シュペングラーの「西洋の没落」を再読中。
ギリシア・ローマ文化と現代の西洋文化の違い。個体の文化と空間の文化。姿勢の文化と行為の文化。静的な文化と動的な文化。近さの文化と遠さの文化。ギリシア・ローマの人々は常に現在のことばかりを考えていて、未来への配慮というものが欠けていた(「今を楽しめ」)。これがシュペングラーの説だが・・・・・・。
たとえば、ウェルギリウスの「アエネーイス」を読んでみよう。トロイア戦争を生き延びた武将アエネーアースがイタリアを目指すのを、女神ユーノー(ユピテルの妹にして妻)がさまざまな手段を用いて妨害する、という話。なぜ彼女はそんなことをするのか。それは、もしもアエネーアースがイタリアにたどり着いたら、将来彼の子孫が、ユーノー信仰の中心地であるカルタゴ(と、作者は書いている)を滅ぼすことになるから。つまり「アエネーイス」は、もしかしたら世界初のタイムパラドックスものなのかもしれないが、未来への配慮のない人物にはとてもこんな作品は書けないと思われる。シュペングラーは、読んでなかったのだろうか。
また、マケドニアのアレクサンドロス大王の東征は、「近さの文化」ではとても説明できないものだが、驚いたことにシュペングラーは、「挿話」の二文字でかたづけている。
このように、何もかもが恣意的だ。もうじき「西洋の没落」が世に出てから百年になるが、ニーチェのようなブームになることはないだろう。