スタチン効果が乏しい急性心筋梗塞症例、心不全リスク増加
国循、研究成果は、英文機関誌「Cardiovascular Diagnosis & Therapy」オンライン版掲載
国立循環器病研究センターは1月15日、スタチンについて、急性心筋梗塞の一部の症例で効果が減弱し、急性心筋梗塞発症後の心不全合併リスクを高めることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大研究センター心臓血管内科の津田浩佑研修生、心臓血管内科部冠疾患科の片岡有医長、野口暉夫副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、英文機関誌「Cardiovascular Diagnosis & Therapy」オンライン版掲載されている。
コレステロールを低下させる薬剤スタチンは、心筋梗塞・脳梗塞などの心血管疾患発症を予防する効果を有しており、ガイドラインにより急性心筋梗塞症の患者におけるスタチンの使用が推奨されている。
一方、実臨床において、一部、スタチンによるコレステロール低下作用が乏しい症例が存在することが報告されている。急性心筋梗塞後の症例において、ガイドラインに準じたスタチン投与にもかかわらず、その効果が乏しい症例における予後については詳細な研究は行われていない。
今回、研究グループは、国立循環器病研究センターに入院した急性心筋梗塞の患者505例を解析。その結果、全症例の15.2%では、スタチンが開始されたにもかかわらず、コレステロールの低下効果が乏しく、ガイドラインで推奨されたLDLコレステロール管理目標値の達成率も低値だった。
このようなスタチンの効果が乏しい症例は、BMIが低く、スタチン開始後の炎症反応検査であるCRPが高い傾向にあった。急性心筋梗塞患者において、スタチンの効果が乏しい症例は、スタチンが有効な症例に比して心不全の発症頻度のハザード比が3.01と高く予後不良だった(95%信頼区間1.27-6.79、p値0.01)。スタチン投与にもかかわらずLDLコレステロールが全く低下しない症例は、心不全発症率がさらに高まる(22.2%)ことも確認されたという。
実臨床において、スタチンの有効性が個々の症例で異なることは認識されていたが、心不全に対する臨床的意義については十分に検証されていなかった。今回の研究では、スタチンに対する効果が減弱している症例において、心不全リスクが増加することが確認された。ガイドラインで推奨されたLDLコレステロールの目標値を達成することは、動脈硬化性心血管疾患の発症予防だけでなく、心不全発症のリスク低減においても重要であることが考えられるという。今後、スタチンの効果が乏しい症例において、スタチン以外の薬剤を追加してLDLコレステロールをさらに低下させることによる心不全発症予防効果については、さらなる検討が必要だとしている。
スタチンの効果が減弱する機序の詳細は、まだ解明されていない。コレステロール代謝・産生に寄与する遺伝子変異が関係していることを示した論文報告が存在するのみであり、今後さらなる研究が必要だ。
研究責任者である片岡氏は、LDLコレステロール代謝を制御するバイオマーカーに着目し、スタチンの反応性との関係を明らかにする研究を実施している。将来的には、個々の症例においてバイオマーカー測定等によりスタチンの有効性を予測し、その結果に応じて適切な脂質低下薬剤を選択して将来の心不全を含めた心血管疾患発症予防が可能となることを目指して研究を進めているとしている。