この馬券に神が舞い降りる

だから...
もうハズレ馬券は買わない。

1回東京5日目

2012-02-11 10:46:00 | 馬券
【シンガポールにて】

取材旅行でシンガポールへ飛んだ加納真唯子は、マリーナベイサンズのスカイパークのプールから見下ろす夜景を楽しんでいた。
取材と言いつつも目的の半分は、ここのプールで泳ぐことだったが、口コミをチェックするとホテルの評価がいまいちなので迷っていたが、この情景を楽しめたことは正解だった。何よりもそんな気分に浸れるのも、終えたばかりの取材に十分の手ごたえを感じていたからだろう。

9日水曜日。栗東トレセンでは谷水雄三氏の会見が開かれ、生産部門からの撤退が明らかにされた。ダービー馬4頭、G1レース15勝の名門カントリー牧場は、近年では社台グループに唯一対抗できる生産牧場であった。
清算の理由はオーナー自身の年齢があげられ、生産牧場は岡田スタッドに売却、育成牧場も千代田牧場に売却される見込みである。

真唯子はこの売却劇の裏情報として、谷水氏の撤退に関わった人物を取材するため、急きょ訪星したのある。というのは取材相手が、通訳を介さないことという取材条件だしてきたためで、英語が堪能な真唯子が指名されることとなったのである。

内心、真唯子はこの取材を快く思っていなかった。取材対象の情報が皆無で、さらに条件を提示してくるだけでも、相手が一筋縄ではいかないだろうと想像させた。そんな思いもあり、半分以上はリゾート気分と決め込んだのである。

しかしおかげで、空港で真唯子を待ち受けくれ、自らが運転をしていた男が、取材相手の工藤栄一氏であるとは、彼がオフィスで自己紹介をするまで全く気が付かなかった。そのため彼の軽口に合わせて会話を弾ませていた真唯子は、気兼ねすることなく取材することができたのだ。

26歳という若さで工藤が日本を出たとき、彼の武器は英語だけだった。しかし言葉さえ話せたならば、自己スキルはどうにでも身に付く。そんな思いのまま、ここシンガポールを中心に12年あまり世界を飛び回ってきた。
「日本人はNo1になりたがる。いまだにビジネスを戦争だと捉えてる。それで勝ち誇ったところで、だれからも相手にはされない。私が日本を出たときからのテーマはオンリーワンの自分をいかに人のため役立てられるかでした。もっとそれは思い上がりで、むしろいろんな人に助けられて今の自分があります。ビジネスワークはそれに対するお返しであり、みんなの笑顔が見たいという思いが一番にあります。」

工藤の会話は終始笑顔だが、その受け答えには強い信念を感じる。

「谷水氏は日本でも数少ない、グローバルな視点と将来的な視野を持った人物です。私もお会いさせていただく度に勉強させていただいて来ました。今回、ご相談を受けた際、谷水氏の想いを継承できる人物として、ある男を推薦して奔走したのですが、私の努力が足りず実現することができなかったのは残念です。」

「それほど工藤さんが思い入れがある方は、どのような方なのですか」
日本人、ふたりが面と向かて英語で会話しているのをはたでみていたら不思議な気分だろう。
「私は18歳まで、どん底の生活環境にいました。すべてを周りのせいにしてね。高校にも通えなくなり、チンピラまがいの生活をしていました。その時出会った人物に再生の道を与えてもらった。こうして今の自分があるのもその人のおかげなんです」

真唯子は工藤の話を聞きながら、自分を重ねていた。
自分も修司がいなかったら、今の自分はなかったと断言できる。

「だから、その人が動き出したときには、『いざ鎌倉』ではないですが、いつでも役に立ちたいと、そのために日々準備をしているんですよ」


そういう工藤の少し寂しそうな笑顔を真唯子は思い出した。
さすがにプールの水は冷たい。ジャグジーに身を移し、温めた身体をバスローブで包んだ。少しなごりおしい気持ちだが、明日は帰って、竜太の誕生日を祝う予定になっていた。

(この物語は谷水雄三氏のカントリー牧場撤退を脚色したフィクションです。実際の谷水氏とは、なんら関係はありません。)


加納真唯子の予想
クイーンC
◎⑧オメガハートランド
○⑨ヴィルシーナ
★④エミーズパラダイス
△⑦アラフネ
△③エクセレントカーヴ
コメント
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