これは、女性によるグラム・ロックだ。
70年代初期にムーヴメントを起こしたデヴィッド・ボウイ、T・レックス、ロキシー・ミュージック・・・。彼らの音楽の内容はばらばらだったが、共通したのは「音楽以外のもので、既成の価値観に挑戦した」という点だ。それは性別をあいまいにするメイクやコスチュームだったり、現実を相対化するSF的なコンセプトだったり、演劇的なステージングだったりしたが、このCDのヒロインであるボーカルの理科こと森永理科は、彼らの後継者としてふさわしい。
そもそも彼女は、アングラ演劇の月蝕歌劇団の中心メンバーの一人だった。彼女たちの舞台では女性が男性を演じ、ありえたかもしれないもう一つの歴史がつくられる。例えば、土方歳三の北海道共和国が明治政府を倒したりする。そして、音楽を担当するのがJ・A・シーザー。寺山修司の劇団、天井桟敷出身で、映画や演劇の音楽を多数手がけ、最近ではアニメの「少女革命ウテナ」の合唱曲で若い世代にも知られるようになった。このような環境で、理科は演じ、歌い続けてきた。つけ加えるなら、彼女は優れた舞踏家でもあり、劇団の振付も担当してきた。
舞台を観た音楽関係者にスカウトされてバンド活動を始め、このCDに至ったわけだが、これはあくまでも「森永理科というコンテンツ」の中の一部分に過ぎない。CDを聴くだけでは不十分で、ライヴでの彼女も観てほしい。金属的な冷たい輝きを帯びた声はもちろん、少女なのか少年なのか人形なのかわからないルックスや、歌にもう一つの意味を与える身振りにも、魅了されるはずだ。歌詞をじっくり読みたくなったら、またCDにもどってくればいい。この往復運動の合間に、声優としての森永理科をアニメやゲームで楽しむこともできる。まさに21世紀的なアーチストの誕生である。
(実際には収録されなかったライナーノートより)