと、鯨が尾を揚げて沈む北極圏の広大な情景が描き出されている。(月刊誌『くまがわ春秋』八月号、二〇一八)
Sarra Masmoudi サラ マスモウディ(チェニジア)
palabres électorales~ 政治の論争~
le chat remue l'oreille en dormant 猫は寝ながら耳を動かす
狸寝入りしながら、ご主人たちの政談を盗み聞きしている猫を描いているのである。夏目漱石の「吾輩は猫である」さながらの情景であるところがおもしろい。(『俳句界』十二月号、二〇一九)
日本の俳句の翻訳の場合であるが、はやくも俳句の構造上による「二行書き」の問題を取り上げていたのは角川源義である。角川源義は『俳句年鑑昭和四十九年版』(昭和四十八年十二月)において、「俳句の翻訳はほとんど三行詩として行われている。これは俳句の約束や構造に大変反している」として、「私は二行詩として訳することを提案する」と述べ、「俳句の構造上、必ずと云ってよいほど句切れがある。切字がある。これを尊重して二行詩に訳してもらいたい」とまで言って、俳句の本質の面から二行書きを推奨している。「切字の表現は二行詩にすることで解決する」と結論付けることによって、「切れ」(切字)による二行書き(二行詩)を提言していることは無視できない。
とどのつまり、「切れ」と「取合せ」は、二行書きにして初めて明確に表現できるのである。
②国際俳句において、なぜ、KIGO(季語)を提唱するのか?
季語は日本独特なもので、季節のない国の人々が、季語のあるHAIKUを創ることは困難だという常識である。現代の世界俳句では、無季(自由季)が優勢で、季節が六つある国、二つの国、ない国など様々だから、日本語の季語の本意で外国語俳句を分類するのは無理がある。例えば、フランス南東部の「春風」は寒冷で乾燥した北風であり、同国の「月」は秋ではないし、語源は狂気・不安と通じるという考えである。
これに対しては、そういうことが分かった上で、国際俳句においても「KIGO(季語)」を取り入れることを提案したい。
Mohammad Azim Khan(モハメッド アジム カン)
〔Pakistan〕 〔パキスタン〕
sunny spot (of winter) (冬の)陽だまり
the push of a wheelchair 車椅子の一押し
向瀬美音訳
sunny spotに(of winter)を補ってみたらどうだろう。身障者の「車椅子」を「陽だまり」の中に押し出し、少しでも温まってほしいという気持ちは「冬」の季節でなければ伝わらない。それほどKIGOの喚起力は強いのである。
季語を使った「魔法の取合せ」として、次のような二通りの作り方を提示している。この型は「切れ」と「取合せ」がはっきりし、二行俳句が作りやすいという利点があることを強調しておきたい。
① 一行目は季語
二行目は季語とは関係のない言葉
② 一行目は季語とは関係のない言葉
二行目は季語
毛布 もうふ moufu / blancket / couverture
Zamzami Ismail ザザミ イスマイル
[Indnesia] [インドネシア]
blancket
the warmth of a baby sleeping soundly in its cocoon
ぐつすりと眠る赤子や毛布掛く
Veronika Zora ヴェロニック ゾラ
〔Canada〕 〔カナダ〕
blankets and chairs
a castle of children's laughter
子の笑ひ毛布と椅子を占領す
向瀬美音訳
現在、国籍もフランス、イタリア、イギリス、ルーマニア、ハンガリー、チュニジア、アルジェリア、モロッコ、アメリア、インドネシア、中国、台湾と多様である。季節のない国からもKIGOのあるHAIKUが多く投句されてきており、俳句は「KIGOの詩」という認識が世界で広まっている。
③曖昧だった国際俳句に基準を設けたことも大きく前進した要因である。
これは、日本を含めた世界共通の基準でもある。
二〇一七年四月に「俳句ユネスコ無形文化遺産協議会」が設立された。このこと自体に異議を差しはさむことはない。この運動によって、俳句が広く認知されていくことは俳句の国際化にとってよいことである。しかし、この運動を推進するに当たって、「何をもって、『俳句』とするか、そのコンセプトの共有に危惧を抱く」(西村和子『角川俳句年鑑』巻頭提言・二〇一八年版)という意見は重要である。
そこで、世界に通用する「HAIKUとは何か」を明確にするために、「Haiku Column」において、「切れ」と「取合せ」を基本とした「7つの俳句の規則」〔7rules of Haiku〕を例句とともに提示した。〔向瀬美音訳〕
1.【取り合わせ】 【TORIAWASE】
〔例句〕永田満徳 〔Example〕Mitsunori Nagata
春近し near spring
HAIKU講座は二ヵ国語 lecture of HAIKU in two linguages
2.【切れ】 【only one cut】
〔例句〕永田満徳 〔Example〕Mitsunori Nagata
オートバイ motorbyke on an autumnal path
落葉の道を広げたる whirlwind of dead leaves
3.【季語】 【season word(KIGO)】
〔例句〕永田満徳 〔Example〕Mitsunori Nagata
百夜より一夜尊し one night more precious than hundred nighat
クリスマス christmas
4.【今を読む・瞬間を切り取る】【catch the monent, tell now】
〔例句〕永田満徳 〔Example〕Mitsunori Nagata
春の雷 spring thunder
小言のやうに鳴り始む beginning like scording
5.【具体的な物に託す】 【use the concrete object】
〔例句〕永田満徳 〔Example〕Mitsunori Nagata
肌よりも髪に付く雨 the rain dropping on hair not on skin
アマリリス amaryllis
6.【省略】 【omissions】
〔例句〕永田満徳 〔Example〕Mitsunori Nagata
良夜なり relaxed night
音を立てざる砂時計 sandglass without sound
7.【用言は少なく】 【avoid verbs,adjevtives, adjective verbs as much as possible】
〔例句〕永田満徳 〔Example〕Mitsunori Nagata
春昼や spring afternoon
エンドレスなるオルゴール endless music box
Haiku Columnでは、最初、説明的で観念的な句が多かったが、「7つの規則」を提示して以来、形容詞、動詞などが減り、具体的なものに託した表現を基調とし、省略された俳句が多くなっている。
例えば、二〇一九年一月十日の「Haiku Column」において、わずか一日だけの投句であるが、どれも捨てがたい句が揃うようになった。「Haiku Column」を立ち上げて三年目の成果であると思っている。
Agnes Kinasih
first light
mother whispers a prayer of salvation
初明り
母は救済の祈りを囁く
中野千秋訳
Claire Gardien
premier amour
les lettres de fiançailles de son père à sa mère
初恋
パパからママへの婚約の手紙
向向瀬美音訳
Salvatore Cutrupi
palle di neve-
l'inizio di un racconto nato per gioco
雪団子
物語の始まりはおもちゃのように生まれた
向向瀬美音訳