「これだけ問題が多い報告書はない」、日医が医療産業研究会について会見
「中医協、医師、医療機関を冒涜する内容あり」との指摘も
日本医師会副会長の中川俊男氏は6月30日の定例記者会見で、経済産業省の「医療産業研究会」が同日まとめた報告書を取り上げ、「これだけ問題の多い報告書はない。最大の問題は、副題に『国民皆保険制度の維持・改善に向けて』とあるにもかかわらず、国民皆保険を否定して、崩壊させようとしている点だ。地域医療の崩壊を見過ごして、公的医療保険に依存せず、民間市場を拡大しようとしている」と指摘した(報告書は経産省のホームページを参照)。
同研究会は前自民党政権下の2009年8月に設置が決まり、9月から計5回の議論を経て報告書をまとめた。「現政権下で、これをこのまま引き継いだことにも大変失望されられた」(中川氏)。
中川氏は、「現政権は、対GDP比の医療費をOECD平均並みに上げるとしているが、最近の動きを見ると、混合診療の全面解禁や医療ツーリズムの実施など、私的医療費を上げて、総医療費を上げようとしているのではないかと思われ、遺憾である。報告書は、現行制度の不備を指摘するが、日本医師会は周辺産業でカバーすればいいとは決して考えていない。国民皆保険の崩壊につながりかねない混合診療の全面解禁と医療ツーリズムには、断固として反対、阻止するため、政府与党に働きかけていく」と基本的考えを述べた。
「国民皆保険の崩壊につながりかねない混合診療の全面解禁と医療ツーリズムには、断固として反対、阻止」と強調する日本医師会副会長の中川俊男氏。
報告書の具体的な問題点としては、例えば以下のような点を挙げた。まず、(1)や(2)について、中川氏は、「あるべきは国民皆保険の堅持であり、現行の医療制度や診療報酬の問題点を解決していかなければならない。そのためには財源がないからと、あきらめるのではなく、財源確保に努力することが必要」と指摘。
また(3)については、「リハビリなど、必要な医療・介護は、公的医療保険に組み込んでいくべき。また公的医療保険外のサービスは全額自己負担。報告書によれば、民間保険への加入が促され、民間事業者がさらに潤うことになる」(中川氏)とした。
(4)と(5)は、「医療ツーリズムとの言葉を使っていないが、医療ツーリズムそのもの」とした。「第一に、国が特定の医療機関にお墨付きを与えて、その経営を支援するようなことをすべきではない。これにより、“勝ち組医療機関”に、そうでない医療機関から医師が引き抜かれることになる。地方の医療機関は切り捨てられる。第二は、市場を国外に広げることにより、国内医療の質が向上すると言っている。これは“ビジネスクラス理論”を期待しているのかもしれないが、そのエビデンスはない。医療ツーリズムで獲得した資金は、“勝ち組医療機関”やその周辺産業にしかいかない」(中川氏)。
【日医が医療産業研究会報告書の問題点として指摘した例】
(1)今日の日本の医療制度における課題は、おそよ医療に関わるすべてのニーズに、財源的にも制約がある診療報酬体系という手段のみで対応しようとする点にあるのではないか。
(2)まず必要なことは、公的保険の枠内ですべてを賄おうとした場合には期待することが困難な、自由な発想や工夫された効率性、自律的に顧客ニーズに応える能力を持つサービスが事業として創出されることである。
(3)リハビリにおいては、発症後、半年で医療保険でのリハビリは逓減。退院後の在宅リハビリを支える体制が不十分。→ 例えば、フィットネス事業者などが、退院後のリハビリを支える体制を充実させれば、退院後も身体機能の維持がしやすくなる。
(4)医療の国際化の目的は、日本の医療圏(市場)を国外にも広げ、国内医療への再投資を通じて、その質をさらに向上させることにある。まず、外国人患者の受け入れから始める。
(5)外国人患者、顧客の受け入れに必要な能力(サービス提供者との契約を含む)を有する医療機関を認証し、認証を受けた医療機関が必要とする場合には、医療法上の病床規制の特例や、外国人医師臨床修練制度の緩和による外国人医師などの受け入れなど、必要な規制緩和を検討すべきである。
医師の委員が果たして了承したのかは不明
そのほか、例えば、報告書には、「診療報酬体系に中に入れば、どのようなサービスでもその範囲と価格が公定で決まることになる。このような方式においては、一度メニューに掲載されればサービスの内容が固定されるため、創意工夫のインセンティブが働きづらくなる。極論すれば、工夫をしない方が収入が良いという場合もあり得る」「現在の診療報酬のメニューにQOLの維持という視点は存在しない」とある。「これは中医協、医師、医療機関を冒涜するもの。また診療報酬は財源的な制約で決めるのは間違い。本来、必要な医療には必要な財源を確保することを考えていくべきもの」(中川氏)。
それ以外にも、保険外併用療養の限界と混合診療の解禁、公的医療保険制度の限界と枠外のサービス拡充、米国医療制度の支持といった視点があり、問題が多いとした。
なお、「医療産業研究会の委員には、病院団体の代表者やその他の医療関係者が入っている(経産省のホームページを参照)。これらの委員は了承したと考えているのか」との質問には、中川氏は、「病院団体とは協議を重ねており、少しずつ理解を得ており、齟齬はないと考えている。医療産業研究会では、どのような議論をしてどのような経過で報告書をまとめたのか、議事録が公開されていないため、分からない。その点を確認して行動したい。委員に名前があるからと言って了承したとは限らず、不本意な場合もあり得る」と答えた。
