本日は本ブログにてひさかたぶりの紹介となる天龍道人の作品の紹介です。
以前はネットオークションから容易に入手できた天龍道人の作品ですが、現在ではいい作品が市場には見当たらなくなりました。屏風や襖から剥がしたようなまくりの状態のいい作品が廉価にて入手できたのですが、流石に品薄状態なのか、さほど高く売れないので市場に出ないのかは分かりません。
当方ではネットオークションが始まりの頃のいろんな作品が出回ったいい時期に蒐集できたと思っています。
天龍道人の作品においてはもちろん葡萄を描いた作品で著名ですが、鷹を描いた作品、長崎派の影響を受けた極彩色の作品、山水画の作品などもあり、各々出来の良いもののあります。
葡萄を描いた作品に比して鷹を描いた作品は少なく、山水画になるともっと少なくなります。本日の作品は77歳の頃に描いた作品ですが、天龍道人にとっての77歳は画人としては初期の頃の時期です。
葡萄二鷹図 天龍道人筆 77歳 その43
紙本水墨 軸先木製 合箱
全体サイズ:縦1940*横680 画サイズ:縦1260*横530
賛には「七十七叟天龍道人□□寫之 押印」とあります。
天龍道人の作品紹介は本日で43作品目となり、幾度となく画歴について記述していますが、あらためて画歴は下記のとおりです。
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天龍道人:日本画家。姓は王。名は瑾、子は公瑜、通称は渋川虚庵、別号に草龍子・水湖観。鷹・葡萄の画を能くした。
肥前鹿島(佐賀県鹿島市)の出身で、一説では九州鍋島藩(佐賀)の支藩・鹿島藩家老の板部堅忠の子とされる。天龍道人は鍋島藩の主家に当たる龍造寺隆信の七世下の孫にあたる。
半生の詳細は明らかでないが19歳の時に京に出て、絵画と医術を習い、京では勤皇の活動をしていた。30歳代、40歳代頃には京都の尊王論者、山縣大弐のもとで活動をおこなっていたとされるが、時期早しと言うことで、44歳の時温泉と風向明媚な信州諏訪湖の近くに住み着いた。
54歳のころから絵に専念し、74歳の頃からは諏訪湖が天龍川の水源であることにちなんで「天龍道人」と号した。50歳代から死去する93歳までの後半生、画歴の詳細は明らかでないが、確認される作品は50歳代以降の後半生、信州で制作したもので、鷹と蒲萄を題材とした作品を得意とした。天龍道人は諏訪に来てからは、渋川虚庵と称していた。龍道人は鷹と葡萄の画家とも言われる様に、葡萄の絵はかなり多いそうですが、鷹の方は少なく、山水画の方はもっと少ない。文化7年(1810)歿、93才。
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ところで、この絵は鷹? どうも鷲のようでもあるのだが・・・。通常の天龍道人の鷹の作品とは雰囲気が違う描き方ですね。
一応「鷹」としておきましょう。天龍道人の鷹の絵はこの頃よりもっと後年の方がいい作品を描いています。
天龍道人の鷹画に関しての考察は下記のとおりです。
鷹を描いた作品で製作時期がもっと早いのは安永5年(1776年)59歳作の「鷹鶉図」と思われます。鷹を描いた作品は水墨で描いた作品との濃密な色彩でもって描いたものとあります。
鷹画は、葡萄図と同じように絵画制作時期の早い時期から晩年まで描いていますが、葡萄よりは綿密で手の込んだ描写になりますので、晩年になるにつれて作品は少なくなっていきます。
天龍道人は、鷹を飼っている鷹匠の家で生態を観察して、様々な鷹の姿を描いたと言われていますが、その詳細は確認できていません。ただし、天龍道人が描いた鷹には線の文様が縦方向のものと横方向のものが見られ、若鳥では縦方向に縞模様となり、成鳥になると羽が生え変わって横方向になるようです。天龍道人は、若鳥と成鳥を描き分けていることが確認できます。
天龍道人は沈南蘋門人の熊斐に学ぶとされますが、作品にもその影響が見られます。熊斐は天龍道人より6歳年下ですが、熊斐と天龍道人の作品を比べると天龍道人の鷹画は、明らかに写実性が低くなり、装飾化が進み整えられた鷹画になっています。70歳頃の鷹画のようが南蘋派の傾向の強い画風となっているように思わらます。
上述のような若い鷹と成鳥との区別がされるのはもっと後年になってからの作品のようです。この作品は前述のように長崎派系統の影響が見られますが、写実性より装飾性が高い画風となっています。
いずれにしても天龍道人の作品中では珍しい画風の作品です。だいぶ傷んでいますが貴重な作品と言えるのでしょう。
天龍道人の作品はかなりの数がインターネットオークションによって市場に出回りました、当方でも50点近い作品が入手できましたが、ぞんざいに保管されていたり、襖や屏風の作品が多く、その多くはまくりの状態で市場に出てきています。
表具されていてもボロボロであったり、浮きやシミが酷いものも数多くありますので、作品の多くは修復を必要としてます。今回は下記の作品を修復しました。
月下葡萄図 天龍道人筆 80歳頃
紙本水墨軸装 軸先木製 合箱
全体サイズ:縦2015*横597 画サイズ:縦1341*横508
この作品は当時の紙表具を尊重し、おおよそはそのままとし、虫喰いの跡や剥がれなどを補修しました。どの程度の補修にするかは表具師さんとよく打ち合わせするのが良いでしょう。
補修+紐交換 5,000円
多当紙新調 1,000円
このような掛け軸のメンテを行うのは蒐集する者の務めですね。