Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

たまに名曲が聴きたくなると…

2013年10月29日 | 家・わたくしごと

 先週土曜日に開催されたバンケン2013で、トイピアニストの須藤英子さんが、二台のトイピアノでパッヘルベルのカノンを演奏した。名曲が聴きたくなるきっかけなんて、いつもそんなことから訪れるものだ。たとえばちょっとテレビドキュメンタリーのバックでその曲が流れるとかね。
 ボクは家に帰って、バロック名曲集みたいなCDをくまなく探したのだが、それがどこにも見つからない。「研究室だろうか?」と思い、今日も探してみたのだがここでも発見できず。そうなると聞きたい欲望は限りなく高まり、もう抑えられなくなって、「もうこうなったらアマゾンでワンクリックか!」とあきらめかけたとたん

 「そうだ、編曲もので、これがあるじゃないか!」

 ということで、ジョージ・ウィンストンのアルバム「DECEMBER」を思い出したのだった。そう、このCDの9曲目が《Variations of the Kanon by Pachelbel》だった。すごい、ぼくはすごすぎる。こんなことを思い出すなんて!とにかく自画自賛して久しぶりに聞くと、これまたウィンストン節炸裂である。
 この曲を繰り返し聞いているうちに、中野にあったあの名曲喫茶「クラシック」を思い出した。薄汚れた小さな黒板に、硬いチョークで曲名を書いて、長いこと順番を待っているとそのレコードがかかるのだった。薄暗く今にも抜けそうなギシギシと音を立てる床の2階は、クラシック喫茶にもかかわらず食べ物持ち込み自由で、やっぱり音が出るお煎餅は遠慮して、駅前から続く商店街で買った一番安い菓子パンーーたいていはクリームパンだったーーを食べながら粉っぽいオレンジジュース頼んでこの曲を聴いていたころを思い出す。だいたいコーヒーかオレンジジュースしか注文するものはなかった。もう今、あの店は跡形もない。でもあの壊れそうな木造の建物の記憶、そんな頃の楽しかった記憶、ボクの中から消えることはないだろう。バンケン、トイピアノ、パッヘルベルのカノン、中野クラシック、私の記憶……そんな連鎖でしばし幸せな気分に浸ることができた。音楽とはまるで、これまで歩んできた人生の鏡のようだ。