リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

プレリュード・フーガ・アレグロのヘ長調編曲(9)

2022年04月05日 17時01分16秒 | 音楽系
さて998の冒頭のプレリュードですが、ヘ長調編曲だと曲の冒頭(正確には2番目の音ですが)の音が12フレットで、私のバロック・リュートの最高音です。以前のアレンジはモーリスの楽器用に使ったので、3番目に出てくるミの音を2コースの14フレットを使って出していました。

これはこのプレリュードのメロディラインをできるだけ弦を変えて弾く(ギターで言うカンパネラ奏法みたいな感じ)ようにしたためです。この方法は私の楽器ではできませんので、これは曲全体に渡る変更が必要になってきます。冒頭のモチーフは曲全体を支配しているからです。

アレンジは頭の中だけで楽器を使わずにできますが、頭の中にある楽器は完璧な楽器で、弾いている人(私なんですが)は完璧な理想の私です。実際のモノである楽器と私のいう肉体で演奏すると、そこにはヴァーチャルなときとのズレが生じます。ですので、最適化を図るには実際に弾かないといけません。曲を弾きながら最適な指使いを探っていきます。

50年近く前にオイゲン・ミューラー・ドンボア氏がアメリカのリュート協会の会誌に寄せた998に関する論考で、プレリュードが一番リュート的であるという結論を書いていました。まぁ確かにそうですが、かといってスイスイと弾ける曲ではありません。聴いていると簡単に聞こえるためか、ときどきこの曲をレッスンしてほしいという方がいらっしゃいますが、そう甘くはありません。特にヘ長調編曲だと後半部37小節あたりが他の調に比べると弾きにくくなります。