夜噺骨董談義

収集品、自分で作ったもの、見せていただいた品々などを題材に感想談など

葡萄図-15(双幅) 天龍道人筆 その27

2015-12-05 09:58:49 | 掛け軸
ドライバー気取りの我が息子・・、運転席から動こうとしません。「お~い、アクセルとブレーキに足が届いていないよ」。「ん? 前が見えていないらしい。」



さて本日は天龍道人の「その27」です。

掛け軸という骨董のジャンルでは「良き作品がきちんと保管、維持されていないケース」が多いようです。箱がなくなっていたり、軸先がとれてなくなっていたり、掛け軸を掛ける紐が切れていたり、さらに悪くなると表具がボロボロであったり、絵全体にシミがあったり、表具のない「まくり」の状態であったりしていることが多いです。

その理由は「掛け軸のメンテにコストがかかること」、「取り扱いに慣れていない人が所蔵していたケースが多いこと」によるのと、戦後の疎開や満州の引き揚げなどでは、「まくりにして掛け軸やふすまや屏風の表具を無くして持ちやすくして運搬したケース」も考えられます。

そのような中途半端な状態の掛け軸は市場で廉価で取引されています。それらを資金の許す範囲で当方では蒐集していますが、本日は天龍道人の「まくり」の状態の作品です。天龍道人には珍しい二幅対の作品ですが打ち捨てられるかのごとく「まくり」の状態で売られていました。

基本的には状態の良い掛け軸を購入することをお勧めします。理由はむろん修復にコストがかかることもありますが、大事にされていた作品は真作の確率が高く、粗末にされていた作品は贋作の確率が高いということです。廉価といえ「安物買いの銭失い」になりかねません

本日は天龍道人の「その27」で、まくりの状態での入手です。

葡葡萄図-15(双幅) 天龍道人筆 その27
紙本水墨軸装(まくりで購入) 軸先木製
全体サイズ:縦*横(未表装) 画サイズ:縦1390*横640



「まくり」の状態での入手ですのでまったくもって来歴は不明です。もともとが掛け軸なのか、襖や屏風なのかも不明ですが、おそらく襖ではなく掛け軸や屏風であった可能性のほうが高いと思います。



葡萄の画家と言われた天龍道人の作品で、「八十八□□天龍道人□□筆」とあり、印章は白文朱方印「天龍道人」、「□□鎮東□庫之□□」が押印されています。天龍道人が88歳の最晩年の作です。

88歳ですよ。しかも幕末の・・・、元気ですね、負けていられませんね。



「葡萄図-14 天龍道人筆 その25」と同一文字の印章が押印されていますが、明らかに違う印影で別の印章を使用したと推察されますが、82歳頃と88歳頃で異なる印章を使用してた可能性が高いと思います。なお製作時期が最晩年の作品は「枯淡の作」と称されています。

結実前の時期と葡萄の実の時期が終わった時期を描いた稀有な作品ですが、天龍道人が九十歳に描いた「天龍道人一代の傑作であるばかりか、万古の傑作、葡萄画人の面目の作」と称せられる一月から十二月までの葡萄の様子を各一図、計十二枚描いた「葡萄図 六曲一双」の作品中の十二月の「老蔓偃雪図」、六月の「繁葉帯雨図」と近似した作品です。

一二月?が右幅。



六月?が左幅。



右幅「古憂□猟雪 香図□白□ □□□□□ 菓□□珠□」
  「古藤帯雪色 支蔓氷骨清 人画尤多趣 題詩豈無常」(「葡萄図 六曲一双」 十二月の「老蔓偃雪図」の賛)



左幅「菓結翠珠□ □密緑□濃 最憐多佳趣 菓下起清風」
  「実結漸為玉 磊河緑水晶 繁陰蔵白色 葉々起微風」(「葡萄図 六曲一双」  六月の「繁葉帯雨図」の賛)



両作品は漢詩の字句も似ています。冬枯れの樹木と実をつけ始めた頃を描くことで中央に葡萄の結実を創造させる狙いの作品ですね。



双幅にして掛けたら・・・。



ありきたりの葡萄の作品と侮ってはいけません。詩書画一体の傑作・・?? ところで詩の意味は?? いまだに読めず



ん~、勉強不足を痛感。



蔓枝の筆力の躍動感は五十代、六十代の作品と比較すると別人の観があり、筆力は老境に入って却って益々壮者を凌ぐものがあります。人間は晩年にはなにか打ち込める仕事や趣味があると元気で長生きできそうです。



さてお金をかけて表具すべきか否か・・・、天龍道人の作品は保存が悪くほぼ半数が修復、もしくは再表具が必要な作品です。完全な状態での入手は当方の資金力では難しく、難点のある中からいいものを選んでいますので、「補修に費用がかかる」ことが付き纏います。

骨董の蒐集は車の運転と同じ、向かうべき目標があって、資金という燃料があって、ケースによってハンドルで向きを代え、蒐集すべき時にはアクセルを踏み込み、勉強すべき時にはブレーキを踏む。信号や標識で確実に判断して、コンプライアンスや基本を遵守して贋作や駄作を入手しないことです。






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