温泉クンの旅日記

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蔦温泉 青森・十和田

2010-01-03 | 温泉エッセイ
  <蔦温泉>

 浴室の扉をあけ、階段をおりていく。
 湯気がもうもうとたちこめている。



 埋め込まれたような木造の正方形に近い浴槽には、ふたりの先客がいた。
 ひとりのほうが強い視線を、階段を降りきるわたしに飛ばしたのを感じた。
気のせいかもしれない。

 ふたりとも浴槽の木の淵に頭をのせて、首から下の肢体はしどけなく湯のなか
に伸びている。
 浴槽からすこし離れたところにある枡形の上がり湯のところで、あまり湯音を
たてぬように掛け湯を何杯かかける。



 邪魔にならないような場所から静かに湯に身体を沈めていく。
 交わしている言葉は津軽弁なのか、まったく外国語のようである。
 
 ここは青森県の十和田湖にほど近い蔦温泉である。



 清冽な清流で知られる奥入瀬渓流も近くだ。





 一件宿で、お湯がとてもいいことからなかなか宿泊予約がとれないところで
ある。

 だから、今回も日帰りでの入浴だ。
 仕上げに奥にあるもうひとつのお目当ての内湯に向かうつもりで、まず先に
手前の古いほうの内湯にはいったのだった。

(うーむ、さすがにいい湯だ・・・)
 首だけお湯の表面からだしていた先客たちが、座りなおしたのをみてぎょっと
する。
 ふたりとも派手な図柄の刺青を背負っているのだ、それも若いだけに鮮やかな
色合いだ。


 
 わたしの動揺がお湯のなかを音波のように伝わったのか、イルカが遠くのシグ
ナルを聞き分けるようにふたりが視線を飛ばしてきて、慌てて湯を掬いあげて
顔を洗うようにごまかした。

 どうやら、会社風にいうと社歴十年以内の係長級のヤクザと、はいって三年
くらいの新入社員級のヤクザのようだ。
 二人で、日帰りで来たのだろうか。泊まりなのだろうか。会合かなんかが
あって、まだ仲間たちが次々とはいってくるのだろうか。
 急に居心地がすごく、すごーく悪くなる。
 

 都内錦糸町にある楽天地温泉に夕方いったら、廻りの客がすべて刺青のはいっ
たひとばかりで焦ったことがあるが、場所柄しょうがないと思った。
 素人衆のなかのわたしだったら、やくざ者がひとりくらいならぜんぜん平気
だが、逆は困る。とんでもない災難というか、くつろがないこと夥しい。
 地方の温泉でこんな目にあうのは山梨についで二度目である。
 温泉とかの玄関などに「刺青のある方お断り」とあっても、裸にならねばわか
らぬのだ。



 さて、どうするか。
 どのタイミングで出たらいいだろうか。飛び出して逃げたいが、「ちょっと
待てや!」と呼び止められて因縁をつけられ張り倒されてもいやだ。

 このまま我慢比べでは、茹で蛸になってしまう。
 気配があった。
 ふたりが立ち上がり見事な背中の彫り物をみせつけて浴槽を出ると、会話を
続けながら更衣室のほうに向かっていく。背中だけをみると、まるで派手な着物
でも着ているようだ。

 ああ、残念だが、お目当ての奥のほうの内湯はあきらめよう。
 津軽弁でわかりにくかったが、「もうひとつの風呂いきますか」「おう」みた
いな会話が聞き取れたからだ。

 先に奥のほうの内湯へいけばよかったと、激しく後悔するわたしだった。



   →「xx温泉 山梨・甲府付近」の記事はこちら

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