
と言っても、ノンアルコールのティーである。以前は自宅でコーヒーを控えていたのだが、最近は朝にミルクを入れて飲む。何度かこの黒い粉を淹れる事に凝って、その都度飲み過ぎて胃を悪くしたものである。ミルクのお陰でコーヒー中毒にもならず、心意性の胃潰瘍も併発していない。日本茶も煎茶から抹茶までと欠かさない。煎茶は人に倣って、飲酒の後の寝る前に飲む。適度なカフェインが効きアルコールの興奮が落ち着いて寝つきが良くなるようだ。薄茶は余り頻繁に淹れないが取って置きにしてある。作法お構い無しに美味しく点てる工夫をしている。抹茶の質や新しさにも依るが茶の甘味は独特で格別であり、強いカフェインの効く瞑想の一時を過ごせる。紅茶も葉をポットで淹れると注ぎ切ることが中々難しい。客人などがいなければ、葉の入った中の筒を茶が出たら直ちに取り外す方式で最高級のダージリンまでを淹れる。上手く入れることが出来る。
元々ハーブティーには興味が無かったのだが、炭酸入りの水を購入して飲むよりも安上がりで且つ楽しめることが分かり、何種類かは買い置きがある。先ずは何よりも、ハーゲブッテという鳥が突く様な赤い実のバラの実から出来たティーである。その実の色のように大変酸っぱく馴染みが悪いので、ハイビスカスが混ぜてある。これを公証人の事務所で初めて飲んだ。「利口者」という苗字のこの公証人は、ドイツ人には珍しくユーモア溢れる外見を持っている。面長で長身の彼は、それでも角々しくも痩せぎすでもなく、お年の割りに足取り軽く飄々としている。芝居やオペラブッファ等でおなじみの公証人タイプだが嫌味が無く頬を赤くした笑顔が天真爛漫だ。その彼が席に着き公証の内容を読み上げるときに自ら口にするのがこの赤く透き通ったティーである。独特の節をつけて、ところどころ電撃の如く端折りながら、一同の顔を窺いつつ質問を交えてガラスのポットのこの液体を振る舞い、自らも咽喉を整える。僅かの清涼感以外に殆ど効用もありそうにないが、鳥が突く如く、ピーチクパーチクと囀りのエキスが入っていることはこれで確認出来た。これを真似てティーバックでポットに淹れると、何時も彼の公証人先生のお顔が浮かんで長い座業の合間の気分転換にはとても好いのである。