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天文三つの法則で、ガリレオの地動説を理論的に援護し、ニュートンの万有引力を準備した天文学者兼数学者(1571-1630)。観測結果の精度が出ない間、光学系の研究も進める。視力に関しての論文は、最初期のものという。シュトッツガルト近郊のヴァイル・デア・シュタットの兵卒と旅館賄いの長男。幼くして、数学の才能を示し、当時の高名な天文学者のいるシュヴァーベンのテュービンゲン大学に学ぶ。ギリシャ語からヘブライ語の文献へと学識を広げる。新教的信仰の中にコペルニクス的宇宙観をもち、ピタゴラスやユークリッド数学を用いその構築を厳密数学的に追求していく。蜂の巣からの多面体の解析も業績。火星の観測から楕円軌道を推測するが、第三法則の出版まで10年近くの歳月を要する。その間、思想の革新性からグラーツへの移転を余儀なくされる。観測精度不十分のため高名な天体観測者チコ・ブラーエを訪ねプラハへ転居。二度目の妻を娶り、挙式を挙げることになった。彼は、晩餐のために樽でワインを大量に注文する。その際、形状の違う樽に関わらず穴から棒を突っ込み量を測る方法を見て疑問に思う。三日三晩の試行錯誤の末、厳密な計測の計算式を編み出す。微細な曲線部分は、微分の概念で計算していく。これら計算式や素材などは現在でも観覧できる。
彼の更なる研究は、こうして完成されていった。ガリレオの地動説に即、賛辞を送った彼は、ガリレオの父であるヴィンツェンツォの音楽論文を彼の著「宇宙の調和」で扱う。その音楽論文は、ヘレニスム的思考に立ち、中世教会調を元にした多声からの脱皮と12音や5度8度4度などの音響的調和を解析する。デカルトに尋ねるまでもなラモー以降の和声理論に直接の影響を与えた。この「宇宙の調和」を基に20世紀の作曲家ヒンデミットがオペラ(管弦楽)を作曲している。
ワインの内容量に疑問を差し挟む事になった、シュヴァーベン地方の合理性と倹約と実験精神は、現在も同地方のメルセデス社他の機械産業や教育・研究施設に脈々と流れるのを容易に見出すことができる。