【冬の陽ざし】
土曜の昼、修司は本郷にある東大病院の一室にいた。
半地下の窓は高く、腰かけた椅子から見上げる外には、青い空が広がっていた。
少しかび臭いひんやりとした室内と、薄暗い蛍光灯が、ここが病院であることを忘れさせる。
修司の横に腰かけた三上は、着てきたコートが脱げずにいた。
ふたりの目の前に腰かけた小林香良が口を開いた。
「申し訳ありません。早めに暖房をいれておけばよかったです。私の研究室なのですが、普段は使用していなもので、名ばかりの倉庫で」
修司よりも10歳ほど年上のはずだが、髪を後ろに引っ張って束ねているせいなのか、薄化粧なのに年齢よりもはるかに若く見える。
「いえ、こちらこそ。本来ならばこちらが北海道に伺わなくてはいけないところなのに。三上さんにもわざわざ東京までお越しいただき、すみませんでした」
三上の牧場に勤めるにあたって、修平は健康診断を受けていた。その診断結果に関する相談ということで、香良に呼ばれていたのだが、3者の都合がつかず、今日になってしまった。
「僕の方は、別件もありましたので、気にせんでください。それよりお話というのは...」
三上は着ていたコートを脱いで、膝の上に置いた。部屋はまだ寒かった。
30分近い説明と質疑応答が繰り返され、いつしか部屋の温度は汗ばむほどに変わっていた。
検査結果から再検査が必要であること、場合によっては長期の入院治療が必要であること。それらに関するサポートはすべて香良があたること。彼女の説明は的確であり無駄がない。かつ素人の修司たちが聞いてもよくわかる丁寧なものであった。
修司は東大病院を後にして、三上と地下鉄の駅を目指した。
「帰ったら早く、修平さんを説得しなくは」
考えごとをしていた修司は、その言葉で我に返った。
「あっ、三上さん。今日は本当にご足労いただき、ありがとうございました」
三上は首元から、耳の裏側に手を添えながら、
「いや本当に、明日、府中でうちの生産馬が走るんだ。前走は逃げて、いいところがあったので、少しは期待しているだけど」
いいながら、その手を首筋に二、三度上下させた。病室で話をしていても、そのしぐさを修司は何度か見た。
「特別レースですか」
「平場。うちの馬が特別に出走なんてね。でもね、うちも生き残るため色々とやっているんだ。数年後には特別ぐらいは勝てるように。その意味でも修平さんにはキーマンとして来てもらったんだけどなぁ」
そういう三上に、首筋のしぐさはなかった。
これから春に向けて、牧場は忙しくなる。そのことを修司も知っている。
三上が修平に大きな期待を寄せていたことは、事実だろう。なんとなく、三上の癖を修司は見抜いたような気がした。
<加納真唯子の予想>
きさらぎ賞
◎ ⑨ワールドエース
○ ⑬ベールドインパクト
★ ⑩マジカルツアー
△ ⑥アルキメデス
△ ④ヒストリカル
東京新聞杯
◎ ⑭サダムパテック
○ ⑥コスモセンサー
★ ⑪スマイルジャック
△ ⑫ダノンシャーク
△ ⑩フレールジャック
土曜の昼、修司は本郷にある東大病院の一室にいた。
半地下の窓は高く、腰かけた椅子から見上げる外には、青い空が広がっていた。
少しかび臭いひんやりとした室内と、薄暗い蛍光灯が、ここが病院であることを忘れさせる。
修司の横に腰かけた三上は、着てきたコートが脱げずにいた。
ふたりの目の前に腰かけた小林香良が口を開いた。
「申し訳ありません。早めに暖房をいれておけばよかったです。私の研究室なのですが、普段は使用していなもので、名ばかりの倉庫で」
修司よりも10歳ほど年上のはずだが、髪を後ろに引っ張って束ねているせいなのか、薄化粧なのに年齢よりもはるかに若く見える。
「いえ、こちらこそ。本来ならばこちらが北海道に伺わなくてはいけないところなのに。三上さんにもわざわざ東京までお越しいただき、すみませんでした」
三上の牧場に勤めるにあたって、修平は健康診断を受けていた。その診断結果に関する相談ということで、香良に呼ばれていたのだが、3者の都合がつかず、今日になってしまった。
「僕の方は、別件もありましたので、気にせんでください。それよりお話というのは...」
三上は着ていたコートを脱いで、膝の上に置いた。部屋はまだ寒かった。
30分近い説明と質疑応答が繰り返され、いつしか部屋の温度は汗ばむほどに変わっていた。
検査結果から再検査が必要であること、場合によっては長期の入院治療が必要であること。それらに関するサポートはすべて香良があたること。彼女の説明は的確であり無駄がない。かつ素人の修司たちが聞いてもよくわかる丁寧なものであった。
修司は東大病院を後にして、三上と地下鉄の駅を目指した。
「帰ったら早く、修平さんを説得しなくは」
考えごとをしていた修司は、その言葉で我に返った。
「あっ、三上さん。今日は本当にご足労いただき、ありがとうございました」
三上は首元から、耳の裏側に手を添えながら、
「いや本当に、明日、府中でうちの生産馬が走るんだ。前走は逃げて、いいところがあったので、少しは期待しているだけど」
いいながら、その手を首筋に二、三度上下させた。病室で話をしていても、そのしぐさを修司は何度か見た。
「特別レースですか」
「平場。うちの馬が特別に出走なんてね。でもね、うちも生き残るため色々とやっているんだ。数年後には特別ぐらいは勝てるように。その意味でも修平さんにはキーマンとして来てもらったんだけどなぁ」
そういう三上に、首筋のしぐさはなかった。
これから春に向けて、牧場は忙しくなる。そのことを修司も知っている。
三上が修平に大きな期待を寄せていたことは、事実だろう。なんとなく、三上の癖を修司は見抜いたような気がした。
<加納真唯子の予想>
きさらぎ賞
◎ ⑨ワールドエース
○ ⑬ベールドインパクト
★ ⑩マジカルツアー
△ ⑥アルキメデス
△ ④ヒストリカル
東京新聞杯
◎ ⑭サダムパテック
○ ⑥コスモセンサー
★ ⑪スマイルジャック
△ ⑫ダノンシャーク
△ ⑩フレールジャック