リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ガット弦に思う(5)

2020年06月04日 13時55分24秒 | 音楽系
ひとつのアプローチ法としては、昔の人と同じ試行錯誤の過程をたどることです。この方法だとかなり時間がかかりますし、昔ほどリュートは隆盛ではないので需要と供給の関係もあり昔ほどのペースでは進まない懸念もあります。

今まで試されてきた方法としては:

(1)腸の繊維に銅粉をしみこませたものを撚る(ローデドガット、アキラ社)

(2)ガットに細い金属線を隙間を空けて巻く(オープン・ワウンド弦、アキラ社、キュルシュナー社)、

(3)プレーンガットを2,3本撚って1本にする(ピストイ弦、ヴェニス弦、ガムート社、アキラ社)

(4)細い金属線と一緒にガットを撚る(ギンプ弦、ガムート社)

(1)は精度がよくない→発売休止、(2)は生産上の歩留まりが低い→試作のみ、発売休止、そして全体としてこれらは質量不足でバス弦として使うのは実力不足です。この中ではピストイがとてもしなやかなので何とか使える感じもしますが、今一歩(二歩くらいかな?)音が前に出て欲しいところです。

2、3年前でしたか、ガット弦の使用では経験豊富な佐藤豊彦氏※にお目に掛かったとき、ガット弦の話をいろいろ聞かせて頂きました。その中で印象に残ったのは「・・・ギンプ弦でみんな失敗するんだよね・・・」ということばでした。実は私もそのクチですが、氏自身もそうだったようです。

ちなみにずっと前に氏の講習会などを受けられて、氏にギンプ弦を薦められ、以来後生大事にギンプ弦を使ってらっしゃる方がいらしたら気をつけてくださいよ。お目に掛かったときの話では氏はバス弦にピストイ弦を使っているとのことでした。

ただピストイ弦は先に述べましたように、私見ではもう少しなんとかならないかなという感じが致します。(モーリス・オッティジェー氏製作の楽器に張ってみました)佐藤氏所有のグライフなら何とか行けるのかも知れませんが、お目に掛かったときにはその楽器を弾かせてもらう機会がなかったので何ともわかりません。

それに弦代がべらぼうに高くつきます。あとこの連載の始めにも書きましたように、温度や湿度の影響が半端ではありません。条件が悪いと極く短時間に半音とか全音近く音が狂います。プレーン弦でもそこまではいかないですが、これはどうしてでしょうか。それでも最高のパフォーマンスの弦であればこれらの問題点は目をつむりますが、残念ながら私の楽器のためには選択できるものではありません。

※日本の古楽界の草分けとも言える方です。個人的には私がリュートを始めた若い頃随分お世話になりました。1976年にはデン・ハーグにある氏のお宅に1ヶ月近く居候させてもらったこともありました。