リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

プレリュード・フーガ・アレグロのヘ長調編曲(10)

2022年04月16日 17時21分01秒 | 音楽系
998プレリュードの演奏でよくあるのが、妙なところにスラーがあったり、音が和音的に動いているところと音階的に動いているところが極端に異なるニュアンスだったりする弾き方です。

ギターの演奏ではこういった弾き方はとても多いです。おまけにアポヤンドしたりして音を強調したりしたりもします。イギリスの某有名ギタリストの若い頃の演奏なんかその典型です。さらに氏はアレグロの12小節目の音型を変えてしまったり、24小節目のシャープに気づかなかったりしています。編曲譜が間違っていたのでそれは彼の責任ではないという意見を聞いたことがありますが、それは大きな間違いです。仮に楽譜にそう書いてあってもおかしいと思わなければ演奏家としては失格です。

脱線しついでに同じようなことを思い出しました。昔フランスの某市で開催されたコンクールで優勝した某日本人ギタリストで一部ではいまだに信奉者が多い方ですが、997のフーガの前半部を間違えて弾いていました。私はあるとき名古屋の荒井貿易の書庫で偶然それと同じ音になっている編曲譜を発見しました。編曲者はミゲル・アブ・・・(名前のあとの方は昔のことなので思い出せませんが)で、そのギタリストは恐らくその楽譜を使ったのでしょう。調も同じニ短調でしたし。多分それは印刷屋段階での誤植だと思われますが、それをおかしいと思わず弾いてしまった某ギタリストは、演奏家としての資質を問われます。ちなみにそれはレコードに録音され発売されました。私それ持っています。(笑)997はコンクールでは弾かなかったのでしょうね。弾いていたら間違いなくコンクール予選落ちです。

おっとなんか過激な発言が続きましたが、話を戻しましょう。リュートでもギタリストのまねみたいな演奏があるので注意しましょうということです。こっちが本家ですからね。鍵盤ならわりとスムーズにいくのですが、リュートだとこのプレリュードの音型をスムーズに弾くのは相当の技量が必要です。リュートの音型に聞こえるけど実はちょっと異質な部分がチラチラする、というのがこの曲の音型です。というかバッハのリュート作品はみなそんなところがあります。バッハが書いた音をどの弦でどの指で弾くか(ここまでは編曲)とそれをどう弾くか(これは演奏)ということが演奏家として求められます。これがヴァイスとは異なるところです。ヴァイスはこの最初の事柄はちゃんとやってくれてタブに記述してありますから、私たちはどう弾くかに専念できます。この点がバッハを演奏するときの大変さです。