「中医協、医師、医療機関を冒涜する内容あり」との指摘も
日本医師会副会長の中川俊男氏は6月30日の定例記者会見で、経済産業省の「医療産業研究会」が同日まとめた報告書を取り上げ、「これだけ問題の多い報告書はない。最大の問題は、副題に『国民皆保険制度の維持・改善に向けて』とあるにもかかわらず、国民皆保険を否定して、崩壊させようとしている点だ。地域医療の崩壊を見過ごして、公的医療保険に依存せず、民間市場を拡大しようとしている」と指摘した(報告書は経産省のホームページを参照)。
同研究会は前自民党政権下の2009年8月に設置が決まり、9月から計5回の議論を経て報告書をまとめた。「現政権下で、これをこのまま引き継いだことにも大変失望されられた」(中川氏)。
中川氏は、「現政権は、対GDP比の医療費をOECD平均並みに上げるとしているが、最近の動きを見ると、混合診療の全面解禁や医療ツーリズムの実施など、私的医療費を上げて、総医療費を上げようとしているのではないかと思われ、遺憾である。報告書は、現行制度の不備を指摘するが、日本医師会は周辺産業でカバーすればいいとは決して考えていない。国民皆保険の崩壊につながりかねない混合診療の全面解禁と医療ツーリズムには、断固として反対、阻止するため、政府与党に働きかけていく」と基本的考えを述べた。
「国民皆保険の崩壊につながりかねない混合診療の全面解禁と医療ツーリズムには、断固として反対、阻止」と強調する日本医師会副会長の中川俊男氏。
報告書の具体的な問題点としては、例えば以下のような点を挙げた。まず、(1)や(2)について、中川氏は、「あるべきは国民皆保険の堅持であり、現行の医療制度や診療報酬の問題点を解決していかなければならない。そのためには財源がないからと、あきらめるのではなく、財源確保に努力することが必要」と指摘。
また(3)については、「リハビリなど、必要な医療・介護は、公的医療保険に組み込んでいくべき。また公的医療保険外のサービスは全額自己負担。報告書によれば、民間保険への加入が促され、民間事業者がさらに潤うことになる」(中川氏)とした。
(4)と(5)は、「医療ツーリズムとの言葉を使っていないが、医療ツーリズムそのもの」とした。「第一に、国が特定の医療機関にお墨付きを与えて、その経営を支援するようなことをすべきではない。これにより、“勝ち組医療機関”に、そうでない医療機関から医師が引き抜かれることになる。地方の医療機関は切り捨てられる。第二は、市場を国外に広げることにより、国内医療の質が向上すると言っている。これは“ビジネスクラス理論”を期待しているのかもしれないが、そのエビデンスはない。医療ツーリズムで獲得した資金は、“勝ち組医療機関”やその周辺産業にしかいかない」(中川氏)。
【日医が医療産業研究会報告書の問題点として指摘した例】
(1)今日の日本の医療制度における課題は、おそよ医療に関わるすべてのニーズに、財源的にも制約がある診療報酬体系という手段のみで対応しようとする点にあるのではないか。
(2)まず必要なことは、公的保険の枠内ですべてを賄おうとした場合には期待することが困難な、自由な発想や工夫された効率性、自律的に顧客ニーズに応える能力を持つサービスが事業として創出されることである。
(3)リハビリにおいては、発症後、半年で医療保険でのリハビリは逓減。退院後の在宅リハビリを支える体制が不十分。→ 例えば、フィットネス事業者などが、退院後のリハビリを支える体制を充実させれば、退院後も身体機能の維持がしやすくなる。
(4)医療の国際化の目的は、日本の医療圏(市場)を国外にも広げ、国内医療への再投資を通じて、その質をさらに向上させることにある。まず、外国人患者の受け入れから始める。
(5)外国人患者、顧客の受け入れに必要な能力(サービス提供者との契約を含む)を有する医療機関を認証し、認証を受けた医療機関が必要とする場合には、医療法上の病床規制の特例や、外国人医師臨床修練制度の緩和による外国人医師などの受け入れなど、必要な規制緩和を検討すべきである。
医師の委員が果たして了承したのかは不明
そのほか、例えば、報告書には、「診療報酬体系に中に入れば、どのようなサービスでもその範囲と価格が公定で決まることになる。このような方式においては、一度メニューに掲載されればサービスの内容が固定されるため、創意工夫のインセンティブが働きづらくなる。極論すれば、工夫をしない方が収入が良いという場合もあり得る」「現在の診療報酬のメニューにQOLの維持という視点は存在しない」とある。「これは中医協、医師、医療機関を冒涜するもの。また診療報酬は財源的な制約で決めるのは間違い。本来、必要な医療には必要な財源を確保することを考えていくべきもの」(中川氏)。
それ以外にも、保険外併用療養の限界と混合診療の解禁、公的医療保険制度の限界と枠外のサービス拡充、米国医療制度の支持といった視点があり、問題が多いとした。
なお、「医療産業研究会の委員には、病院団体の代表者やその他の医療関係者が入っている(経産省のホームページを参照)。これらの委員は了承したと考えているのか」との質問には、中川氏は、「病院団体とは協議を重ねており、少しずつ理解を得ており、齟齬はないと考えている。医療産業研究会では、どのような議論をしてどのような経過で報告書をまとめたのか、議事録が公開されていないため、分からない。その点を確認して行動したい。委員に名前があるからと言って了承したとは限らず、不本意な場合もあり得る」と答えた。