<かずら橋と蓬莱橋>
酒場で無聊の時間を持て余したときは、旅を思いだしながら酒を呑む。
その日は橋のことを思いだしながら杯を重ねた。
いままで渡った美しい橋といえば、岩国の錦帯橋か津軽の虹の舞橋をまず思いだす。いずれも木製の橋である。
山口の日本海側にある角島大橋もコンクリート製ではあるが、デザインがとても美しい橋で気にいってしまい二度も往復している。
怖くて渡れない橋もあった。
祖谷のかずら橋・・・両岸の太い樹木に、「シラクチカズラ」を編んで架けられた簡易な狭い橋で、追っ手から逃れる平家の落人が、楽に切り落とせるように造られている。
床に当たる面も、「さな木」と呼ばれる丸太や割木を荒く編んだだけの実に簡素なもので、パックリ開いたすき間から遥か下の川面が見えてしまうのだ。
祖谷渓谷はV字に切れ込んだ眼が眩むような高さのところなので、まさに高所恐怖症殺しである。
実際にはたかだか十五メートルほどの高さなのだが、これが心底怖い。高さ十五メートルに張られたロープで綱渡りをしている気分と思えばいい。
一方通行にすればいいと思うのだが、あろうことか向こう岸からもやってくる。風でさえ揺れるというのに、真底イカれているのかそれとも同行の彼女を怖がらせるためなのか、わざとユサユサ揺らす馬鹿も必ずいるのだ。
(せっかく、はるばる来たのだから少しだけ・・・)
かずらをがっちり握りながら揺れまくる橋を二、三歩渡り始めて、足がすくんでしまい情けないことに引き返してしまった。
九重の夢大吊り橋のように高くても下さえ見えなければなんとか渡れるのだが、こいつは無理だった。
もうひとつ怖くて渡れない橋があった。
静岡島田の蓬莱橋(ほうらいばし)は、長さが約九百メートルの趣のある橋である。幅が三メートル弱と狭い人馬専用の橋で、なぜか法律上は橋なのに「農道」に分類されるというのが面白い。
ようやく探し当て、通行料の百円を払った。
勇んで歩き始めて気がついたが、この橋、かなり欄干が低い。申し訳ていどの高さの膝より低い欄干は転落防止というより、足をけつまずいて転落させるためのものかと疑ってしまう。
欄干がまったくなくて、前から車が来たら「なにぃ、もう川に飛びこむしかないじゃんか!」というぐらい狭い四万十川の沈下橋の超ロングバージョンのようだ。
あいにくこの日は強風が横から吹きつけてくる。
大井川の上まで来ると渡る風が一段と強い。
身長が加わるので、けっこうな高さを歩いていることに気づく。
吹き飛ばされないように、なるべく真ん中を歩くのだが、前から人が来たら端に寄らなければならない。
端に寄れば、レイのけつまずきそうな欄干が待ち受けている。
百メートルほど行ったところで、前方から戻りのグループがやってくるのをみて「いつも往復するのだが、今日はなんとなくここまでにしておくか」みたいな臭い演技をして足早に引き返したのである。
とにかく場所はしっかり覚えたので、いずれ無風の日に橋を渡ってみたい。
→「錦帯橋②」の記事はこちら
→「鶴の舞橋」の記事はこちら
→「角島大橋」の記事はこちら
→「大吊橋に挑戦」の記事はこちら
→「祖谷温泉」の記事はこちら
酒場で無聊の時間を持て余したときは、旅を思いだしながら酒を呑む。
その日は橋のことを思いだしながら杯を重ねた。
いままで渡った美しい橋といえば、岩国の錦帯橋か津軽の虹の舞橋をまず思いだす。いずれも木製の橋である。
山口の日本海側にある角島大橋もコンクリート製ではあるが、デザインがとても美しい橋で気にいってしまい二度も往復している。
怖くて渡れない橋もあった。
祖谷のかずら橋・・・両岸の太い樹木に、「シラクチカズラ」を編んで架けられた簡易な狭い橋で、追っ手から逃れる平家の落人が、楽に切り落とせるように造られている。
床に当たる面も、「さな木」と呼ばれる丸太や割木を荒く編んだだけの実に簡素なもので、パックリ開いたすき間から遥か下の川面が見えてしまうのだ。
祖谷渓谷はV字に切れ込んだ眼が眩むような高さのところなので、まさに高所恐怖症殺しである。
実際にはたかだか十五メートルほどの高さなのだが、これが心底怖い。高さ十五メートルに張られたロープで綱渡りをしている気分と思えばいい。
一方通行にすればいいと思うのだが、あろうことか向こう岸からもやってくる。風でさえ揺れるというのに、真底イカれているのかそれとも同行の彼女を怖がらせるためなのか、わざとユサユサ揺らす馬鹿も必ずいるのだ。
(せっかく、はるばる来たのだから少しだけ・・・)
かずらをがっちり握りながら揺れまくる橋を二、三歩渡り始めて、足がすくんでしまい情けないことに引き返してしまった。
九重の夢大吊り橋のように高くても下さえ見えなければなんとか渡れるのだが、こいつは無理だった。
もうひとつ怖くて渡れない橋があった。
静岡島田の蓬莱橋(ほうらいばし)は、長さが約九百メートルの趣のある橋である。幅が三メートル弱と狭い人馬専用の橋で、なぜか法律上は橋なのに「農道」に分類されるというのが面白い。
ようやく探し当て、通行料の百円を払った。
勇んで歩き始めて気がついたが、この橋、かなり欄干が低い。申し訳ていどの高さの膝より低い欄干は転落防止というより、足をけつまずいて転落させるためのものかと疑ってしまう。
欄干がまったくなくて、前から車が来たら「なにぃ、もう川に飛びこむしかないじゃんか!」というぐらい狭い四万十川の沈下橋の超ロングバージョンのようだ。
あいにくこの日は強風が横から吹きつけてくる。
大井川の上まで来ると渡る風が一段と強い。
身長が加わるので、けっこうな高さを歩いていることに気づく。
吹き飛ばされないように、なるべく真ん中を歩くのだが、前から人が来たら端に寄らなければならない。
端に寄れば、レイのけつまずきそうな欄干が待ち受けている。
百メートルほど行ったところで、前方から戻りのグループがやってくるのをみて「いつも往復するのだが、今日はなんとなくここまでにしておくか」みたいな臭い演技をして足早に引き返したのである。
とにかく場所はしっかり覚えたので、いずれ無風の日に橋を渡ってみたい。
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