(1)ペロシ米下院議長の訪台問題は、米中どちらが利益を得たのか。中国は米下院議長で大統領継承順位3番目のペロシ氏の訪台に強く抗議し、直前の米中首脳電話会談でも習近平主席が強い言葉で抗議の姿勢を示していた。
米国でも軍関係者がペロシ下院議長に米中関係の悪化を懸念しての訪台を思いとどまるよう進言していた。
(2)そういう経過もあってペロシ下院議長のアジア歴訪日程には訪台は伏せられて、しかし台湾メディアが昨夜にペロシ下院議長が訪台すると報じて、ペロシ下院議長はその通り2日夜に台湾を訪問したと伝えられ、3日に台湾蔡英文総統と会談(報道)した予定の行動だった。
(3)中国にとっては習主席が直接バイデン大統領にペロシ訪台を強くけん制する抗議を示した中で、ペロシ訪台が実現すれば習主席が面目を失うといわれて、これに中国は強い軍事的対抗措置を取るとして台湾近海に中国軍機、軍艦を配備したと伝えられる。
まさか中国軍がペロシ下院議長の乗る政府専用機の飛行を妨害して強制着陸させるということが起こりようもなく、ペロシ下院議長の訪台は実現し、蔡英文総統との会談が実現した。
(4)中国にとってはペロシ下院議長は大統領継承順位3番目の高官とはいえ、3番目は3番目であり政府の要職ではなく、米国の「ひとつの中国」政策が変更されるわけでもなく、騒ぐだけ騒いでも米中関係の何かが変わるということではないと理解できる。
むしろ中国にとっては騒ぐだけ騒いで強い抗議のために台湾近海での台湾を囲むように実弾を使った軍事演習を実施すると発表しており、台湾に対する名目のある軍事圧力を公然と実施する利益はある。ペロシ下院議長はこれから日本を訪問することになっており、中国軍は日本のEEZでの軍事演習も実施するとしており緊張拡大が懸念される。
(5)ペロシ下院議長の訪台計画は、仮に米国が取りやめれば中国の威圧に屈したとしてバイデン大統領の弱気な外交が批判を受けてダメージが大きく、中国にとっても台湾に対する米国の関与を弱めたい意向の中で知名度の高いペロシ下院議長の訪台に強く抗議する姿勢を示して、米国に断念させれば中国の威信は高まり、しかし訪台が実現すれば中国の威信、習主席の威信の低下は避けられないダメージはある。
(6)米中ともに引くに引けない事情の中でのペロシ下院議長の訪台は予定通りに実現した。結局は米中政府間同士で大統領継承順位3番目のペロシ下院議長とはいえ議会の要職にある人物の訪台で政府としてこれまでの対中関係に変更をもたらさないという認識のもとに、米国は25年ぶりに米下院議長の訪台を実現し影響力を誇示し、中国は台湾、日本も巻き込んで軍事圧力(演習)を公然と実施する名目を得て実利(utility)を二分した。
(7)米中がそれぞれの実利を得てどう関係修復に動くのか、米中の危険な火遊びは台湾海峡、日本にも影響を及ぼす。