温泉クンの旅日記

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亡者踊り ③

2006-07-01 | 旅行記
 < 亡者踊り 3章 西馬音内 >

 十三号線から途中で脇道にはいり、ひたすら田園風景の中を一時間ほど走る。
目印になるようなもののまったくない道である。ナビだけがたよりだ。夜になれば
真っ暗闇になるだろう。
 ほんとうは西馬音内に近い、湯沢とか横手に宿をとりたかったがどこも一杯であ
ったため、鳥海山の麓の温泉にしたものである。
 三時、猿倉温泉「鳥海荘」に到着。新築のきれいな建物であった。宿泊棟と温泉
棟にわかれている。日帰りの入浴客も多い。


 
 フロントでチェックインの手続きを済ませ、西馬音内までの所要時間と簡単な
地図をもらう。峠越えの細い近道を通れば小一時間で行けるという。広い道を通る
と遠回りになり、一時間二十分ほどらしい。

「ところで、ここの門限は何時ですか。盆踊りを観にいくので遅くなりそうなの
で」
 フロントの女性が即答できずに、ガラス戸裏の事務所の責任者に聞きにいった。
「・・・十時です」
 戻ってきて申し訳無さそうにいった。
 帰りの小一時間を差し引くと、西馬音内には九時までいられない。
「もうすこし遅くなりませんか」
「・・・・・・」
 自分には答えられない、そう眼が言っていた。どうにも駄目そうである。

 部屋にはいると、昨日とは雲泥の差のきれいな広い部屋である。ここも朝食つき
の宿泊料金は昨夜と千円とかわらない。敷いてある布団もふかふかである。
 とりあえず温泉にいってみることにした。露天風呂からの鳥海山の眺望は、雲が
低く垂れ込めているのでかなわなかった。温泉は露天のほうが塩素臭くなく肌触り
のいい泉質であった。
 睡眠薬がわりに缶ビールのちいさいのを一本飲み、携帯電話のアラームをセット
して仮眠する。

 五時半、鳥海荘を出発した。ここから西馬音内まではおよそ三十五キロ離れて
いる。
 往復とも広い道を通ろうと決めていたのが、一刻も早く到着したい気持ちに負け
て峠道を選んでしまう。ナビも峠道を選んでいた。走ってみると、細い道は五分ほ
ど走るだけであった。帰りもこの道でいけるかもしれない。

 西馬音内の町にはいった。

 高い建物が見当たらないので、空が広く高い。
 運良く道を訪ねた人に案内されて、公民館みたいなところの敷地を利用した即席
駐車場に案内された。田舎で千円の駐車料金とはかなり高いが、すべては祭の運営
のためなのだろうと納得する。

 鳥海荘から西馬音内までの所要時間は飛ばしてきたので四十分ほどだった。十時
の門限に間に合わせるためには、九時すこし回ったら帰る計算である。念のため
に、忘れたふりをして部屋の鍵をもってきてしまった。適当な時間に電話をすれ
ば、門限を過ぎてもまさか締め出されることもないだろう。
 
 駐車場から会場の車止めの柵まで、道の両側に屋台や出店みたいなのがでてい
た。
 和菓子を売っている屋台がいくつもあって珍しい。串団子、大福、それに名物の
若返り饅頭などが並ぶ。果たして甘い饅頭で若返るものなのだろうか。とても、
買う勇気がない。

 簡易トイレをいくつかみかけたが、すでに長蛇の列である。風の盆のときもそう
であったが、今日も絶対に酒とかビールとか水物を呑むまいと思う。
 商店街の百五十メートルぐらいの部分が会場となっていた。
 本会場となる商店街の両側には、道に沿ってビールケースや柵で長々と仕切られ
ていた。驚くことにそのビールケースや柵に有料席という表示がしてあった。いっ
たいいくらなのだろうか。駐車場が千円だから三、四千円とるのかもしれない。
有料席もかなりのひとたちがすでに座っている。わたしは門限があるので、もった
いないのであきらめた。
 有料席と商店の間にビニールシートを敷いて場所取りがしてあった。すでに両側
の仕切りの後ろ側はくまなく場所取りがされており歩けない。

 仕切りと仕切りの間、つまり踊るスペースを歩いて適当な観賞場所を探す。二十
メートル位ごとに篝火の用意がしてあった。消火用の砂も置かれている。
 中央のあたりに桟敷がしつられていた。たぶん地元の名士などの招待客用か、高
額な有料席であろう。

 その向かいの二階には、紋入りの幔幕が張られた演奏用の特設櫓があった。ここ
でする生演奏をスピーカーで会場中に流している。
 そのまま歩いていくと右側にスーパーがあり、会場となっている道に面して広い
駐車場がある。ここなら、相当数の観客が収容できる。すでに道に面したところに
は四重か五重のビニールシートが敷かれて大勢が座り込んでいた。その後ろのほう
には、まだ空間が充分あった。

 よし、あそこでいいか。
 あとでこのスーパーに戻ることにして道なりにゆっくり歩を進める。西馬音内川
を渡り、ひやかす屋台がなくなるところまでいってから引き返す。
 旅したとき、よくこうしてぶらぶら歩く。そうすると記憶に残る。
 あの日の空、雲、町並み、交わした会話、食べたもの、いろいろと鮮やかに思い
出せる。コップに残る指紋のように、踏みしめる一歩一歩が、その土地に刻印され
る。歩いた地は決して忘れない。わたしの場合はそうだ。だから、旅先の見知らぬ
土地をできるだけ歩くのである。

 スーパーの駐車場に設営された本部のテントの横に戻った。そのテントにいた係
りのひとに聞いたら六時半からだという。今日は十一時まで、明日の最終日は十一
時半までやるという。すぐ前のビニールシートには、串焼きを頬張る中年の夫婦
と、おこぼれを待つ犬が大中二匹寝そべっていた。
 薄い小雨が降り出した。


   →亡者踊り④はこちら
   →亡者踊り②はこちら
   →亡者踊り①はこちら


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