リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ガット弦に思う(10)

2020年06月13日 16時51分52秒 | 音楽系
ロバート・バルトです。

彼はバーゼルのドイツ駅から10数分のドイツの小さな街、ローラッハ(Lörrach)というところに住んでいましたので、お伺いしたことがあります。その時のいでたちはまるでオールドロックンローラーのような感じでしたが、楽器や弦のことに関しては次のように語っていました。

「最近オレはガット弦と昔の演奏ポジションに興味を持っているのさ。昔の絵にあるようにブリッジのそばで弾いても綺麗になる楽器を製作家と相談して作らせているところなんだ。おめーもそういうのに興味はないかい?」(ロックンローラー風に意訳してみました)当時彼が使っている弦は合成樹脂弦、金属巻弦でした。

オールガットにしても右手の奏法がルネサンス・リュートのように横に寝た弾き方しているようでは全然ヒストリカルとは言えません。一番参考になりそうなのは、ルーブル博物館にあるシャルル・ムートンの肖像画(F. de Troy作)でしょう。その絵に描かれているあたりの右手位置・角度が典型的なバロック・リュートの弾き方です。



こちらは原画を元にしたGerald Elelinckによるエッチング版。オランダ、デン・ハーグのヘメーンテ博物館のコレクション。1976年にそこで複製版を購入しました。同コレクションのエッシャー作品も売ってしまったくらいですから、現在は同博物館にあるかどうかは分かりません。

ただ、ナイロン弦を張ることを前提として作られた現代の楽器では、ナイロン弦を張った場合はおろかたとえガット弦を張っても、「ムートン・ポジション」で弾いてもいい音はでないというのは彼の考え方のようです。

ちなみにムートンのこの楽器の構え方、絵画用のポーズと捉える向きもありますが、実はそうではありません。ストラップを使わない構え方としてはもっとも理にかなっています。私は足腰が硬い(短い?)のでこの構え方だと長続きしませんが、楽器の重心がちょうど膝のあたりにくるので、楽器はとても安定します。楽器がからだに接する部分も少なめですし、そもそも触れている部分が楽器の響きに影響が少ない部分(ブロックに近いところ)です。反対に、ギターのように左足を足台に乗せて、左右の足に楽器を置く構え方は、楽器が体にあたる部分が多く楽器が響かなくなるのでお薦めしません。もしギター式に構えてらっしゃる方がいらっしゃったら、構え方を変えるだけで一気に音量が増します。

さてもうロバート・バルトに会ってから15年近くたちましたが、彼はどうしているのでしょう?YouTubeに上がっているビデオクリップで比較的最近のものを見てもあまり以前と変わっていないような感じですが。