リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

マイブーム

2022年08月28日 14時11分12秒 | 日々のこと
マイブームということばはみうらじゅん氏の造語らしいですが、今私のマイブームは加賀乙彦作の湿原という小説です。

先日ある機会があって、たまたま兵庫県姫路市立美術館を訪れました。そこで開催されていたのが野田弘志ーー真理のリアリズム展でした。実は美術館の前を歩いていたら突然大粒の雨と雷に見舞われ、雨宿りに駆け込んだのですが・・・(笑)

野田弘志という作家は現代日本を代表するリアリズム(写実主義)画家で、展覧会ではこれでもかというくらい念を入れてリアリズムを追求した作品群が展示されていました。

その中でひときわ異彩を放っていたのが、新聞連載小説、加賀乙彦「湿原」の挿画原画です。もっとも鉛筆で描かれたモノクロの挿画ですので、「異彩」ではありませんが・・・

湿原は1983年5月7日~1985年2月5日まで朝日新聞に連載された小説で、野田はこの連載の間は仕事をこの挿画制作一本に絞って描いたということです。連載回数は700回近くにのぼりますが残念ながら挿画が全て残っているわけではなく、展覧会では各所から集めて400枚近くが展示されています。まったく朝日新聞は何してるんでしょう、しっかりしてください。

でも展覧会の会場にある分だけでも十分小説の世界観に入ることができ、さっそく帰宅後小説をアマゾンで注文しました。



上下2巻からなる小説の単行本はまるで新品みたいでした。展覧会では参考資料として1985年に出版された単行本が展示されていましたが、相当変色したり汚れていたりしてレトロ感満載でした。でも届いた単行本はまるで新品みたいでした。きっと売れ残りですぐに回収されてその後ずっと倉庫で眠っていたものでしょう。これで一冊137円ですからちょっとしたセレンディピティです。

本の中には1986年の新刊案内の広告も挟まれていました。「AV最新情報87ー-CDの全て」とか「中島みゆき全歌集」なんてのもありました。CDは80年代初め頃から普及し始めたんでした。中島みゆきの全歌集は写真付きでしたが若いです。

小説は60年代終わりころの学園紛争を背景にした愛の物語ですが、とてもしっかりとした骨格の重厚な筆致で物語が展開していきます。マーラーの第6番を聴いているかのような感じです。加賀乙彦という名前は新聞の広告で見たことはありますが、作品は読んだことがありませんでした。こんないい小説を書く作家を知らないとはちょっと損をしていました。展覧会は9月4日までですのでまだ作品を見ることができます。アマゾンにまだ在庫はあるようです。興味のある方は是非挿画をご覧になって小説を読んでみてください。