カナン征服後、ユダヤ人は、モーセ以前の神、創世記でアブラハムの前に現れた神に回帰する。その神とは、前々回に書いたが、カナンの神バアルだと思われる。簡単な話だ。ユダヤ人にカナンの地の支配を約束できるのは、カナンの神に他ならない。そして、いったんカナンの地に入ってしまえば、シナイ山の神エホバよりも、もとからのカナンの神バアルの影響力の方が強くなる。
エホバの神もこのことをわかっていて、ユダヤ人に告げる。「 あなたたちは、わたしの声に聞き従わなかった。わたしもこう言わざるをえない。わたしは先住民を追い払って、あなたたちの前から去らせることはしない。彼らはあなたたちと隣り合わせとなり、彼らの神々はあなたたちの罠となろう 」( 士師記2 )。
また、エホバの神は預言者サムエルに言う。「 ユダヤ人をエジプトから導き上った日から今日に至るまで、彼らのすることといえば、わたしを捨てて他の神々に仕えることだった 」( サムエル記上8、8 )。
もともとアブラハムの前に現れた神なので、バアルはユダヤ人にとって親しみやすかったのだ。