リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

よみがえる古楽器

2021年11月08日 19時56分10秒 | ウソゆうたらアカンやろ!他【毒入注意反論無用】
日曜日のNK新聞に「よみがえる古楽器」というタイトルの日曜特集記事が掲載されていました。古楽器のことについて広く知ってもらうのはとても素晴らしいことで興味深く記事を読ませて頂きました。タイトルに続く冒頭の概要段落では、ピアノが生まれる前に使われた鍵盤楽器チェンバロや弦楽器リュートなどは古楽器と呼ばれる・・・で始まっています。リュートの名前が早速出てきているので期待感が大きいですが、記事の隣に掲載されている写真を見ると、ほとんどが弦楽器でかつ民族楽器に近いものとか特定の国で使われていた楽器ばかりが写っています。なんか私が考えている「古楽器(ピリオド楽器)」とは少しずれがあるような感じがしますが、さてどんな記事なんでしょうか。

記事を読んでの感想ですが、ひとつひとつの事柄についてはインフォーマティブではありますが、全体として見ると何か少し別の方向に、誤解を恐れずに言えば、間違った方向に誘導されてしまう印象を受けました。いろいろな定義はあると思いますが、簡単に言うと古楽器(ピリオド楽器)というのは曲が作られた時代の楽器ということでしょう。それらの中には、古楽器としてのヴァイオリン一族、フルートなどの管楽器、トランペットなどの金管楽器など今のオーケストラの楽器の大半に古楽器バージョンが存在しています。

何もご存じでない方が本特集を読めば、古楽器は遠く離れた地域の古の楽器だというロマンティックな想像をすることでしょう。リュートと言えば吟遊詩人を思い浮かべるのと同じです。これらはあくまでも空想の世界ですが、今や古楽器はルネサンス・バロック時代の音楽だけでなく、モーツアルトやベートーヴェン(あるいはもっと以降)の作品を演奏するための「一般的な」楽器というのが世界的な認識です。モダン楽器で演奏するときも古楽器の演奏スタイルを取り入れる時代です。

記事冒頭の写真にあるような楽器を使って、古っぽい音楽を演奏するのを聴いたことがありましたが、実は音楽自体は演奏している方の創作でした。でもそういうのが別に悪いと言っている訳ではありませんしジャズや邦楽や現代音楽とのコラボもいいでしょう、無国籍風の楽曲もいいでしょう。私自身リュートを使って自分の作品を演奏しますし。

でも古楽器が奏でる音楽というのはそういうものだという認識が広まってしまうのはまずいのです。やはり本来のその楽器が使われていた当時の楽曲を演奏する、という土台があっての創作音楽でしょう。「古楽器は作曲当時の再現を目指した演奏から2000年代あたりからはジャズや現代音楽との共演など多様な表現が出てきた」と記事は言っていますが、新しい潮流というのは別にジャズや現代音楽と共演しなくても見いだすことは可能です。作曲当時の再現から再創造の方向です。他のジャンルとのコラボは今のところキワモノでしょう。キワモノを普通の潮流だと言ってはいけません。もっとも私はキワモノ自体は大好きなんですが。

記事の中で大きな間違いがありました。「リュート曲の楽譜は数少ない」です。えっ?!っと思わず文字をしっかりと確認してしまいました。インタビューされた方がそうおっしゃってもちゃんとウラを取って下さいね、記者さん。その方は音楽の専門家ではないのですから。16世紀以降のリュート曲の楽譜をかき集めたら、ピアノやヴァイオリン曲よりずっと多いと思います。ヴァイスひとり分でもslweiss.comによれば853曲あります。