新型コロナ:新型コロナ 大阪受け入れ1割、知事イライラ 民間増床、なぜ困難? 一般救急カバー/人員・設備に限界
新型コロナウイルスの患者用病床の「供給源」として、民間病院がクローズアップされている。大阪府の吉村洋文知事は民間病院に病床確保への協力を繰り返し求めているが、民間病院側は「事情が理解されていない」と猛反発。吉村知事は、要請に応じない病院名の公表も辞さない姿勢を示し、強硬手段をちらつかせる。コロナ病床の必要性を共有しながら、なぜ激しくぶつかってしまうのか。民間病院側の声に耳を傾けると、怒りの理由と、解決への糸口が見えてきた。
「民間病院はコロナに立ち向かう努力をしていないと言うのか」。病床確保を求める府の対応に、西淀病院(大阪市西淀川区)の大島民旗院長は憤る。
同病院は一般病床2病棟や回復期リハビリテーション病棟など約200床を備える民間の2次救急病院。コロナ病床はないが、発熱患者も積極的に診療し、感染確認前の段階から個室で隔離して受け入れる。2020年12月に運用が始まった大阪コロナ重症センターにも、看護師1人を派遣。コロナ受け入れ病院のコロナ以外の救急患者を引き受けてカバーし、救急搬送件数は例年の1・2倍の月230件に増えた。空きベッドはほぼなく、大島院長は「コロナ以外にも命を落としかねない患者がたくさんいる」と明かす。
コロナ病床がない民間病院は、他の患者のケアなどを通して地域医療に貢献している。それでも、民間病院に批判の矛先が向くのは、コロナ受け入れの割合が低いためだ。府によると、12月18日時点で、府内に436ある民間病院のうちコロナ患者を受け入れているのは10・6%の46病院で、87・5%の公立系病院に比べて圧倒的に少ない。
感染者急増と連動するように、府の要求は強まっていった。12月25日、コロナ患者の受け入れ実績がない約110の2次救急病院に、計約200床のコロナ病床確保を要請。21年1月19日には新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき約30床の確保を求めた。
民間病院での増床が容易ではない背景には、医療界の「機能分化」も影響している。国内の病院は、集中治療など高度医療を提供する高度急性期▽早期治療が必要な重症者向けの急性期▽回復期▽慢性期――と機能の分化が進んでいる。急性期などを引き受け、人的・設備的に整っている公立系病院はコロナにも柔軟に対応できるが、民間病院の多くは回復期や慢性期を担い、多様な患者を受け入れにくく、感染症の専門知識があるスタッフもいないことが多い。
府保険医協会が1月19日に府内の病院に行ったアンケートにも「(高齢者などが長期入院する)療養病床では、人員や設備などの点からコロナ患者の受け入れは困難」との声が寄せられた。一般患者との動線分離の難しさや、風評被害を心配する回答もあった。西淀病院の大島院長は「病院名の公表は、コロナ患者を受け入れる病院と受け入れない病院の間に、新たな分断を生みかねない」と憂慮する。
真野俊樹・中央大大学院教授(医療経営学)は、コロナ増床を求める際に各病院の機能や特性に配慮する必要性を説く。「重症から軽快するなど、容体悪化のリスクが低いコロナ患者は、回復期などの病院でも引き受けることが可能で、その結果、重症用病床に空きが生まれる。多くの民間病院も協力することができる」と提言する。【近藤諭】
◇府、回復期の転院促す
新型コロナウイルスの患者用病床をなんとか確保しようと、大阪府は1月に入り、次々と施策を打ち出した。回復がみられる患者を一般病床に移すための「転院調整チーム」を作ったほか、使い切れていない「休止病床」活用のため、看護師派遣の要請にも乗り出した。
府は2020年末、発症から10日以上が経過した軽症・中等症患者について、症状改善から3日が過ぎれば一般病床に移すよう求める基準を策定。年明けにチームを発足させ、病院と連絡を取り、長期間入院している患者の把握や転院先の紹介をし、基準の円滑な運用を促す。担当者は「転院をスムーズに進めることで、新たな患者の受け入れ態勢を拡充したい」と話す。
また、府内のコロナ受け入れ病院には、人材が確保できれば活用の余地がある約600の休止病床があるという。吉村洋文知事は21日、コロナ患者の受け入れができない診療所などに対し、看護師をコロナ受け入れ病院などに派遣するよう要請する考えを示した。吉村知事は記者団に「なんとか病床を確保し、府民の命を守りたい」と述べた。【石川将来】