<なか締め>
「ところでさあ・・・昨日使いすぎてオレ、手もと不如意ってやつだけど、
おまえ、今日持ってるんだよな?」
呑み始めて一時間ぐらいたったころ、ふと気になって聞いた。
わたしは三千円とばら銭ぐらいしか財布にはいっていなかった。今日はダメヨと
いやがるわたしを、軽く本当に一杯だけだからネッネッネと、しつこく口説き落と
し強引に行きつけの居酒屋に連れ込むくらいだから、まず懐はあたたかいはずだ。
「イヤおれも、あまり持っていない。和泉、オマエいつも持ってるからだいじょう
ぶかと思ってた」
「ええー、持ってないの!」
愕然とした。まったくいい年して一万円ぐらい持ってろよ。つい自分のことを
棚にあげて思ってしまう。
「・・・まったく。いくら持っている?」
やはり三千円足らずだという。さきほど、キープしているボトルを呑みきり一本
いれてしまった。新しい焼酎のボトルをいれるまえに訊けばよかった。二人で六千
円か。ボトルが危ないなあ。格好悪いけどしょうがない。手をひらひらさせて店員
を呼ぶと、猫なで声で囁いた。
「あのう、悪いけど一旦ここで『ナカジメ』してくれないかな?」
なか締めであるので勘定が足りるなら、まだまだ呑むつもりなのはいうまでも
ない。
温泉に行って帰ってくると、年月と温泉地名と都道府県をパソコンに入力する。
最初のころは手帳にチョコチョコと殴り書きにメモしていたのだが、温泉に半端
でないほどハマりすぎて手帳ではどうにも書ききれなくなり、集計もしにくいので
パソコンに途中から変えたのである。
今朝は、思い立っていままで行った温泉の数を集計してみた。
――いわゆる「なか締め」である。
温泉に絡め取られのめり込む、そのサマは年度別に集計すると一目瞭然、よく
わかる。
○平成 6年(1994) 6湯
○平成 7年(1995) 20湯
○平成 8年(1996) 42湯
○平成 9年(1997) 65湯
○平成10年(1998) 158湯
○平成11年(1999) 209湯
○平成12年(2000) 166湯
○平成13年(2001) 148湯
○平成14年(2002) 104湯
○平成15年(2003) 88湯
年に二桁の温泉に行きますというひとで、その数が五十でも六十でもかなりの
温泉好きだ。
平成10年に初めて百五十湯以上の温泉に行ったわけだが、これは、月にして
十二湯ペース、週三湯のペースで温泉にはいりまくったのだなとわかる。オー、
ユークレイジー。この年に温泉の魔力に絡め取られ、のめり込んだのだ。
さらに、年に二百湯を超える異常な年があるが、これも計算上、月にして十七湯
ペース、週四湯のペースとなる。冬は雪のため機動力のある車を使わず鉄道で行く
ので、あまり数をこなせない。だから、春夏秋の季節に209湯の九割がた集中
して温泉にはいったことになるのである。
あるていどまとまった休みがとれる自由業ではない、週末と有給休暇のやりくり
しかないシガナイ「サラリーマン」の分際で、である。年に209湯・・・ああ
これはもう正真正銘能天気まちがいなく亡国の徒、折り紙ビラビラ付きの温泉バカ
ヤロウだ。
その異常な数の温泉をこなした平成11年をピークに徐々にペースダウンして
いる。
よしよしそうであろう、さすがのオマエさんもようやく改心して更生し始めた
のか、とカン違いしないでほしい。
よっぽど気に入った温泉でないと何度もいくことはない。たんに、フツーの週末
だけを使って行ける近場に、行ったことのない温泉があまりにも減っただけなので
ある。
「ところでさあ・・・昨日使いすぎてオレ、手もと不如意ってやつだけど、
おまえ、今日持ってるんだよな?」
呑み始めて一時間ぐらいたったころ、ふと気になって聞いた。
わたしは三千円とばら銭ぐらいしか財布にはいっていなかった。今日はダメヨと
いやがるわたしを、軽く本当に一杯だけだからネッネッネと、しつこく口説き落と
し強引に行きつけの居酒屋に連れ込むくらいだから、まず懐はあたたかいはずだ。
「イヤおれも、あまり持っていない。和泉、オマエいつも持ってるからだいじょう
ぶかと思ってた」
「ええー、持ってないの!」
愕然とした。まったくいい年して一万円ぐらい持ってろよ。つい自分のことを
棚にあげて思ってしまう。
「・・・まったく。いくら持っている?」
やはり三千円足らずだという。さきほど、キープしているボトルを呑みきり一本
いれてしまった。新しい焼酎のボトルをいれるまえに訊けばよかった。二人で六千
円か。ボトルが危ないなあ。格好悪いけどしょうがない。手をひらひらさせて店員
を呼ぶと、猫なで声で囁いた。
「あのう、悪いけど一旦ここで『ナカジメ』してくれないかな?」
なか締めであるので勘定が足りるなら、まだまだ呑むつもりなのはいうまでも
ない。
温泉に行って帰ってくると、年月と温泉地名と都道府県をパソコンに入力する。
最初のころは手帳にチョコチョコと殴り書きにメモしていたのだが、温泉に半端
でないほどハマりすぎて手帳ではどうにも書ききれなくなり、集計もしにくいので
パソコンに途中から変えたのである。
今朝は、思い立っていままで行った温泉の数を集計してみた。
――いわゆる「なか締め」である。
温泉に絡め取られのめり込む、そのサマは年度別に集計すると一目瞭然、よく
わかる。
○平成 6年(1994) 6湯
○平成 7年(1995) 20湯
○平成 8年(1996) 42湯
○平成 9年(1997) 65湯
○平成10年(1998) 158湯
○平成11年(1999) 209湯
○平成12年(2000) 166湯
○平成13年(2001) 148湯
○平成14年(2002) 104湯
○平成15年(2003) 88湯
年に二桁の温泉に行きますというひとで、その数が五十でも六十でもかなりの
温泉好きだ。
平成10年に初めて百五十湯以上の温泉に行ったわけだが、これは、月にして
十二湯ペース、週三湯のペースで温泉にはいりまくったのだなとわかる。オー、
ユークレイジー。この年に温泉の魔力に絡め取られ、のめり込んだのだ。
さらに、年に二百湯を超える異常な年があるが、これも計算上、月にして十七湯
ペース、週四湯のペースとなる。冬は雪のため機動力のある車を使わず鉄道で行く
ので、あまり数をこなせない。だから、春夏秋の季節に209湯の九割がた集中
して温泉にはいったことになるのである。
あるていどまとまった休みがとれる自由業ではない、週末と有給休暇のやりくり
しかないシガナイ「サラリーマン」の分際で、である。年に209湯・・・ああ
これはもう正真正銘能天気まちがいなく亡国の徒、折り紙ビラビラ付きの温泉バカ
ヤロウだ。
その異常な数の温泉をこなした平成11年をピークに徐々にペースダウンして
いる。
よしよしそうであろう、さすがのオマエさんもようやく改心して更生し始めた
のか、とカン違いしないでほしい。
よっぽど気に入った温泉でないと何度もいくことはない。たんに、フツーの週末
だけを使って行ける近場に、行ったことのない温泉があまりにも減っただけなので
ある。
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