’19記者リポート:イ病と環境 大学で講義 教訓伝える /富山
地域 2019年7月30日 (火)配信毎日新聞社
昨年、公害病認定から半世紀を迎えたイタイイタイ病(イ病)の教訓を次世代に伝えようと、地元の富山大(富山市五福)で、イ病から環境を考える講義が続いている。イ病裁判の原告、高木良信さんらを外部講師に招いた講義には、全学部から毎回約100人が聴講。若者の立場でのイ病の考察に取り組んでいる。【青山郁子】
■ゼミ生の発言にショック
イ病研究に取り組み始めた経済学部の雨宮洋美准教授(経営法学)が、「人が少しくらい死んだとしても、富山の発展を優先させるのが行政の仕事だ」というゼミ生のイ病についての考え方に衝撃を受け、昨年から開講している。2年目の今年は、高木さんのほか被害者救済にあたってきた萩野病院(富山市婦中町萩島)の青島恵子院長、イ病裁判の原告側代理人を務めた松波淳一・元弁護士ら、患者と直接関わってきた6人を講師に招いた。
■原告側弁護士
松波さんは裁判当時、原告らとともに加害企業を訪れた場面を振り返り「体当たりして妨害された」と証言。県が頑(かたく)なに公害病ではないと主張し続けた背景として「当時、工業化の一環で県内にも(イ病の原因となった)神岡鉱山の支所を作り亜鉛を生産する計画があった。知事が地元に直接『騒ぐな』と圧力をかけてきたこともあった」と怒りを込めて語った。
さらに痛みに苦しむ患者や支援の盛り上がりを記録した写真や8ミリフィルムなどを使って勝訴を勝ち取るまでを紹介した。
■若者へのメッセージ
一方、現在も神岡鉱山への立ち入り調査を続ける西山貞義弁護士は「予防原則」の重要性を強調。「イ病発生により多くの患者が苦しみ、そして今も患者が存在する。さらにカドミウム汚染田の土壌復元のために約40年の歳月と400億円以上の費用を要した。長期間にわたり十分な対策をとらなかった結果、極めて深刻で不可逆的な影響がもたらされた」と指摘。学生に向けて「社会に出たら、確実に危険だという証拠はなくても、問題が起きたら大変深刻な状況になる可能性があればあらかじめ対策を講じておくという考えで、企業活動を行ってほしい」と呼びかけた。
■学生の反応は
学生からは、「高木さんの講義は、提訴までの葛藤など当事者でなければ聞けない内容だった。行政の在り方を考えさせられた」(経済学部3年、佐竹成実さん)、「もっと昔の出来事というイメージだったが、意外と最近のことで驚いた。インフラ系の職業が目標なので、市民の健康や声にもっと目を向けていくべきだと感じた」(都市デザイン学部1年、市橋季也さん)、「この教訓を富山だけではなく全国に広まるよう、ネットなどを活用してみたい」(人文学部1年、笹川愛海さん)といった声が聞かれた。
また、「イ病をアートでとらえ、芸術文化学部の学生が町おこし、地域おこしに活用できないか」などの斬新な意見も。雨宮准教授は「大学の全学問分野の知識を結集し、学生と共に我々が今、何をなすべきを考えるきっかけにしてほしい」と成果を期待し、来年も講義を続ける予定だ。
地域 2019年7月30日 (火)配信毎日新聞社
昨年、公害病認定から半世紀を迎えたイタイイタイ病(イ病)の教訓を次世代に伝えようと、地元の富山大(富山市五福)で、イ病から環境を考える講義が続いている。イ病裁判の原告、高木良信さんらを外部講師に招いた講義には、全学部から毎回約100人が聴講。若者の立場でのイ病の考察に取り組んでいる。【青山郁子】
■ゼミ生の発言にショック
イ病研究に取り組み始めた経済学部の雨宮洋美准教授(経営法学)が、「人が少しくらい死んだとしても、富山の発展を優先させるのが行政の仕事だ」というゼミ生のイ病についての考え方に衝撃を受け、昨年から開講している。2年目の今年は、高木さんのほか被害者救済にあたってきた萩野病院(富山市婦中町萩島)の青島恵子院長、イ病裁判の原告側代理人を務めた松波淳一・元弁護士ら、患者と直接関わってきた6人を講師に招いた。
■原告側弁護士
松波さんは裁判当時、原告らとともに加害企業を訪れた場面を振り返り「体当たりして妨害された」と証言。県が頑(かたく)なに公害病ではないと主張し続けた背景として「当時、工業化の一環で県内にも(イ病の原因となった)神岡鉱山の支所を作り亜鉛を生産する計画があった。知事が地元に直接『騒ぐな』と圧力をかけてきたこともあった」と怒りを込めて語った。
さらに痛みに苦しむ患者や支援の盛り上がりを記録した写真や8ミリフィルムなどを使って勝訴を勝ち取るまでを紹介した。
■若者へのメッセージ
一方、現在も神岡鉱山への立ち入り調査を続ける西山貞義弁護士は「予防原則」の重要性を強調。「イ病発生により多くの患者が苦しみ、そして今も患者が存在する。さらにカドミウム汚染田の土壌復元のために約40年の歳月と400億円以上の費用を要した。長期間にわたり十分な対策をとらなかった結果、極めて深刻で不可逆的な影響がもたらされた」と指摘。学生に向けて「社会に出たら、確実に危険だという証拠はなくても、問題が起きたら大変深刻な状況になる可能性があればあらかじめ対策を講じておくという考えで、企業活動を行ってほしい」と呼びかけた。
■学生の反応は
学生からは、「高木さんの講義は、提訴までの葛藤など当事者でなければ聞けない内容だった。行政の在り方を考えさせられた」(経済学部3年、佐竹成実さん)、「もっと昔の出来事というイメージだったが、意外と最近のことで驚いた。インフラ系の職業が目標なので、市民の健康や声にもっと目を向けていくべきだと感じた」(都市デザイン学部1年、市橋季也さん)、「この教訓を富山だけではなく全国に広まるよう、ネットなどを活用してみたい」(人文学部1年、笹川愛海さん)といった声が聞かれた。
また、「イ病をアートでとらえ、芸術文化学部の学生が町おこし、地域おこしに活用できないか」などの斬新な意見も。雨宮准教授は「大学の全学問分野の知識を結集し、学生と共に我々が今、何をなすべきを考えるきっかけにしてほしい」と成果を期待し、来年も講義を続ける予定だ。