リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ガット弦に思う(11)

2020年06月14日 23時26分36秒 | 音楽系
ヤコブ・リンドベルイです。

彼は20年程前ロンドンのオークションでSixtus Rauwolfの楽器を手に入れました。もともとはルネサンスリュートとして作られたもののようですが、18世紀の初め頃にバロック・リュートに改修された楽器です。

その楽器の修復はマイケル・ロウなどが修復に携わりました。年輪年代学による測定だと、その楽器に使われている表面板は1400年代から1500年代にかけてに生育していた木だそうです。修復の完成祝いにヴァイスの11コース用の作品を録音しました。(ヴァイス作品集1、2004年)

次にRauwolfの楽器を使って録音したアルバムにはロイスナー/デュフォー/ムートン/ケルナー/ヴァイスの作品が収められています。(2016)続く2018年にはロジー伯の作品を収めたアルバムを出しました。

これらの3枚のアルバムでは弦のセレクションは同じだと思われますが、2枚目のアルバムのリーフレットには弦のセレクションについて書かれています。それによるとアッパーレンジ、ミドルレンジとオクターブ弦はガットですが、7コース以下のバス弦はなんと金属巻弦にラノリン(精製羊毛脂)処理をして減衰時間を「殺した」弦を使用しています。ラノリン処理金属巻弦は音色的にはとてもいい味が出ていますが、元が金属巻弦だけに、バス弦用のガットやローデドナイルガット、フロロカーボンと比べると減衰時間が少し長めではありますが、このソリューションは成功していると思います。

彼のソリューションはある意味もっとも手軽な方法なので、上の弦(オクターブ弦と5コース以上)にガットを使わず合成樹脂であっても結構いい味が出るのではと思います。

なお彼はヴァイスの作品集1の次に同作品集2(2007年)を録音しています。使用している楽器はマイケル・ロウによる13コースのスワン・ネックの楽器(1983年製)です。第2集の解説には弦についての言及はありませんが、写真とサウンドから判断しますと、7コース以下のバス弦は金属巻弦、6コースはユニゾンの金属巻弦、5コース以上は合成樹脂弦だと思われます。金属巻弦には「ラノリン処理」していない感じですが、していたとしても上記アルバム程音は「殺して」いません。

あと彼が若い頃(1992年)に録音したバッハ全集では、低音のバス弦にペルーフォ・ミッモ(アキラ社)製作によるローデド・ガット弦を使用していると解説にはあります。他の弦はガットなのか合成樹脂なのかはわかりませんが、音からは合成樹脂の感じがします。なお、楽器はマイケル・ロウの13コーススワンネック(1981)です。