総合病院精神科、悲鳴 医師2年半で4割離職
2010年9月16日 提供:毎日新聞社
こころを救う:総合病院精神科、悲鳴 医師2年半で4割離職
◇開業志向強く、経験浅い若手ばかりに
自殺未遂者ケアなど専門的な治療ができる総合病院に06年8月時点で勤務していた精神科医892人についてその後の勤務先を調査したところ、約2年半後には約4割が診療所の開業などを理由に離職したことが分かった。日本精神神経学会で発表された。この間、総合病院の医師は16%減っている。毎日新聞にも国立病院機構横浜医療センターの武川吉和精神科部長(48)が投書を寄せ「ベテランがごっそり開業し、総合病院精神科の滅亡は加速しそうです」と訴えた。精神科医療を担う総合病院が大きく揺らいでいる。【堀智行、奥山智己】
横浜市戸塚区のベッドタウンにある横浜医療センター。10年ほど前から周辺の市や区に精神科診療所が次々と開業した。地域の診療所が外来を担当し、症状が重い場合は総合病院が診る--。武川部長は、精神科医療に関する国の検討会がめざす役割分担が進むことを期待していた。
しかしもくろみは外れた。診療所には患者が押し寄せ、予約は1カ月待ち状態に。センターの外来は開業医からの紹介患者が急増した。入院設備のない診療所にとって、とりわけ自殺未遂を繰り返す患者らの治療は難しく、総合病院を頼るしかない事情はある。
だが多くの開業医は、総合病院などの勤務医だった40代以上の医師たちだ。一方、センターは武川部長以外のベテラン医師が既に退職し、ほかの3人は30代の若手でキャリアは2~6年。武川部長は「ライフスタイルの変化もあり、時間外勤務のない開業医志向が強まった。診療所の医師が対処に困り回してきた患者を、経験の浅い若手が治さないといけない状況だ」と嘆く。
センターは救命救急体制を充実したことで、自殺未遂者の搬送が増加した。「救急の比重が高まる中、外来もではパンクする」。やむなく外来を予約制にして患者数を制限した。それでも食事を取る間もなく外来と病棟を行き来する日が続く。
総合病院への患者の期待は大きい。「退院しても診療所への紹介を嫌がられることがある。紹介しないと受け入れ能力はすぐいっぱいになる。寄らば大樹という思いが開業医にも患者にもある」
武川部長が自分が退職した時の後任として思い浮かぶのは、経験が10年に満たない若手ばかり。彼らも長くは勤めてはくれないだろう。「私のように総合病院にいるのは留年しているようなもの。救急から療養までの精神科医療のネットワークに医師が適正に配置されないと総合病院の部長をやる人がいなくなってしまう」
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日本精神神経学会で発表されたデータは、06年8月の専門医認定試験を申し込んだ精神科医6881人の勤務先について2年7カ月後の09年3月時点と比較したもの。このうち総合病院に勤めていた892人中約4割の354人が離職。一方、単科の精神科病院などから移ってきた医師は211人にとどまり、総合病院の医師は16%減った。学会関係者は「少人数で激務をこなす総合病院が敬遠されている」と指摘する。
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