【鳥取】医師も知らない「依存症」、安陪隆明さん
地域 2016年2月24日 (水)配信毎日新聞社
◇安陪内科医院(鳥取市)安陪隆明さん
もう三十年も前になりますが、私が医学生であった頃、あまりの医学の膨大さにいくら勉強しても勉強しても頭が追いつかず、パニックに陥ったことがあります。現代医学というのはとにかく膨大です。どんなに優秀な医師でも、現代医学のすべての知識を持っている医師というのはまずいないのではないでしょうか。だからこそ多くの医師は、自分の専門外のことであれば、地位や年齢に関係なく専門の医師から謙虚に教えを乞う姿勢を持っています。
さて、私が関わっている禁煙治療、つまり「ニコチン依存症」という病気も、そして依存症という疾患分野も、実はまだ多くの医師がその実態を十分理解していただいているとは言い難い分野なのではないかという気がしています。
私自身、依存症という病気を充分に勉強していなかった十年程前までは、患者さんの言動を理解できていませんでした。患者さんが明らかにタバコやお酒のせいで泣き出すほどのひどいめに遭っているのに、それでもタバコやお酒をやめることができない。それを見ても「いったいこの人は何を考えているのだろう?」と私は不思議がるばかりだったのです。実は自分が理解できなかったのは、自分が依存症という病気についてきちんと勉強していなかったからにすぎなかった、ということに後から気が付いた始末です。
そして、過去の私がそうであったように、現在も世間はもちろん医療関係者の間ですら、依存症という病気に対する理解が進んでいるとは言いがたい現状があります。
「タバコはストレス解消になるのだから、本数が少なければ吸ってもいいよ」
「ニコチンとタールが少ない軽いタバコに変えれば大丈夫だよ」
などといった間違った指導をする医師もまだ残念ながらおられます。医師といえども、自分の専門外の分野についてはよく知らず、こういう間違いをすることもあるので注意が必要なのです。
と偉そうに他医を批判するようなことを書いてしまいましたが、私自身もまた自分の専門外の分野についてはよくわかっていない凡医にすぎず、他医を批判できるような立場ではありません。
大事なことは、患者さんや医療関係者を問わず、依存症という病気について正しい知識を啓発していくことであり、それを進めていかなければと考えているところです。