リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

リュートとの出会い (8)

2005年04月03日 09時19分19秒 | 随想
 ちょうどその頃、中学校の同級生宅でバロック・リュートのレコードをはじめて聴いた。彼がたまたま買ったレコードを一緒に聴いていて偶然耳にしたものだ。レコードのレーベルは忘れてしまったが、「都市と宮廷音楽」というような名のシリーズのドレスデン編に1曲だけ録音されていた。曲はヴァイス作曲ファンタジア、演奏はオイゲン・ミューラー・ドンボアだ。ヴァイスのファンタジアはギターで弾いたことがあったが、その響きの違い、解釈の違いに驚いた。高校生のとき、ヴァルター・ゲルヴィヒによるリュートのレコードを聴いたときに、ブリームとは異なる何か「本物らしさ」に惹かれたが、ただゲルヴィヒの演奏は技術的には未熟さが感じられた。それに対してドンボアのバロック・リュート演奏は確実なテクニックと洗練された音楽性を備えていた。ギターでそのファンタジアを弾いていたときは、オリジナルの響きはいったいどんなものなのかが分からなかったが、思わぬことでバロック・リュートの響きを知ることになった。ドンボアはその2年後に2枚組のバロック・リュート演奏のレコードを録音することになるのだが、その演奏よりファンタジアの演奏の方がずっとすばらしいと今でも思う。